鋭敏な俺と愚直な君

奈月沙耶

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第三話

昼下がりの衝撃(2)

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 そんなことを考えた翌日の土曜日には、高校時代の友人に会った。
「まあ、おまえは営業に向いてるよ。オレが保証する」

 高校で仲良くなった望月は、進学したのもふたりとも名古屋の大学で、実家を離れて遠方に下宿している者同士、大学時代にもときおり会って遊んでいた。自動車免許も向こうで同じ教習所で取ったりした。まずまず親しい友人のひとりだ。

 大手自動車メーカーに入社し、研究開発職志望だったが研修ではショールームにも回され、営業成績を出さなくてはならなくて大変だったという話を聞いて、世知辛いなあと渉は感じる。
「親戚に頼み込んでなんとか、だよ」
「あー、そうなるよなあ。厳しいな」

「だろ? おかげで希望通り開発室に行けることになったけど」
「良かったじゃん」
 大学で自動運転装置の勉強をしていたらしく、それを仕事に活かしたいと以前から話していた。社会貢献にもなる立派な仕事だ。渉はちょっと羨ましくなる。

「でもどうなんだろうなあ、おまえ人の顔色窺うとこあるじゃん? 相手の迷惑考えずにぐいぐい勧める図太さが必要だよな、営業って」
「そうそう。俺、ナイーブだから」
「自分で言うなって。でもほんと、しんどくないか?」
「今はまだそれほど」
 さいわい、客先とトラブルになったことはない。質の悪い客にかち合ってしまう「事故」にあったこともまだない。そういう苦労もこれからなのかもしれないが。

 多分、自分は「そこそこ」の人間なのだ。「そこそこ」観察力があって、「そこそこ」弁が立って、「そこそこ」愛想がよくて、「そこそこ」頭が良さそうに見える。だから相手に警戒を与えず受け入れてもらえる。
 先輩営業マンの川村も同じタイプなのだろうと渉は思う。川村は人の良さだけで相手の懐に入り込んでしまうようなところがある。遠藤も、ああ見えて目上の人間に対しては礼儀正しいから、あの調子のいいところを気に入ってさえもらえればお得意様を開拓できそうだ。昔気質の年配の工場経営者たちは遠藤のような若造をかわいがる傾向があるし。
 そんな客先との相性に関係なく、交渉術だけで契約をもぎ取るのが清水だ、と渉は思う。営業マンの鑑、彼を手本にするべきなのだろうけど、と思う。

「オレらまだまだひよこだしな」
「だな」
「そんななのに、あれなんだけどさ」
 アイスコーヒーのグラスのストローを口からはなして渉が目を向けると、望月は緊張した様子でいったん口を引き結び、それからおもむろに言った。
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