隷属少女は断れない

奈月沙耶

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10.公園にて

10-2

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 またクレアに見送られてフィッティングルームに入り、正しい着用の仕方を教えてもらった。
「慣れないうちはホック掛けるのが大変だろうけど」
 でも、今まで身に着けてきた頼りないつくりのブラとは違う。背中側の幅もしっかりしていて、背骨がしゃきっとなる気がした。

「市販のものだと胸の重さに負けて背中側が上がったりしちまうけど、てこの原理で支えるわけだから、必ず水平かそれより下の位置にすること」
 鏡を見ながら細かく説明されると、下着も物理学なのだなと感心してしまう。
「洗濯はつけおき洗いでね。夜風呂のついでにやるといいよ。タオルで水気を取ってハンガーに吊るしておけば朝には乾く。……さあ、服を着てごらん」

 ボタンをはめながら明らかにブラウスの胸周りがだぶついているのがわかった。それだけ胸元がすっきりしたのだ。由香奈は嬉しくなる。
「服もワンサイズ落とすといいよ。若いんだからすっきりした着こなしの方がいい。それを着けてりゃ人の手がちょっとかすったところで気にならないよ。なにせプロテクターだからね」
 ミチルさんはにやりと笑う。テーブルに戻ると、由香奈を見たクレアも満足そうに笑った。

「由香奈、もう猫背じゃなくなってるよ」
 自分でも背筋がぴんとして気持ちいいのを感じる。そのまま軽い足取りでマンションの前でクレアと別れ、由香奈はバイトに向かった。

 しかしいざ街を歩いてみると、まだ少し時間がある。由香奈は迷った挙句に、以前にも時間を潰した公園に行ってみることにした。

 総合遊具が置いてある芝生の上で今日も小学生がシャボン玉を吹いていた。その手前では、長身の男性と細い体の男の子がキャッチボールをしていた。
 公園の入り口からしばらく眺め、由香奈はあれ、と思う。男の子とキャッチボールしているのは春日井だ。マンションに越してきた、藤堂の甥の。

 由香奈はその場に突っ立ったままキャッチボールの様子を見る。
 にこにこと明るい笑顔でボールを投げる春日井とは対照的に、男の子の方はぶすっと不機嫌な顔をしている。まるで嫌々やっているような。でもどう見ても男の子の方がボールをキャッチする所作や投げる動きが年長の春日井より様になっている。上手なんだろうな、と感じさせる。

 そんな男の子の頬が段々とほころんでくるのが由香奈にも見て取れた。ふとした拍子に笑顔がこぼれる。
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