天使と悪魔

奈月沙耶

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15.天女の羽衣

15-5

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 でも駈は生まれた。彼女によく似た男の子。父親の達彦にも似ていて(当たり前だ)、伯父の巽にも似ている(血縁だから仕方ない)。
 父親の自分も舌を巻くほど賢くて、油断できないほど鋭い、なのに子どもらしく純真で。出会ったばかりの、美登利はそんなふうだった。だがそれも跡付けな理由で。
 単純に愛おしかった。ひねくれ者な自分でも、それは認める。愛する存在が、この世にひとつ増えたのだ。
  ――順序を逆にして言い訳にしているようね。家庭を持つことでしっかりできるようになるの。
 今は昔、城山苗子に説教された通りになったので、それは反抗心もなくなるというものだ。




 しんと静まり返っている子ども部屋を覗いてみると、美登利は駈の隣に潜り込んで一緒に眠っていた。寝顔だけなら傍らの我が子と変わらない、少女みたいにあどけなかった。

 三人がかりだ。ばかりかそれぞれの子どもを得て、それでも不安は消えない。奪われ、失う。その悪夢が付きまとう。

 子どもを持って、安定したのはむしろ男たちの方だとはなんの皮肉なのか。それならどうして彼女は子どもを産みたがったのか。羽衣と、引き換えにするつもりではないのか?
 逆説で考えてみるのは達彦にとってはもうクセのようなもので、そちらが真理のようにしっくりきてしまうのは、悪魔的な兄妹と戦ううえで仕方のないことである。

 彼女が破滅するなら、達彦は間違いなく後を追う。魔王とふたりきりになどさせるものか。だが幼い息子を見ると決意は揺らぐ。
 結局のところ現実的にならざるを得ない。現実的に、絶対に、彼女を境界線の向こうへは行かせない。

 だからいくらでも泣きついてほしいと思う。どんな罵詈雑言も受けとめるし、殺されたって文句は言わない。いちばん最初に兄妹を追い詰めた、それが自分の役割だから。




 寝起きのいい駈は毎朝ぱちりと目を覚ます。いつものようにベッドの上でむくりと起き上がり、そして感じた。お母さんの匂いがする。

 きちんと着替えをしてからリビングへ行くと、お父さんがまだ眠そうな顔で新聞を広げていた。
「おはよう、お父さん」
「うん」
「お母さんは?」
「ちょっと前に帰った」
「そっか」
 残念だけど別にいい。一緒に眠れただけで嬉しいから。

「話したのか?」
「ううん、会ってないよ。でも夢を見たから」
「…………」
 お父さんは真顔で駈をじっと見つめる。
「なに?」
「おまえは大丈夫かと思って」
「なにが?」
「なんでもない。さて、朝メシは何にする?」
「今日はコーンフレークの日だよ、お父さん」
 朝食の準備を手伝うために、駈はキッチンへと向かった。
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