44 / 54
14.天ぷらと意地
14-2
しおりを挟む
美登利が不義の子ども(世間的には)を出産したと聞いたとき、誠の父親は激怒した。当然の反応だ。
生まれたのは女の子で、男親がひとりで育てると言っているのだから、一ノ瀬家には関係のない話だ、と誠が説明すると、まるで見知らぬ怪物を見るような目付きで見られた。何を今さら。父親という立場の人は、いつも気づくのが遅い。
おまえが甘い顔をしているからやりたい放題されるんだ、と罵られたが、それも今さらだった。父親自身よく知っているくせに。
同時期にこの高台の住宅地に越してきた同じような中流家庭同士、宮前家も交え長年親しくしてきた間柄だ。そして力関係は、どちらかといえば中川家の方が強い。
中川の義父は、学生の頃に両親を亡くし、保護者であった祖父母も成人前に他界したそうだ。苦学生で働きながら大学を卒業し、いよいよと金融界に躍り出た。規模は小さいが堅実さで信用度が高い地元銀行の渉外係として着実に成績と階級を上げ、常任理事という役職までのぼりつめた。
誠実で忍耐強く穏やかな人柄の義父はどこへ行っても信頼される。そこはまるで違うが、天涯孤独な生い立ちは村上達彦と重なると誠はずっと思っている。口に出したことはないが。
義母の雪絵は旧家の出身でその縁故も侮れない。そして何より兄の巽の存在は大きい。天才と名を馳せる地元の有名人、現在の動向はヴェールに包まれているが影響力は計り知れない。
トンビがタカを産んじゃった、とは雪絵がよく口にする言葉だが、父親がツメを隠したタカなのだから当然だ。そして兄がタカであるなら妹はクジャクだった。美しくて獰猛なクジャクだ。でもそれも不思議ではない、中川家は美形の一家としても有名だから。
そして懇意にしている間柄の一ノ瀬家と宮前家には息子がひとりずつ。どちらが中川家の愛娘を嫁に貰うか、当の本人たちが幼少の頃から両家はけん制しあっていたわけである。特に母親同士が見えない火花を散らし合っているのになんとなく気づいてはいた。
美登利を挟んで本人同士もライバル意識を持っていたのは間違いなく、誠は随分と宮前仁に嫉妬したものだ。口に出したことはないけれど。
だから誠と美登利が入籍したときには両親は有頂天だった。父親はまだそれほどでもなかったが、母親は「どうして式を挙げないの? みどちゃんの花嫁姿見たかったなあ」と雪絵と同じレベルで残念がっていた。
生まれたのは女の子で、男親がひとりで育てると言っているのだから、一ノ瀬家には関係のない話だ、と誠が説明すると、まるで見知らぬ怪物を見るような目付きで見られた。何を今さら。父親という立場の人は、いつも気づくのが遅い。
おまえが甘い顔をしているからやりたい放題されるんだ、と罵られたが、それも今さらだった。父親自身よく知っているくせに。
同時期にこの高台の住宅地に越してきた同じような中流家庭同士、宮前家も交え長年親しくしてきた間柄だ。そして力関係は、どちらかといえば中川家の方が強い。
中川の義父は、学生の頃に両親を亡くし、保護者であった祖父母も成人前に他界したそうだ。苦学生で働きながら大学を卒業し、いよいよと金融界に躍り出た。規模は小さいが堅実さで信用度が高い地元銀行の渉外係として着実に成績と階級を上げ、常任理事という役職までのぼりつめた。
誠実で忍耐強く穏やかな人柄の義父はどこへ行っても信頼される。そこはまるで違うが、天涯孤独な生い立ちは村上達彦と重なると誠はずっと思っている。口に出したことはないが。
義母の雪絵は旧家の出身でその縁故も侮れない。そして何より兄の巽の存在は大きい。天才と名を馳せる地元の有名人、現在の動向はヴェールに包まれているが影響力は計り知れない。
トンビがタカを産んじゃった、とは雪絵がよく口にする言葉だが、父親がツメを隠したタカなのだから当然だ。そして兄がタカであるなら妹はクジャクだった。美しくて獰猛なクジャクだ。でもそれも不思議ではない、中川家は美形の一家としても有名だから。
そして懇意にしている間柄の一ノ瀬家と宮前家には息子がひとりずつ。どちらが中川家の愛娘を嫁に貰うか、当の本人たちが幼少の頃から両家はけん制しあっていたわけである。特に母親同士が見えない火花を散らし合っているのになんとなく気づいてはいた。
美登利を挟んで本人同士もライバル意識を持っていたのは間違いなく、誠は随分と宮前仁に嫉妬したものだ。口に出したことはないけれど。
だから誠と美登利が入籍したときには両親は有頂天だった。父親はまだそれほどでもなかったが、母親は「どうして式を挙げないの? みどちゃんの花嫁姿見たかったなあ」と雪絵と同じレベルで残念がっていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる