天使と悪魔

奈月沙耶

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10.クシコス・ポスト

10-2

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 フレーフレーとまっすぐ伸ばす腕も指先まで神経が行き届いてきれいだ。花梨は敵である白組応援団長の雄姿に見ほれる。
「カッコイイよねえ。真凛さん」
 ついさっき和樹のことをカッコイイと言ったクラスメイトも簡単に乗り換える。仕方ない、女子上級生がきれいでカッコイイのだから。

 応援合戦が終わると、次は花梨たち三年生の表現ダンスだ。現代風にアレンジした民謡の曲に合わせ、腰を落としてリズムを取る。
 曲の切り替わりで列からばらけトラックのラインに沿って楕円形に大きく丸く並ぶ。ロープの向こうでカメラを構えている保護者たちに向かってキメポーズを繰り返す。

 たいていの児童たちは、このとき自分がどの位置に来るかを親に伝えてある。花梨のお父さんもまさにその場所でムービーカメラを構えて待っていてくれた。
 片手で小さく手を振るお父さんに笑顔を返して、花梨は心の中で大きく頷く。やっぱり花梨のお父さんがいちばんカッコいい。

 午前中のプログラムが終わり、担任の先生のお話の後、お父さんお母さんのところに昼食を食べに向かう。
「リナちゃん」
 花梨は前を歩くクラスメイトに声をかける。
「パパいる?」
「うん、あそこに」
 振り返ったリナはにっこりして場所を指差す。
「花梨ちゃんちは?」
「来てるよ。また後でね」
「うん!」

 元気よく別れたところで、お父さんが花梨を迎えに来てくれた。
「いつもどおり体育館でいいよな?」
「うん、涼しいし」
 運動会のときには毎年決まった場所でお弁当を食べるから、向かった先には和樹と和樹のお父さんが既にお弁当を広げていた。

「ほら、これ」
 通路の水道で手を洗ってきて座った花梨に、和樹がサンドイッチが詰まったランチボックスを差し出してくる。断面がとてもカラフルなサンドイッチだ。
「お母さんが作ったの?」
 顔を輝かせる花梨の横でお父さんの頬が引きつる。

「大丈夫だ。調理したのは俺だ。あいつは挟んだだけ」
 和樹のお父さんに言われてほっとした様子で胸をなでおろす。大人はみんなお母さんの料理に怯える。花梨にとっては、挟んでくれただけでも立派なお母さんの手料理だから嬉しいけれど。
 ひよこの顔をしたウズラの卵がかわいくて、花梨はお父さんに写真を撮ってもらった。
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