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5.ハッピーバースデイ
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というのに。
「おじさまのチョコソースが食べたいな」
「持ってきたよ。志岐さんにもらうと良い」
「やったあ」
調子の良い妹に怒る気も失せて和樹はテーブル席の椅子に座る。そこに志岐琢磨がホールのケーキを持ってきた。
「見てみろ」
定番のイチゴのケーキ。ハッピーバースデイと和樹の名前が入っている。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
もちろん嬉しかったが、気にかかることがあって和樹はじっとケーキを見つめる。
「これ、琢磨さんが作ったんですよね」
「ほかに誰がいる?」
肩を竦める琢磨に和樹は戸惑う。だってこれは、このケーキからは、琢磨よりもここにいないはずの母親の気配を感じたから。
「ここで食べてくか?」
「……いえ。夜、家で食べます」
「じゃあ、箱に入れよう」
「え~。今お祝いしてあげようと思ったのに~」
飛んで来てテーブルに身を乗り出す花梨の頭を琢磨がポンと叩く。
「おやつ用のケーキで我慢しろ。なんならそいつにローソク立てて歌でも歌ってやりゃあ良いだろ」
「やるやる!」
本人の意思はお構いなしか。和樹はどっと疲れて背もたれに凭れる。そんな和樹のことをにこにこ笑って巽が見ていた。
「十一歳か」
「はい」
「君が生まれた日のことを覚えているよ」
思いもよらない言葉に和樹は瞬きする。
「あの子の初めてのお産だったから、みんな心配で仕方なかったんだ」
伯父は自分の妹のことを「あの子」と呼ぶ。
「普段は落ち着き払ってる君のお父さんがそわそわしててね。僕もそこまでは冷静だったけど」
ふと瞳を空に滑らせて巽は表情を和ませる。
「生まれたばかりの君の泣き声としわくちゃな顔を見たとき、あの子が生まれた朝のことを思い出した。あの子が折れそうな細い指で僕の指を握ったように、君も僕の指を握ってくれたよ。僕の一生で二度目の感動だった」
びっくりして和樹は固まる。そんな話は初めて聞いた。
「おじさまのチョコソースが食べたいな」
「持ってきたよ。志岐さんにもらうと良い」
「やったあ」
調子の良い妹に怒る気も失せて和樹はテーブル席の椅子に座る。そこに志岐琢磨がホールのケーキを持ってきた。
「見てみろ」
定番のイチゴのケーキ。ハッピーバースデイと和樹の名前が入っている。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
もちろん嬉しかったが、気にかかることがあって和樹はじっとケーキを見つめる。
「これ、琢磨さんが作ったんですよね」
「ほかに誰がいる?」
肩を竦める琢磨に和樹は戸惑う。だってこれは、このケーキからは、琢磨よりもここにいないはずの母親の気配を感じたから。
「ここで食べてくか?」
「……いえ。夜、家で食べます」
「じゃあ、箱に入れよう」
「え~。今お祝いしてあげようと思ったのに~」
飛んで来てテーブルに身を乗り出す花梨の頭を琢磨がポンと叩く。
「おやつ用のケーキで我慢しろ。なんならそいつにローソク立てて歌でも歌ってやりゃあ良いだろ」
「やるやる!」
本人の意思はお構いなしか。和樹はどっと疲れて背もたれに凭れる。そんな和樹のことをにこにこ笑って巽が見ていた。
「十一歳か」
「はい」
「君が生まれた日のことを覚えているよ」
思いもよらない言葉に和樹は瞬きする。
「あの子の初めてのお産だったから、みんな心配で仕方なかったんだ」
伯父は自分の妹のことを「あの子」と呼ぶ。
「普段は落ち着き払ってる君のお父さんがそわそわしててね。僕もそこまでは冷静だったけど」
ふと瞳を空に滑らせて巽は表情を和ませる。
「生まれたばかりの君の泣き声としわくちゃな顔を見たとき、あの子が生まれた朝のことを思い出した。あの子が折れそうな細い指で僕の指を握ったように、君も僕の指を握ってくれたよ。僕の一生で二度目の感動だった」
びっくりして和樹は固まる。そんな話は初めて聞いた。
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