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第13話 欲しがる男
13-6.「なかったことにしてください」
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あれ、じゃねーよ。毒づきそうになるのをこらえて私は時間を確認する。
夜中の一時。四時間も眠ってしまったんだ。
レジ袋からペットボトルの水を取り出して林さんに差し出すと、彼はすんなり起き上がって水を飲んだ。
おでこのシートが取れかかって、そこで思い至ったみたいだ。
「面倒かけたみたいだ」
ほんとだよ。
「顔色良くなってますね。熱計ってみてください」
三十六度八分。すごいな、薬飲んで少し寝入っただけでここまで回復するんだ。
「おなか空いてたら、すぐ食べれるものここにありますから」
長居しても仕方ない。早々に立ち上がると呼び止められた。
「金……」
そうだ。買い物で立て替えたお金を貰わなきゃ。
そういえば、そもそもお酒が欲しくてドラッグストアに寄ったんだよなあ。飲む気分なんかじゃなくなっちゃったけど。
脱ぎ捨ててあった上着のポケットから財布を取り出して林さんは五千円札をくれた。私は笑って二千円を渡す。
「お駄賃に取っておけば?」
「嫌ですよ」
「律儀だな」
貰った分を財布にしまい、今度こそ帰ろうと挨拶しようと思ったら、コートの裾を引っ張られた。またですか、今度はなんですか。
みるみる力がこもって引っ張られる。驚く間もなく顎を掴んでキスされた。
なんですか、これ。いきなり舌入ってくるし。脳みそ沸いたの、この人。
なんて考える余裕、すぐになくなった。
頭の後ろと顎を押える手をはずそうとしたけど動かない。ごつごつとがっしりした手。今でこそ営業を担当してるけど、この人だって職人なんだ。
首筋の震えが全身に広がって肌があわ立つ。頭まで痺れてくる。
この人上手い。どんどん進めてくる。
なんでこんなコトするの。思ってももう思考がまとまらない。
キスの合間に息をもらすのがやっとで体が動かない。見計らったように節くれだった指が服の下をまさぐり始めて、もう駄目だと私は覚悟を決めた。
なんでこんなコトになったのかわからない。感覚が昂ぶりに昂って途中から頭が真っ白になった。
まだ体が重い。目の前がぼんやりする。横向きにねそべったまましばらく起き上がれないでいると、うしろから林さんの手がお腹を撫でた。
「悪い。サカッた……」
悪いって何さ。意味がワカラナイ。
そうは思っても一方的に責められない。こんなことで被害者意識を持てる年齢じゃない。事故だって思うしかない。
起き上がって脱ぎ散らかした服を拾って着る間、名残惜しそうに背中や肩を撫でられたけど知ったことじゃない。
「なかったことにしてください」
やっとそれだけ言い捨てて、まだ暗い外に出た。
早く自分の部屋に逃げ込みたい。シャワーを浴びたい。それだけを思いながら家に帰った。
夜中の一時。四時間も眠ってしまったんだ。
レジ袋からペットボトルの水を取り出して林さんに差し出すと、彼はすんなり起き上がって水を飲んだ。
おでこのシートが取れかかって、そこで思い至ったみたいだ。
「面倒かけたみたいだ」
ほんとだよ。
「顔色良くなってますね。熱計ってみてください」
三十六度八分。すごいな、薬飲んで少し寝入っただけでここまで回復するんだ。
「おなか空いてたら、すぐ食べれるものここにありますから」
長居しても仕方ない。早々に立ち上がると呼び止められた。
「金……」
そうだ。買い物で立て替えたお金を貰わなきゃ。
そういえば、そもそもお酒が欲しくてドラッグストアに寄ったんだよなあ。飲む気分なんかじゃなくなっちゃったけど。
脱ぎ捨ててあった上着のポケットから財布を取り出して林さんは五千円札をくれた。私は笑って二千円を渡す。
「お駄賃に取っておけば?」
「嫌ですよ」
「律儀だな」
貰った分を財布にしまい、今度こそ帰ろうと挨拶しようと思ったら、コートの裾を引っ張られた。またですか、今度はなんですか。
みるみる力がこもって引っ張られる。驚く間もなく顎を掴んでキスされた。
なんですか、これ。いきなり舌入ってくるし。脳みそ沸いたの、この人。
なんて考える余裕、すぐになくなった。
頭の後ろと顎を押える手をはずそうとしたけど動かない。ごつごつとがっしりした手。今でこそ営業を担当してるけど、この人だって職人なんだ。
首筋の震えが全身に広がって肌があわ立つ。頭まで痺れてくる。
この人上手い。どんどん進めてくる。
なんでこんなコトするの。思ってももう思考がまとまらない。
キスの合間に息をもらすのがやっとで体が動かない。見計らったように節くれだった指が服の下をまさぐり始めて、もう駄目だと私は覚悟を決めた。
なんでこんなコトになったのかわからない。感覚が昂ぶりに昂って途中から頭が真っ白になった。
まだ体が重い。目の前がぼんやりする。横向きにねそべったまましばらく起き上がれないでいると、うしろから林さんの手がお腹を撫でた。
「悪い。サカッた……」
悪いって何さ。意味がワカラナイ。
そうは思っても一方的に責められない。こんなことで被害者意識を持てる年齢じゃない。事故だって思うしかない。
起き上がって脱ぎ散らかした服を拾って着る間、名残惜しそうに背中や肩を撫でられたけど知ったことじゃない。
「なかったことにしてください」
やっとそれだけ言い捨てて、まだ暗い外に出た。
早く自分の部屋に逃げ込みたい。シャワーを浴びたい。それだけを思いながら家に帰った。
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