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第11話 淡白な男
11-3.事故
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「カラダでどうこうじゃなくてね、情念で絡みつくんだよ」
情念とはなんぞや。
「ほらあれ、『天城越え』の世界だよ」
「そういうのはちょっと。楽しくないのはイヤだなあ」
「コドモだねえ」
そんなこと言われたの何年ぶりだろ。
「淡白とも言える」
俯いて弥生さんは上目遣いに私を見た。
「そういうとこ林と重なる」
「私がですか?」
ぎょっとして訊き返す。
いやいや、ちょっとそれは……。
「似たもの同士なにおいがするもん」
ぷくっと弥生さんは頬を膨らませる。酔ってるなあ、これは。
「うっすいんだよね、あの男は。感情が。何考えてるかわからないでしょう?」
蒸し返すの疲れるって言ったくせに。
「エッチは上手いけど、やっぱりどこか淡白だし」
やーめーてーくーだーさーいい。
思わず耳をふさぎたくなっているとトドメを刺された。
「紗紀子ちゃんもそうなんじゃないの? 年下彼氏くんたち、実はみんな寂しかったんじゃないの?」
驚いた。そんなふうに考えたことなかった。
「男だってバカじゃあないからね」
くつりと笑って弥生さんは頬杖をつく。
「そうは言ってもバカな男が好きなんだけど、私もさ」
弥生さんはオトナな女の人だ。そりゃあ私はまだまだコドモに見えるんだろうな。
それはなかなか嬉しい発見だった。
土日も圭吾くんから音沙汰はなかった。
絵美も詩織もそれぞれお付き合いに勤しんでいるから、私は久々にひとり静かな週末をすごした。
クリスマスも至って呑気に普段通りに時間がすぎた。
出勤すれば年末年始の調整に忙しい。これが一段落すれば、ぱったり落ち着いて正月気分になだれ込むのだけどな。
元旦には実家に顔出さないとなあ、嫌だなあ、なんて考えながらファックスを送っていたら、工場の方から地響きのような音が聞こえてきた。
ちょっと普通の音とは違う。はっと顔を見合わせて由希ちゃんと私は工場を覗きに行った。
カートから少し浮いた位置で、クレーンで吊り上げた鉄骨が崩れて傾いている。まずい。
ヘルメットを被った社員さんたちがわらわらしている中で、林さんが樋口さんという従業員さんの体を横たえていた。
下敷きになったわけではない。見たところ意識もある。だけど立ち上がれないようだ。
「救急車は!?」
「呼んだよ!」
工場長の鈴木さんの返事を聞き私は通りの方へ向かった。救急車を誘導するためだ。
救急車が到着して運び込まれた樋口さんに同行しようとしたけど、林さんに止められた。
「俺が行く。いろいろ書類がいるだろ。揃えて後から持ってきて」
頷いて私は林さんと交代し、樋口さんの保険証のコピーや諸々の書類を準備してから、由希ちゃんに留守を任せて近くの総合病院に向かった。
情念とはなんぞや。
「ほらあれ、『天城越え』の世界だよ」
「そういうのはちょっと。楽しくないのはイヤだなあ」
「コドモだねえ」
そんなこと言われたの何年ぶりだろ。
「淡白とも言える」
俯いて弥生さんは上目遣いに私を見た。
「そういうとこ林と重なる」
「私がですか?」
ぎょっとして訊き返す。
いやいや、ちょっとそれは……。
「似たもの同士なにおいがするもん」
ぷくっと弥生さんは頬を膨らませる。酔ってるなあ、これは。
「うっすいんだよね、あの男は。感情が。何考えてるかわからないでしょう?」
蒸し返すの疲れるって言ったくせに。
「エッチは上手いけど、やっぱりどこか淡白だし」
やーめーてーくーだーさーいい。
思わず耳をふさぎたくなっているとトドメを刺された。
「紗紀子ちゃんもそうなんじゃないの? 年下彼氏くんたち、実はみんな寂しかったんじゃないの?」
驚いた。そんなふうに考えたことなかった。
「男だってバカじゃあないからね」
くつりと笑って弥生さんは頬杖をつく。
「そうは言ってもバカな男が好きなんだけど、私もさ」
弥生さんはオトナな女の人だ。そりゃあ私はまだまだコドモに見えるんだろうな。
それはなかなか嬉しい発見だった。
土日も圭吾くんから音沙汰はなかった。
絵美も詩織もそれぞれお付き合いに勤しんでいるから、私は久々にひとり静かな週末をすごした。
クリスマスも至って呑気に普段通りに時間がすぎた。
出勤すれば年末年始の調整に忙しい。これが一段落すれば、ぱったり落ち着いて正月気分になだれ込むのだけどな。
元旦には実家に顔出さないとなあ、嫌だなあ、なんて考えながらファックスを送っていたら、工場の方から地響きのような音が聞こえてきた。
ちょっと普通の音とは違う。はっと顔を見合わせて由希ちゃんと私は工場を覗きに行った。
カートから少し浮いた位置で、クレーンで吊り上げた鉄骨が崩れて傾いている。まずい。
ヘルメットを被った社員さんたちがわらわらしている中で、林さんが樋口さんという従業員さんの体を横たえていた。
下敷きになったわけではない。見たところ意識もある。だけど立ち上がれないようだ。
「救急車は!?」
「呼んだよ!」
工場長の鈴木さんの返事を聞き私は通りの方へ向かった。救急車を誘導するためだ。
救急車が到着して運び込まれた樋口さんに同行しようとしたけど、林さんに止められた。
「俺が行く。いろいろ書類がいるだろ。揃えて後から持ってきて」
頷いて私は林さんと交代し、樋口さんの保険証のコピーや諸々の書類を準備してから、由希ちゃんに留守を任せて近くの総合病院に向かった。
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