19 / 110
第5話 認めない男
5-2.前振り
しおりを挟むうちらの仲間内で誰よりも早く結婚したのが、晃代だった。もう三年前になる。披露宴で、うちらには似合わないアイドルグループの曲を歌って踊ったことも良い思い出だ。
働くのが嫌だと豪語していた晃代は、派遣先の企業でエリート候補生をゲットし絵に描いたような寿退社でゴールインしたのである。
結婚適齢期なんてコトバは廃れて久しいけれど、若さでキラキラした晃代の花嫁姿は、それはそれは美しかった。
仲間の中からひとり結婚すればゾロゾロ続くというけれど、そこで後続者が出なかったのが、私たちの私たちたる所以だ。
仕事のノウハウが身に付いてやりがいが出てきて、少ないながらも自分の稼いだお金で自由に遊べる。結婚という束縛より独身貴族の自由の方が魅力だったのだ。
結婚ラッシュの波は仲間内で三度は訪れるというが、悲しいかな二度目の波は一向に興りそうもない。
やっぱり私たちはハズシテしまっているのだ。ひとり真っ当に安定軌道に乗ったはずの晃代の方が、取り残されたようになってしまっているのだから。
「子どももまだだし自由が利かないわけじゃないんだよ。ダンナもたまには遊んできなよって言ってくれるし」
「なら声かけてよ。うちらなんかいつだって暇なんだから」
「そうだよぉ。アキちゃんが言ってくれたらいつでも集まるよ」
晃代のただならない様子に不安になった私は、詩織にもファミレスに来てもらった。
「そう言ってもらえて嬉しいけど、でもあたしなんか、みんなと話が合わないでしょう?」
「そんなことないさ。高校時代の話だってするし、テレビの話だってするし、食べ物の話だってするし」
「あたしなんか、すっかり世間から取り残されちゃってる感じでさ」
おいおい。どうしちゃったんですか、この人。何が言いたいんですか。
……まあ、大体何があったかは想像つく。これは前振り段階だって。
コーヒーをお替りしながら辛抱強く話を聞いてあげる。すると晃代は、ようやくそれを吐き出した。
「あたしがこんなだからダンナにまで浮気されて……」
やっぱりね。ふうっと肩で息をついて私は身を乗り出す。しくしく泣き始めた晃代の背中を撫でながら言ってあげる。
「それって間違いないわけ? 相手はどこの誰さ? なんなら私がダンナも相手も蹴り飛ばしてあげるからさ、話してごらんよ」
とにかく元気づけて気持ちを吐き出させてあげないと。
「私たちはアキちゃんの味方だよ」
詩織も神妙な顔をして向かいから晃代の頭を撫でる。
「あ、ありがとぉ……」
ぐすぐすと泣きじゃくる晃代の背中をぽんぽん叩いて私は促す。さあさあ、全部吐きやがれ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。




社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる