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第3話 手近な男
3-3.妙な感じ
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考えててもしょうがない。頼んで回るしかない。
机の上の電話に手を延ばしたとき、バサッと名刺入れが降ってきた。斜向かいのデスクから林さんが放り投げたのだ。
「そこにある会社当たってみて。取引前だけど、つなぎは付けてあるから話は通る。俺は他のツテをたどってみる」
頷いて、私はのほほんとしている社長を睨む。
「社長はゴルフのお仲間に頼み込んでみてください!」
「はいいっ」
終業までの間に方々に電話をかけまくり、ファックスを送りまくって、やっとどうにか割り振れた。受話器の当てすぎで耳が痛いっ。
息つく間もなく材料の発注と部材の手配をする。図面が私には難しすぎたので、林さんに言われるままに発注書を入力していく。
送信の後も、直接電話をかけてお礼がてら納期の確認を取る。
そうしてやっと片がついたときには、とっくに終業のチャイムが鳴り終わっていた。
まだ入力途中だった日報やら何やらを、この後片づけなければならない。今日は残業だ。
とりあえず休憩がしたい。思っていると林さんが事務所を出て喫煙所に向かった。
私も事務所を出て、スマホをいじりながらベンチの隅で煙草を吸っている林さんの横に立つ。
「ありがとうございました」
特殊なケースでもない限り発注は私の仕事だ。今回は特殊なケースだといえるけど一応手伝ってもらったお礼を言う。
「仕事だし」
林さんはここでもそっけない。まあ、いいけど。
事務所に戻ってコーヒーを淹れよう。私が踵を返しかけると、林さんが不意に顔を上げた。
「田島さんさ……」
社長も社員さんたちも私や由希ちゃんを下の名前で呼ぶのに、林さんだけは名字で呼ぶ。
何か言いたそうにしている林さんに首を傾げると、彼の視線が泳いだ。駐車場の方からおつかいに出ていた由希ちゃんが走って来た。
「遅かったね。由希ちゃんがいない間たいへんだったんだよ」
思わず林さんそっちのけで話しかけてしまうと、由希ちゃんは私の腕をぐいっと引っ張った。
「紗紀子さん、残業しますか?」
「うん。やること残ってるし」
「ミルクティーおごってあげます。向こうの自販機のヤツ」
自販機なら喫煙所の横にもあるのに、由希ちゃんは私を工場の建物の向こうの自販機まで引っ張っていった。
「どうしたの?」
なんだか妙な感じに由希ちゃんの顔を覗き込むと、彼女はぎゅっと眉根を寄せて鼻にも皺を寄せていた。
「三協部品で面妖な話を聞いてしまいました……」
机の上の電話に手を延ばしたとき、バサッと名刺入れが降ってきた。斜向かいのデスクから林さんが放り投げたのだ。
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頷いて、私はのほほんとしている社長を睨む。
「社長はゴルフのお仲間に頼み込んでみてください!」
「はいいっ」
終業までの間に方々に電話をかけまくり、ファックスを送りまくって、やっとどうにか割り振れた。受話器の当てすぎで耳が痛いっ。
息つく間もなく材料の発注と部材の手配をする。図面が私には難しすぎたので、林さんに言われるままに発注書を入力していく。
送信の後も、直接電話をかけてお礼がてら納期の確認を取る。
そうしてやっと片がついたときには、とっくに終業のチャイムが鳴り終わっていた。
まだ入力途中だった日報やら何やらを、この後片づけなければならない。今日は残業だ。
とりあえず休憩がしたい。思っていると林さんが事務所を出て喫煙所に向かった。
私も事務所を出て、スマホをいじりながらベンチの隅で煙草を吸っている林さんの横に立つ。
「ありがとうございました」
特殊なケースでもない限り発注は私の仕事だ。今回は特殊なケースだといえるけど一応手伝ってもらったお礼を言う。
「仕事だし」
林さんはここでもそっけない。まあ、いいけど。
事務所に戻ってコーヒーを淹れよう。私が踵を返しかけると、林さんが不意に顔を上げた。
「田島さんさ……」
社長も社員さんたちも私や由希ちゃんを下の名前で呼ぶのに、林さんだけは名字で呼ぶ。
何か言いたそうにしている林さんに首を傾げると、彼の視線が泳いだ。駐車場の方からおつかいに出ていた由希ちゃんが走って来た。
「遅かったね。由希ちゃんがいない間たいへんだったんだよ」
思わず林さんそっちのけで話しかけてしまうと、由希ちゃんは私の腕をぐいっと引っ張った。
「紗紀子さん、残業しますか?」
「うん。やること残ってるし」
「ミルクティーおごってあげます。向こうの自販機のヤツ」
自販機なら喫煙所の横にもあるのに、由希ちゃんは私を工場の建物の向こうの自販機まで引っ張っていった。
「どうしたの?」
なんだか妙な感じに由希ちゃんの顔を覗き込むと、彼女はぎゅっと眉根を寄せて鼻にも皺を寄せていた。
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