72 / 91
18
2.会いたい
しおりを挟む
「あいつさ、おれの好きな相手のこと、おまえに話したんだってな」
「うん……」
「それ聞いて、あいつにとってどんだけ郁子が特別かはわかった。だからって、ふたりがムリして付き合うことはないと思う」
「無理だなんて……」
「おれさ」
そこで達也はやっと郁子に顔を向けた。
「告白して振られたんだ。向こうが結婚する前に。最後だからって、当たって砕けろって思ってさ。……なんて、少しは期待もしててさ。気持ち、感じないわけじゃなかったから。でもはっきり言われた。幸せになりたいから結婚するんだって」
目をしぱしぱさせて達也は郁子を見つめた。
「恋愛だってそうだよ。幸せになりたいから人を好きになるんだろ。わかってんだろ、修司といたってシンドイだけだ」
「…………」
「あいつにはおれたちも姉ちゃんもいる。おまえが心配することないから」
「なあにー? なんの話?」
戻ってきた朱美に背後から声をかけられたが、郁子は振り向くことができなかった。
「べつに」
「なにさ、スカシて」
ちょうどエレベーターの扉が開いて、朱美は達也をどつきながら乗り込んだ。
「ここでいいよ。じゃあね。また来るからね」
「うん……」
手を振る朱美につられて郁子はかろうじて笑った。扉が閉まるまで手を振ってから腕を下ろす。
「…………」
そこから、修司の病室がある方の廊下に首を曲げた。スリッパの裏が床にこびりついたみたいで体が動かない。でも、もし、まだ、繋がっているのなら……。
鉄のスリッパを引きずっているような緩慢さで郁子は足を運ぶ。酷いことをして傷つけたのは自分の方。合わせる顔なんかない。顔を見るのが怖い。なのに願ってる。気になって、会いたいと思ってる。怖いと思う気持ちもあるのに。
自分の病室とは逆方向に歩き出す。ゆっくりゆっくり、壁のネームプレートを見ながら進む。やがて修司の名前を見つけて郁子の心臓は跳ね上がった。
病室の扉は隙間が開いていて、声がもれて聞こえてきた。
「……郁子って女の子が同じ症状で入院してるって知って」
自分の名前が聞こえ、郁子はまた心臓を跳ね上がらせた。それから無意識のうちに体を寄せて耳を澄ませてしまう。
「寂しさを埋める相手を探すにしても自分とは違う人の方が良いんだよ。私はそう思う」
「うん……」
「それ聞いて、あいつにとってどんだけ郁子が特別かはわかった。だからって、ふたりがムリして付き合うことはないと思う」
「無理だなんて……」
「おれさ」
そこで達也はやっと郁子に顔を向けた。
「告白して振られたんだ。向こうが結婚する前に。最後だからって、当たって砕けろって思ってさ。……なんて、少しは期待もしててさ。気持ち、感じないわけじゃなかったから。でもはっきり言われた。幸せになりたいから結婚するんだって」
目をしぱしぱさせて達也は郁子を見つめた。
「恋愛だってそうだよ。幸せになりたいから人を好きになるんだろ。わかってんだろ、修司といたってシンドイだけだ」
「…………」
「あいつにはおれたちも姉ちゃんもいる。おまえが心配することないから」
「なあにー? なんの話?」
戻ってきた朱美に背後から声をかけられたが、郁子は振り向くことができなかった。
「べつに」
「なにさ、スカシて」
ちょうどエレベーターの扉が開いて、朱美は達也をどつきながら乗り込んだ。
「ここでいいよ。じゃあね。また来るからね」
「うん……」
手を振る朱美につられて郁子はかろうじて笑った。扉が閉まるまで手を振ってから腕を下ろす。
「…………」
そこから、修司の病室がある方の廊下に首を曲げた。スリッパの裏が床にこびりついたみたいで体が動かない。でも、もし、まだ、繋がっているのなら……。
鉄のスリッパを引きずっているような緩慢さで郁子は足を運ぶ。酷いことをして傷つけたのは自分の方。合わせる顔なんかない。顔を見るのが怖い。なのに願ってる。気になって、会いたいと思ってる。怖いと思う気持ちもあるのに。
自分の病室とは逆方向に歩き出す。ゆっくりゆっくり、壁のネームプレートを見ながら進む。やがて修司の名前を見つけて郁子の心臓は跳ね上がった。
病室の扉は隙間が開いていて、声がもれて聞こえてきた。
「……郁子って女の子が同じ症状で入院してるって知って」
自分の名前が聞こえ、郁子はまた心臓を跳ね上がらせた。それから無意識のうちに体を寄せて耳を澄ませてしまう。
「寂しさを埋める相手を探すにしても自分とは違う人の方が良いんだよ。私はそう思う」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
汐留一家は私以外腐ってる!
折原さゆみ
青春
私、汐留喜咲(しおどめきさき)はいたって普通の高校生である。
それなのに、どうして家族はこうもおかしいのだろうか。
腐女子の母、母の影響で腐男子に目覚めた父、百合ものに目覚めた妹。
今時、LGBTが広まる中で、偏見などはしたくはないが、それでもそれ抜きに、私の家族はおかしいのだ。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
空は青いか?
乱川 カナト
青春
「スカイフリューゲル」という空中でのスポーツが舞台の青春ストーリー。
空を駆け相手の腰に付いてる鈴を取り合う競技と中二の夏に出会った少女、冠崎 かなは鳥のように空を舞う姿に感動する。
そして、その時見た試合に出ていた鶻高校へと進学しスカフリ部の人達と出会うのだった。
それぞれの想いを込め空へ駆け上がる時、物語は始まる─!
ウォーターヤンキーQK(ヤンキー軍団が、県大会優勝するまで)
Daasuke
青春
1980年代の実話
ある工業高等専門学校
プールも無い学校
そこにできた 水泳同好会
集まったメンバーは色々
女のにモテたい
水着が見たいから
本気の部員
ヤンキーで謹慎中スカウトされた部員
などなど
そんな高校生が
2年間で
県大会1位になるまでの
コメディ青春物語
キミと僕との7日間
五味
青春
始めは、小学生の時。
5年も通い続けた小学校。特に何か問題があったわけではない、ただ主人公は、やけに疲れを感じて唐突に田舎に、祖父母の家に行きたいと、そう思ってしまった。
4月の終わり、五月の連休、両親は仕事もあり何が家族で出かける予定もない。
そこで、一人で、これまで貯めていたお小遣いを使って、どうにか祖父母の家にたどり着く。
そこで何をするでもなく、数日を過ごし、家に帰る。
そんなことを繰り返すようになった主人公は、高校に入学した一年目、その夏も、同じようにふらりと祖父母の家に訪れた。
そこで、いつものようにふらふらと過ごす、そんな中、一人の少女に出会う。
近くにある小高い丘、そこに天体望遠鏡を持って、夜を過ごす少女。
そんな君と僕との7日間の話。
鬼上司は間抜けな私がお好きです
碧井夢夏
恋愛
れいわ紡績に就職した新入社員、花森沙穂(はなもりさほ)は社内でも評判の鬼上司、東御八雲(とうみやくも)のサポートに配属させられる。
ドジな花森は何度も東御の前で失敗ばかり。ところが、人造人間と噂されていた東御が初めて楽しそうにしたのは花森がやらかした時で・・。
孤高の人、東御八雲はなんと間抜けフェチだった?!
その上、育ちが特殊らしい雰囲気で・・。
ハイスペック超人と口だけの間抜け女子による上司と部下のラブコメ。
久しぶりにコメディ×溺愛を書きたくなりましたので、ゆるーく連載します。
会話劇ベースに、コミカル、ときどき、たっぷりと甘く深い愛のお話。
「めちゃコミック恋愛漫画原作賞」優秀作品に選んでいただきました。
※大人ラブです。R15相当。
表紙画像はMidjourneyで生成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる