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step4.デート
step4.デート(2)
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デート。まさかのJKとのデート。胃がさわさわと落ち着かない。デートの前って本来あれこれ計画を練ったり彼女とすごす一日をシミュレーションしてみたり、期待に身悶えしながらすごすものなんじゃないのか? 中年ともなるとそんな甘酸っぱい感慨は忘却の彼方だが。
いっそなかったことにしたい。しかし不気味なことに、デートの約束をして以来アコからのラインはぱったり途絶えた。
『デートがもっと楽しみになるように、しばらく我慢するね! すっごく楽しみ!』
おいおい。君は何を期待してるんだい。由基はいっそ恐ろしくなる。彼にしてみれば、一緒にちょっと海の生き物を見るだけのつもりなのに。
それでも落ち着いて話ができるようなら、これで金輪際さようならだと告げるつもりでいる。おじさんには女子高生にかかずらってるヒマはないんだよ、と。
うまく話せるだろうか、アコは聞き分けてくれるだろうか。いやいや。それ以前に、数週間振りにリアルで再会した時点で三咲が言っていたように「なんだこのオッサン」とアコの方からあれやこれやをなかったことにしてくれるかもしれない。それはそれで一方的にこちらに傷が残りそうで釈然としないが。いやいや。むしろそれがいちばんカドの立たない終焉であるのだろうし。
落ち着かない気分で迎えた金曜日の夜。帰宅の途中、駐車場の敷地内で、由基の耳にか細い鳴き声が入ってきた。
ニィ、ニィ。弱々しい鳴き声が力なく途切れては、またニィ、ニィと聞こえてくる。声を辿って由基は暗がりに置かれた段ボール箱を見つけた。お約束のように「だれかひろってください」と貼り紙がしてあるその箱の中身は当然……。
ニィ、ニィ。由基の手のひらの半分ほどの大きさのまだ目も開いていない子猫が、タオルの上でもそもそ動いていた。
見なきゃ良かった。由基は夜空を仰いで目を閉じる。ニィ、ニィと足元からの声はどんどん小さくなっていく。必死の思いで振り切って一度はマイカーのドアへと手をのばしたけれど。
ニィ、ニィと立ち上る鳴き声が糸になって由基の背中を引っ張る。ちくしょうめ。由基は引き返し、段ボール箱をそっと持ち上げて自分のクルマの助手席の足元へとのせた。
翌日の午後、出勤してきた琴美は由基の顔を見て目を見開いた。
「どうしたんですか? 目の下、クマがすごいです」
「うん。子猫を拾っちゃってさ」
へらっと笑って由基はかいつまんで琴美に事情を話した。
昨夜、とりあえず自宅に猫を連れて帰ったものの、鳴き声はどんどん弱くなっていくのに、何をどうしたらいいのかわからない。
ネットで調べて、人間の赤ちゃんにするように子猫用のミルクを子猫用の哺乳瓶で与えなければならないことはわかった。それで再びクルマを走らせて夜十時まで営業しているホームセンターに急ぎ、猫用の粉ミルクと排尿排便をさせるときに使う脱脂綿などを購入した。
さっそくアパートの部屋で子猫にミルクをやったのだが、これがなかなか難しく、哺乳瓶の乳首にうまく吸い付いてくれない。ミルクをつけた指先で口を開かせ舌の上に乳首を差し込むと、子猫は本能のままに突き進んでくるばかりで吸ってくれないのだ。それで小さなからだを手で抑えつけると四本の足をジタバタさせるので針のように細い爪先が由基の指をひっかく。これがまた痛い。
どうにかこうにか授乳を終えると、子猫は丸くなって眠り始めたのだが、ちゃんと生きているのだろうかと心配で仕方なくこまめに確認せずにはいられない。
そんなこんなで由基はなかなか寝付けずやっと眠りについた頃、お腹が空いて目が覚めたらしい子猫がまたニィ、ニィと泣き始める。由基は起き出してネットで調べた通りにお湯で湿らせた脱脂綿でお尻のマッサージをしておしっこをさせた後にまたミルクをやる。
そんなことを朝までに二度繰り返し、由基はすっかり寝不足だった。
いっそなかったことにしたい。しかし不気味なことに、デートの約束をして以来アコからのラインはぱったり途絶えた。
『デートがもっと楽しみになるように、しばらく我慢するね! すっごく楽しみ!』
おいおい。君は何を期待してるんだい。由基はいっそ恐ろしくなる。彼にしてみれば、一緒にちょっと海の生き物を見るだけのつもりなのに。
それでも落ち着いて話ができるようなら、これで金輪際さようならだと告げるつもりでいる。おじさんには女子高生にかかずらってるヒマはないんだよ、と。
うまく話せるだろうか、アコは聞き分けてくれるだろうか。いやいや。それ以前に、数週間振りにリアルで再会した時点で三咲が言っていたように「なんだこのオッサン」とアコの方からあれやこれやをなかったことにしてくれるかもしれない。それはそれで一方的にこちらに傷が残りそうで釈然としないが。いやいや。むしろそれがいちばんカドの立たない終焉であるのだろうし。
落ち着かない気分で迎えた金曜日の夜。帰宅の途中、駐車場の敷地内で、由基の耳にか細い鳴き声が入ってきた。
ニィ、ニィ。弱々しい鳴き声が力なく途切れては、またニィ、ニィと聞こえてくる。声を辿って由基は暗がりに置かれた段ボール箱を見つけた。お約束のように「だれかひろってください」と貼り紙がしてあるその箱の中身は当然……。
ニィ、ニィ。由基の手のひらの半分ほどの大きさのまだ目も開いていない子猫が、タオルの上でもそもそ動いていた。
見なきゃ良かった。由基は夜空を仰いで目を閉じる。ニィ、ニィと足元からの声はどんどん小さくなっていく。必死の思いで振り切って一度はマイカーのドアへと手をのばしたけれど。
ニィ、ニィと立ち上る鳴き声が糸になって由基の背中を引っ張る。ちくしょうめ。由基は引き返し、段ボール箱をそっと持ち上げて自分のクルマの助手席の足元へとのせた。
翌日の午後、出勤してきた琴美は由基の顔を見て目を見開いた。
「どうしたんですか? 目の下、クマがすごいです」
「うん。子猫を拾っちゃってさ」
へらっと笑って由基はかいつまんで琴美に事情を話した。
昨夜、とりあえず自宅に猫を連れて帰ったものの、鳴き声はどんどん弱くなっていくのに、何をどうしたらいいのかわからない。
ネットで調べて、人間の赤ちゃんにするように子猫用のミルクを子猫用の哺乳瓶で与えなければならないことはわかった。それで再びクルマを走らせて夜十時まで営業しているホームセンターに急ぎ、猫用の粉ミルクと排尿排便をさせるときに使う脱脂綿などを購入した。
さっそくアパートの部屋で子猫にミルクをやったのだが、これがなかなか難しく、哺乳瓶の乳首にうまく吸い付いてくれない。ミルクをつけた指先で口を開かせ舌の上に乳首を差し込むと、子猫は本能のままに突き進んでくるばかりで吸ってくれないのだ。それで小さなからだを手で抑えつけると四本の足をジタバタさせるので針のように細い爪先が由基の指をひっかく。これがまた痛い。
どうにかこうにか授乳を終えると、子猫は丸くなって眠り始めたのだが、ちゃんと生きているのだろうかと心配で仕方なくこまめに確認せずにはいられない。
そんなこんなで由基はなかなか寝付けずやっと眠りについた頃、お腹が空いて目が覚めたらしい子猫がまたニィ、ニィと泣き始める。由基は起き出してネットで調べた通りにお湯で湿らせた脱脂綿でお尻のマッサージをしておしっこをさせた後にまたミルクをやる。
そんなことを朝までに二度繰り返し、由基はすっかり寝不足だった。
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