思うこと

奈月沙耶

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「女が三十前で結婚を急ぐのは切迫した問題があるからでしょうけど」
 笑って言葉をつなげた彼女に私は答えた。
「子どもでしょ」
 私は子どもなんて死んだって産むつもりはないけれど。それは彼女も同じはずだった。

 私は心配になって身を乗り出す。
「どうしたの? ダンナが子どもが欲しいとでも言いだした?」
 ちょっと驚いた顔になって彼女はふるふる首を振った。
「ううん。そんなことないけど」
 彼女は瞬きを繰り返して俯いた。

「ただね、こればっかりはわからないじゃない。このまま子どもをつくらないで後悔するかもしれない。けど私はやっぱり子どもを育てるなんてことできそうにない」
 親に愛された記憶がないから自分も子どもを愛せる自信がない。それは私と彼女に共通する思いだった。

「あのね、子どもを立派に育て終えた女性が言うでしょう。子どもはひとりは産んでおくべきよ、自分も成長できるし子どもを育ててはじめて一人前になれるって」
「なによ。それじゃあ子どもを産まない女は不完全だって言うの?」
 憤慨する私に彼女は目を上げてにっこりした。
「うん。私もそう思った。どうしてそうなるんだろうって。多分ね、子どもを産むべきだって意見は本当だと思う。みんなが言うんだから。ただね、それがあたりまえなんだって押し付けられるのはイヤ」

 静かに静かに彼女が語る言葉は私の中にも渦巻いているものだった。私が吐き出せば激しい抗議になってしまうことも、彼女は静かに言葉を選んで話す。

「確かに子どもを持つことで得ることもあるでしょう。でも欠けてしまうものだってあると思う。子どもを産まずに年をとった女が得るものだってあると思う。だから見えてくるものだってあると思う。物事の良し悪しなんて一概に言えないはずで、それなのにどうして一方を否定されなくちゃならないのかしら?」
「怖いんだよ、きっと」
「怖い……。そうか、そうだね」
 何度も頷いて彼女は小さく息を吐き出した。
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