思うこと

奈月沙耶

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 そう自覚してから私は人生の指針を百八十度変えた。男の子なんてそっちのけで勉強に打ち込みだしたんである。
 元来真面目で地味な性格の私にとって机に向かいっぱなしになるのは苦ではなかったし、それで良い結果が得られれば嬉しかったし張り合いにもなった。

 高校、大学ととんとん拍子に進み就職氷河期と言われている中、無難に一般企業に入社できた。母親はどうしてもっと高収入の職に就かなかったのかとぐずぐず言っていたが一切無視して通した。野望なんて持たない方がいいに決まってるし、それよりも自分のささやかな夢をかなえたかった。そういう境地に私はなっていた。

 そして私は自立という念願を果たした。自分一人の生活を、自分一人の力で支える。誰にも干渉されずにひとりきりで暮らすこと。人によってはそれを寂しいというけれど、孤独を好む私には寂しいくらいがちょうどよかった。

 何もいらないと思った。誰もいらない。将来への不安はあったけれど、どうせいつ死んだっていいんだから、と思うと気が楽になった。もともと自分だけがかわいい利己的な人間なのだ、私は。それなら最初から自分一人のことだけを考えて生きていきたい。




「そりゃ、先輩は何でもできるしバリバリ働いてるもの。結婚なんて思いもしないでしょうけど」
 唇を尖らせた職場の後輩に言われた。
「普通の女は結婚でもしないと安泰な生活は望めないですもん」
 そりゃあ女も二十代も半ばになれば打算で動くようになるけれど、短大を卒業したばかりのお嬢さんがもうそんなことを言っているのかと私は妙に感心した。

「働く女にとって結婚て逃げ道みたいになっちゃうのよね」
 この話を聞くと私の友人は微笑んで言った。高校の同級生だった彼女は私なんかよりずっと頭が良くて美人で性格も良くて、私が男だったら絶対に嫁にもらいたいタイプの女性だった。いったいどんな男の元へ行くのだろうと思ったら十年来のつきあいの幼馴染とゴールインしてしまい私を大いに落胆させた。

「あんたにあの子はもったいない」
 悔しくて嫌味を言ってやると彼女のダンナは頭をかきかきこう言った。
「いやあ、本当にねえ」
 このおのろけ野郎、絞め殺してやろうかしら。かなり本気で私は考えたものだった。
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