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ウエハラくんの家は昔からの地主で大きなマンションをいくつも所有していた。わたしの見る限り学校でいちばんのお金持ちだった。
本人の性格はいたって男らしくさっぱりしていて無頓着なくらいで、こういう男の方が御しやすいと思ったわたしはひとりほくそ笑んだものだった。
ところが、ところがである。彼は重度のマザコンだった。
一度だけ彼の御屋敷に遊びに行ったとき、彼のお母さんはよくは思ってないなというのをヒシヒシ感じた。中学生なんだから学校のことだけを一生懸命やってればいいというふうな困り顔。ウエハラくん自身はと言えば、ババアはいちいちうるさいとかババアが家にいないとせいせいするとか、そんなことばかり言っていた。
あるとき、彼の愚痴を黙って聞いているのにも飽きて、わたしはポロっと彼のお母さんを非難するような意見を言ってしまった。そしたらまあ、
「余計なこと言うんじゃねえよ!」
とウエハラくんは激怒した。自分が母親をけなす分にはいいけれど、他人にそれをされると腹が立つらしい。身内だからこそ悪口を言えるのであって他人に言われると気に障るって気持ちはわからなくはなかったけれど、それにしてもウエハラくんのはちょっと異常だった。目の色が変わってたもの。
思うに、彼の悪口は愛情表現だったんだね。ほーら、お母さんはこんなに僕にかまってくれる、嬉しいなって。ママがいないと何もできないっていうのだけがマザコンじゃないんだと私は中学生にして学んだ。
ひとつ利口にさせてもらったことには感謝して、わたしは速やかにウエハラくんから手を引かせてもらった。男がみんなマザコンだとしても程度の差ってものがある。
中学生でわたしが知ったことがもうひとつある。自分の優秀さについてだ。
小学生では勉強なんてどんぐりの背比べで頭の良し悪しより運動能力の差がものをいった。それが中学生ともなると成績の差というのが如実に表れておもしろいくらい学校生活に影響してくる。
ネクラだのとろいだのとわたしを散々みそっかす扱いしていた母親はころりと態度を変え、弁護士さんになれだの女医さんになれだの言いだした。現金なことこのうえない。でもこの事実はわたしにちょっとした衝撃を与えた。
わたしの能力があれば男を当てにしなくても生きていける。頼らなくても生きていける。
本人の性格はいたって男らしくさっぱりしていて無頓着なくらいで、こういう男の方が御しやすいと思ったわたしはひとりほくそ笑んだものだった。
ところが、ところがである。彼は重度のマザコンだった。
一度だけ彼の御屋敷に遊びに行ったとき、彼のお母さんはよくは思ってないなというのをヒシヒシ感じた。中学生なんだから学校のことだけを一生懸命やってればいいというふうな困り顔。ウエハラくん自身はと言えば、ババアはいちいちうるさいとかババアが家にいないとせいせいするとか、そんなことばかり言っていた。
あるとき、彼の愚痴を黙って聞いているのにも飽きて、わたしはポロっと彼のお母さんを非難するような意見を言ってしまった。そしたらまあ、
「余計なこと言うんじゃねえよ!」
とウエハラくんは激怒した。自分が母親をけなす分にはいいけれど、他人にそれをされると腹が立つらしい。身内だからこそ悪口を言えるのであって他人に言われると気に障るって気持ちはわからなくはなかったけれど、それにしてもウエハラくんのはちょっと異常だった。目の色が変わってたもの。
思うに、彼の悪口は愛情表現だったんだね。ほーら、お母さんはこんなに僕にかまってくれる、嬉しいなって。ママがいないと何もできないっていうのだけがマザコンじゃないんだと私は中学生にして学んだ。
ひとつ利口にさせてもらったことには感謝して、わたしは速やかにウエハラくんから手を引かせてもらった。男がみんなマザコンだとしても程度の差ってものがある。
中学生でわたしが知ったことがもうひとつある。自分の優秀さについてだ。
小学生では勉強なんてどんぐりの背比べで頭の良し悪しより運動能力の差がものをいった。それが中学生ともなると成績の差というのが如実に表れておもしろいくらい学校生活に影響してくる。
ネクラだのとろいだのとわたしを散々みそっかす扱いしていた母親はころりと態度を変え、弁護士さんになれだの女医さんになれだの言いだした。現金なことこのうえない。でもこの事実はわたしにちょっとした衝撃を与えた。
わたしの能力があれば男を当てにしなくても生きていける。頼らなくても生きていける。
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