思うこと

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
4 / 9

しおりを挟む
 聞いたところによると彼のお母さんは外国の人で、彼のお父さんが駆け落ち同然で日本に連れ帰り結婚したのだという。そのことで彼自身いろいろ思うことがあったらしい。
「そういう嫌なことを表に出さないのはマコちゃんと一緒だね」
 そう言われたけどわたしは彼の方が何倍も偉いと思った。自分の性格に難があるのは自分がいちばんよくわかってる。人に決して優しくないことも。比べて彼は、本当に出来た人だった。

 その彼にも好きな人がいるのだとその子は言っていた。
「だからいいんだ。片思いで」
 わたしには逆立ちしたって到底言えないセリフだった。そのうえその子がわたし以上に親しくしている友人こそが彼の片思いの相手だと知ったときには、わたしはひっくり返りそうになってしまった。いやはや、感心もしたけれど、心の隅で怖いなあと思ってしまった。怖いよ、女の子って。


 実は彼のお父さんは小さな貿易会社を営んでいる人で、結構なお金持ちらしかった。長男の彼は当然後継ぎで、それだけでわたしの食指を動かす要素は十分だったのだけど、何故かわたしは彼とだけは仲良くなろうとは思わなかった。
 友達の好きな人っていうのも勿論だし、競争率が高そうだったし、そんな人をわざわざ選ぶなんてわたしらしくないと訳の分からない理由を付けて、彼のことだけは意識しないようにしていた。

 そう、意識しないふりをしながら、その実めちゃくちゃ意識していたんである。大人になって思ってみれば、あれが私の初恋だった。自分では認めなかったけれど、あれが確かに初恋だった。

 本人よりもその財産を愛している男にならいくらでも積極的になれるのに、本当に好きな相手には何もできなくなる。嫌われたら怖いから。昔から私はこういう馬鹿で臆病な奴だったのだ。




 中学時代にわたしが全力を注いで尽くしたのは同級生のウエハラくんという男の子だった。そこそこ勉強ができて、そこそこ運動もできてサッカー部のレギュラーで、だけどイケメンというわけではなかったから彼を好きだと言う女の子はわたしくらいだった。

 所詮子どものときにモテるかモテないかなんてのは、カッコイイか悪いか、人を楽しませる才能があるかないか、この二種類だけだと私は思ってる。ウエハラくんにはこのふたつはなかったけど財産はあった。わたしにとっては願ったりかなったりの人だったんである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

新本占ゐ館

萬榮亭松山(ばんえいてい しょうざん)
現代文学
人間の本質を見るために喋り言葉だけで描く異色の作品。表情も何もかも読み手に委ねられる。二人の人間と被術者がいくつかの話しで人間を求めていく。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

小説練習帖 七月

犬束
現代文学
 ぐるぐる考えたけれども、具体的な物語が思いつかないので、焦っております。  人物造形もあやふややし。  だけど、始めなければ、『否応なしに』。

処理中です...