思うこと

奈月沙耶

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 ところで、中学一年生でわたしは初めて親友を得た。自称親友だったけど。趣味が合ったし話も合ったし、一緒にいてもいいかなあくらいの仲だった。現に二年でクラスが変わったらそれっきりだったし。中学生のときってみんな親友っていうのを作りたがるものらしい。

 で、仲良しこよしな時期にその子が真面目な顔をして尋ねてきたものだから、わたしは今まで誰にも話したことのない家庭の事情ってやつを話した。その子はいたく同情して優しい言葉をかけてくれた。

 よくドラマなんかで不幸な主人公が同情なんてまっぴらだってセリフを吐いているけれど、あれって嘘だと思う。そういう人もいるだろうけど、そういう人ばかりじゃない。少なくともわたしは同情されるのを気持ちいいと感じたし、その子に開口一番「かわいそう」と言われて、初めて自分がかわいそうなのだと自覚した。それまで他人の意見を聞いたことがなかったから傍から見たら自分の家がどういうふうかなんてわからなかったんである。

「あたしたち親友だよね。だから何でも話してね」
 友達は浅く広くいるけれど、トイレにまで連れ立っていくような付き合いはしたことなかったから、こういうノリはわたしにとってとても新鮮だった。

 幸い話のネタには事欠かなかったし、その子はわたしが毎日毎日吐き出す愚痴を辛抱強く聞いてくれた。わたしの言うことすべてに同意し、耳優しいことだけを言ってくれる。だからわたしはその子に腹を立てることもなかったし良好な関係のまま一年間の付き合いを終えることができた。

 その頃のわたしには、こういう毒にも薬にもならないストレスのはけ口になってくれる相手こそが必要だったのだろうと思う。情けない話だけど、そんなことでわたしは救われていた。それだけのことで救われてしまうくらいどうしようもない子どもだったのだ。




 恋多きわたしとは違って、その子には小学生の頃から片思いをしている相手がいた。けっこう人気のある目立つ男の子で、わたしは最初ふうん、なんて思っていたけど、でもそのうち、確かに好かれるだけのことはある人だと思い始めた。
 元気でおかしなことばかり言っているかと思えばちゃんと気の付く優しい人で、そのやさしさがわざとらしくない。自然にさりげなく人のフォローをしてあげられる人。この人は大人だねえ、とわたしは感心したものだった。
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