思うこと

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
2 / 9

しおりを挟む
 ある日わたしは思い切って尋ねてみた。

「イナバくんは何歳くらいで結婚したい?」
「わかんないよ、そんなの」
「じゃあ結婚式は? どんなふうにしたい?」
「どんなふうって?」
「ドレスがいいとか、着物がいいとか」
「うーん。うちの父さんと母さんの結婚式の写真は着物だぞ。母さん白い帽子みたいのかぶってさ。おまえんちは?」
「うちは結婚式やらなかったって」
「うそだろお。そんなことあるのか? どうしてやらなかったんだ?」
「ビンボーだからじゃない」
 イナバくんはびっくり顔で何度もまばたきしながらわたしの顔を見ていた。

「ねえねえ。イナバくんは着物と洋服とどっちがいいの?」
「うーん、ハカマだよな、あれ。そっちのが良いかな、男って感じするじゃんか」
 それならわたしは白い帽子をかぶるのね、と言おうとすると彼が続けてこう言った。
「結婚式って親戚とか友達とかいっぱい呼ぶだろ。おれ、おまえのこと呼んでやるからな。そしたら絶対来てくれよ」
「…………」

 違うだろ! ボケ!! 多分わたしはそんなようなことを叫んだのだと思う。というのも頭に血の上ってしまったわたしは我を忘れてしまってその直後のことはよく覚えていないからだ。

 ただイナバくんに世にも恐ろしい仕打ちをしてしまったことだけは確からしい。すっかり怯えた彼はわたしを恐れて近寄りもしなくなってしまったので。あんなデリカシーのない男こっちから願い下げだったから良かったけどね。




 その頃うちの両親が離婚して、小さな溶接工場の社長さんがわたしの新しいお父さんになった。母親はしたり顔で言ったものである。
「顔のいい男より不細工な男の方が金を持ってるんだからね」

 今でなら鼻で笑うとこだけど、この頃のわたしは素直なだけが取り柄で、ふうんそうなのか、でもやっぱりカッコイイお父さんが良かったなあなんてことを思っていた。子どもにしてみればお母さんにはいつまでも若くてきれいでいてほしいし、やっぱり若くてカッコイイお父さんはとっても自慢だ。

 よし、わたしはカッコよくてお金持ちの男を見つけてやる! と決意を新たにし、わたしは中学生になった。

 中学生ともなると、なになに君が好きだの告白しただの振られただの誰それが付き合ってるだの別れただの、女の子たちはそんなことでピーチクパーチクうるさいったらありゃしない。なんてことを思いつつ、わたしも男の子を物色するのに余念がなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

dessin

犬束
現代文学
 サニーサイド・アベニューを巡る四季、そして行き交う人々。それらを、ショートフィルムのようにデッサンし、コレクションした連作集。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

小説練習帖 七月

犬束
現代文学
 ぐるぐる考えたけれども、具体的な物語が思いつかないので、焦っております。  人物造形もあやふややし。  だけど、始めなければ、『否応なしに』。

処理中です...