思うこと

奈月沙耶

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 自慢じゃないけど、わたしの小さな頃の夢は玉の輿に乗ることだった。幼稚園の七夕飾りの短冊に「金持ちの男の人とケッコンしてお金持ちになりたい」って書いて先生たちの度肝を抜いた。
 お嫁さんになりたいではなく、金持ちになりたい。で、それをまた実践しようとしていたのだから我ながら恐ろしい幼少時代だった。

 幼稚園の年中組にはアツシくんという、お父さんがどこぞの会社の社長さんという男の子がいて、五歳のわたしはさっそく彼に目を付けた。ところがアツシくんは見事にわたしを嫌ってくれて、
「マコちゃんがいじめるー」
 とことあるごとに先生の後ろに隠れるようになってしまった。まあ、
「あたしとケッコンするって言わなきゃ石ぶつけてやるから」
などとやってれば嫌われて当然なのだが。

 アツシくんはきっと先生が好きなんだわ、とはよく思ったものだけど、その考えは今も変わってなかったりする。男ってのはいつでも年上の女性に憧れるものらしいから。




 アツシくんとの恋に夢破れたわたしは、次のターゲットを小学一年生で隣の席になったイナバくんに定めた。イナバくんのお父さんは地元では子どもでも知ってるチェーンのお弁当屋さんの社長さんで、この人とケッコンすれば一生メシには困らないわとあたしは信じて疑わなかった。

 クラスでいちばん背の高かった彼は子どもにしては落ち着きがあって優しくて、狙ってる子はたくさんいるみたいだったけど、わたしは隣の席という権限をフルに活用して他の女を絶対に彼に寄せ付けなかった。二学期で席替えになる前にイナバくんとの間に固い絆を結んでおかなくてはと、それはもう必死だった。

 その甲斐あって、夏休みには彼の家へと遊びに行くくらい仲良しになっていた。
「絶対に絶対に絶対に! 今度もイナバくんと同じクラスになれますように」
 乙女のささやかな願いを天の神が聞き届けてくれたのか、それともその裏にある欲と野望とに悪魔が微笑みかけてくれたのかは知らないが、それから三年間ずっとイナバくんとは一緒のクラスになれた。

 わたしとイナバくんとは本当に仲良しで彼はとってもおもしろい人でいくら一緒に遊んでも飽きなかった。向こうもわたしのことを「おもしれえやつ」と思っていたに違いない。
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