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Episode 37 秋から冬まで
37-5.すごく可愛い
しおりを挟む久々に行ったロータスはなんだか明るい雰囲気になっていて正人は驚いた。
カウンターの中で赤いエプロンにサンタ帽をかぶった美登利がにこにこしている。はっきり言ってすごく可愛い。
そもそも顔を見るの自体久しぶりで涙が出そうになった。
小さなテーブル席には料理が並んで常連客らと琢磨が楽しそうにしていた。この店にこんなに客がいるのを見るのは初めてだ。
「こっちに座って。コーヒー淹れてあげる。私ったら特技がまた一つ増えちゃった」
「一番の特技は人を騙すことだよな」
カウンターの端で悪態をつく宮前の隣に正人は座る。入れ替わりに宮前は料理を取りに行く。
「はい、どうぞ」
カウンターを出て美登利は正人の隣に座った。
最後に会ったのはやっぱりここで、とても疲れた風だったけれど今は元気そうだ。
じいっと美登利が正人を見つめてくる。コーヒーの感想を待っているのかと思ったがそうではなかった。
「みんなが池崎くんが変わった、変わったって言っててさ」
「そうなの?」
「うん、でも」
美登利は小さく小さく笑う。
「そんなことないね、別に変わってないじゃない」
「うん……」
そうだよ、なにも変わってない。いちばん最初にあなたを好きになった、そういう自分に戻っただけ。
そうっと正人は包みを取り出した。
「あげます」
「私に?」
こっくり頷く。
「どうもありがとう」
美登利が包みを開ける。
「可愛いオーナメント。ハンドメイドかな」
ガラスのボールにドライフラワーが詰め込まれ、その上をシルバーの蝶が飛んでいる。
「一年中飾っておけそう。帰ったらうちのツリーに吊るすね。ありがとう」
包みを丁寧に戻している美登利を見ながら正人は気がつく。赤い帽子の隙間から蝶のヘアピンが覗いている。
なぜ自分がそのモチーフに目を引かれたか納得がいった。彼女がいつも蝶の形のものを身につけているからだ。
「お返しがないから……」
美登利が言いさして少し黙る。
「お料理を取ってきてあげよう。待っててね」
くるっと立ち上がる。
「あのなあ、池崎……」
反対側に戻ってきた宮前に呼ばれて緩み切った顔のまま振り返ってしまった。
「……いや。いいや、もう」
諦めたように首を振り、宮前は時計を見て美登利に呼びかけた。
「時間だぞ、早く行かなきゃ誠が帰っちまうぞ」
「はいはい」
正人の前に料理の皿とフォークを置き、自分が被っていたサンタ帽を彼に被せて美登利は笑った。
「私は行くから池崎くんはゆっくりして。門限気をつけてね」
行かないで、思っても口には出せない。
「じゃあね」
身支度をして皆に手を振りあっさり出ていってしまう。
仕方がない、今の自分の立場では。
料理や帽子をもらった、これだって破格の厚遇だ。こんなことでいちいち落ち込んでいたらこの先とても戦えない。
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