上 下
213 / 256
Episode 33 休日/バロック

33-1.どうしてやろうかと思った

しおりを挟む
 夏季講習の最後に受けた模試はまずまずのできだった。臨時収入をもらえたほどだ。
 気を抜かないようにと釘を刺されたがそんなことはわかっている。長期戦は得意なつもりだ。

 そこで気がついた。夏祭りを最後に彼女と連絡すら取っていなかったことに。
 これまでの経験から一か月半は会わずにいられる。だが電話もメールもないとはどういうことか。この場合、放っておかれたのは向こうなのか、自分なのか。

 カレンダーを確認する。二学期の始業式は明後日だ。例年通りなら今日にもこっちに戻ってくるはずだ。
 仕方がない、こっちが折れて電話をかけることにする。

 コール数回で相手が出た。が、
『今から電車乗るから切るね。乗り換えのとき掛け直すから。バイバイ』
 こっちからかけたというのに声をはさむまもなく通話を切られた。
(あの女)
 イラっとして一ノ瀬誠は財布を掴んで部屋を飛び出した。




 乗換駅はやっぱり有名温泉観光地で観光客が大勢乗り降りする。
 人波を避けて携帯を取り出し着信履歴からダイヤルする。
 まわりが騒がしくて片方の耳を手で抑えながらホームの先に視線をやった美登利は、驚いて携帯を落としそうになる。
 まさに今ダイヤルしていた相手がそこにいたので。

「びっくりだな、もう」
 笑って通話を終了する。その顔を見て誠はなんとか留飲を下げる。
 顔をしかめでもしたらどうしてやろうかと思った。
「勉強は?」
「一日くらい休む」
「ならプチ観光してこうか」
「そうだな」
「お昼だし、まずはハンバーグ食べに行こう」



 食後の散歩に海岸沿いに整備された遊歩道公園をぶらぶらする。
 急に思い出したように美登利が高台の大きな観光ホテルを指差した。
「あそこに皆で泊まりに来たことなかった? 晴恵伯母さんと淳史くんもいてさ。なんでだったんだろう」

「翡翠荘が改築工事してたときだろ。旅行できることがめったにないからって。でも女将さんはあまり遠くに行きたくないって言ってなかったか?」
「よく覚えてるね。あの中に遊園地がなかった?」
「たぶん子どもの遊技場だな。百円の乗り物なんかがある」
「そうか、今見たらがっかりするんだろうな。思い出は美しく取っておこう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

契約結婚~彼には愛する人がいる~

よしたけ たけこ
恋愛
父親に決められた結婚相手には、他に愛する人がいた。 そして悲劇のヒロインは私ではなく、彼の愛するその人。 彼と彼女が結ばれるまでの、一時的な代役でしかない私の物語。

私との婚約は政略ですか?恋人とどうぞ仲良くしてください

稲垣桜
恋愛
 リンデン伯爵家はこの王国でも有数な貿易港を領地内に持つ、王家からの信頼も厚い家門で、その娘の私、エリザベスはコゼルス侯爵家の二男のルカ様との婚約が10歳の時に決まっていました。  王都で暮らすルカ様は私より4歳年上で、その時にはレイフォール学園の2年に在籍中。  そして『学園でルカには親密な令嬢がいる』と兄から聞かされた私。  学園に入学した私は仲良さそうな二人の姿を見て、自分との婚約は政略だったんだって。  私はサラサラの黒髪に海のような濃紺の瞳を持つルカ様に一目惚れをしたけれど、よく言っても中の上の容姿の私が婚約者に選ばれたことが不思議だったのよね。  でも、リンデン伯爵家の領地には交易港があるから、侯爵家の家業から考えて、領地内の港の使用料を抑える為の政略結婚だったのかな。  でも、実際にはルカ様にはルカ様の悩みがあるみたい……なんだけどね。   ※ 誤字・脱字が多いと思います。ごめんなさい。 ※ あくまでもフィクションです。 ※ ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※ 実在の人物や団体とは一切関係はありません。

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜

泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ × 島内亮介28歳 営業部のエース ******************  繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。  亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。  会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。  彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。  ずっと眠れないと打ち明けた奈月に  「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。  「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」  そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後…… ******************  クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^) 他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️

偶然なんてそんなもの

桃井すもも
恋愛
偶然だなんて、こんなよく出来たことってある?   巷で話題の小説も、令嬢達に人気の観劇も、秘めた話しの現場は図書室って相場が決まってる。 けれど目の前で愛を囁かれてるのは、私の婚約者なのだけれど! ショートショート 「アダムとイヴ」 「ままならないのが恋心」 に連なります。どうぞそちらも合わせて二度お楽しみ下さい。 ❇100%妄想の産物です。 ❇あぁ~今日も頑張った、もう寝ようって頃にお気軽にお読み下さい。 私も、あぁ~今日も妄想海岸泳ぎ切った、もう寝ようって頃に書いてます。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

処理中です...