上 下
13 / 256
Episode 02 レイニー・ブルー

2-4.『ヨクヤッタ、エライ』

しおりを挟む
「走って!」
「ちょ……っ。わたし…………」
 有無を言わせずそのまま走った。

 校門への最後のストレートライン。一分前を知らせる声が聞こえてくる。
 ほとんど引きずられるようにして正門を潜り抜けた途端に、彼女の膝ががくっと砕けた。そのままばったり倒れこんでしまう。
「え、ちょっと」
「ごめ……なさ……」
 勢いで打ってしまったのか鼻の頭まで擦りむいてしまっている。
(おれのせいか!)

 がーん、と固まっている正人の後ろから、穏やかな、それはそれは優しい声がかかったのはそのとき。
「ひどいな、池崎くん。女の子の扱い下手すぎ」
 ぐりっと振り返った正人の目に、いつにもまして慈愛に満ちた表情の中川美登利が映った。

「大丈夫? 須藤さん」
「あ……」
 須藤恵の傍らに膝をつき、美登利は優しく彼女の体を起こした。
「あちこち擦りむいちゃってるね。保健室行こう」
 まだ肩で息をしている恵の背中を撫でてやりながら歩きだす。すれ違いざま美登利は口の動きだけで正人に言った。
『ヨクヤッタ、エライ』

 どういう意味だかわからない。正人は思わずその場にいた綾小路に尋ねた。
「なんすか? あれ。似合わないオーラ振りまいて」
「魚心あれば水心ってやつでな。……お手柄だ、池崎くん」
 風紀委員長にまで褒められて、正人はわけがわからなかった。




「それで? 話してみてどうだったの、美登利さん」
 昼休み。中央委員会室の片隅で。
「頭いいね、あの子」
 美登利は須藤恵と話したことを船岡和美に相談する。

「佐伯先輩のこと見抜いてる」
 へえ、と和美が感心する。
「でもね、せっかく頭はいいのに、自分では動かないもどかしいタイプ」
「……小暮綾香と主と従なわけか。なるほど、なるほど」
 洞察力に優れる和美は、こういう感覚的な話をするときには実に頼もしい。

「忠告したものの小暮綾香に聞いてもらえなったわけだ。逆に裏切者扱いされちゃった感じ? それで学校に来るのが怖くなっちゃった?」
「この場合、悪いのは誰?」
「誰も」
 和美は笑って即答する。
「誰も悪くない」
「そうだよねえ」

「ほっといたってすぐに別れることになるんだから、黙って見てればいいって言ってあげた?」
「言ったよ。でも須藤さん曰く、綾香ちゃんは一途だからなかなか離れたりできないんじゃないかって」
「ふーん。佐伯氏の交際日数記録更新できたりするのかな。あたしも賭けにのってこようかな」
「誰さ、そんなことしてるの」
「うちのクラスの男子」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

嘘は溺愛のはじまり

海棠桔梗
恋愛
(3/31 番外編追加しました) わけあって“無職・家無し”になった私は なぜか超大手商社の秘書課で働くことになって なぜかその会社のイケメン専務と同居することに…… 更には、彼の偽の恋人に……!? 私は偽彼女のはずが、なんだか甘やかされ始めて。 ……だけど、、、 仕事と家を無くした私(24歳) Yuma WAKATSUKI 若月 結麻   × 御曹司で偽恋人な彼(32歳) Ibuki SHINOMIYA 篠宮 伊吹 ……だけど、 彼には、想う女性がいた…… この関係、一体どうなるの……?

戻らない時間と進む世界

三条 よもぎ
恋愛
「やはり貴様が犯人か」 許嫁の経盛から由良は、身に覚えのない罪で問い質された。 否定する由良を見て、経盛は条件を出す。 「1ヵ月の猶予をやる。その間に行方不明の千代か真犯人を捕まえてこい。出来なければ婚約破棄だ」 由良は無実を証明するために駆け回り、そして約束の日、ある人物の名を経盛に伝えるが……。 「自分の疑いを晴らすために、我が友を陥れるなど言語道断。貴様との婚約は解消だ」 許嫁に信じて貰えず、由良は悲しみに暮れる。 それでも疑いを晴らすために動く由良を見て、父の配下で幼き頃よりそばにいる日向が協力を申し出た。 「幼き頃は兄様と呼んで慕っていた日向様がいて心強いわ」 しかし、由良に更なる追い討ちをかける出来事が……。 戦乱の世界で幾つもの絶望を乗り越えながら、幸せを掴み取るために懸命に生きる物語です。 こちらは「飾りの恋の裏側」の由良(経盛の許嫁)を主人公としたスピンオフ作品となります。 全15話、完結しました。

真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。 分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。 真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

【完結】諦めた恋が追いかけてくる

キムラましゅろう
恋愛
初恋の人は幼馴染。 幼い頃から一番近くにいた彼に、いつの間にか恋をしていた。 差し入れをしては何度も想いを伝えるも、関係を崩したくないとフラレてばかり。 そしてある日、私はとうとう初恋を諦めた。 心機一転。新しい土地でお仕事を頑張っている私の前になぜか彼が現れ、そしてなぜかやたらと絡んでくる。 なぜ?どうして今さら、諦めた恋が追いかけてくるの? ヒロインアユリカと彼女のお店に訪れるお客の恋のお話です。 \_(・ω・`)ココ重要! 元サヤハピエン主義の作者が書くお話です。 ニューヒーロー?そんなものは登場しません。 くれぐれもご用心くださいませ。 いつも通りのご都合主義。 誤字脱字……(´>ω∂`)てへぺろ☆ゴメンヤン 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

【完結】たとえあなたに選ばれなくても

神宮寺 あおい
恋愛
人を踏みつけた者には相応の報いを。 伯爵令嬢のアリシアは半年後に結婚する予定だった。 公爵家次男の婚約者、ルーカスと両思いで一緒になれるのを楽しみにしていたのに。 ルーカスにとって腹違いの兄、ニコラオスの突然の死が全てを狂わせていく。 義母の願う血筋の継承。 ニコラオスの婚約者、フォティアからの横槍。 公爵家を継ぐ義務に縛られるルーカス。 フォティアのお腹にはニコラオスの子供が宿っており、正統なる後継者を望む義母はルーカスとアリシアの婚約を破棄させ、フォティアと婚約させようとする。 そんな中アリシアのお腹にもまた小さな命が。 アリシアとルーカスの思いとは裏腹に2人は周りの思惑に振り回されていく。 何があってもこの子を守らなければ。 大切なあなたとの未来を夢見たいのに許されない。 ならば私は去りましょう。 たとえあなたに選ばれなくても。 私は私の人生を歩んでいく。 これは普通の伯爵令嬢と訳あり公爵令息の、想いが報われるまでの物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 読む前にご確認いただけると助かります。 1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです 2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています よろしくお願いいたします。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字を教えてくださる方、ありがとうございます。 読み返してから投稿しているのですが、見落としていることがあるのでとても助かります。

処理中です...