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Episode 02 レイニー・ブルー
2-3.城山夫人
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一緒に階段を上りながら、婦人は再び「ごめんなさいねえ」とつぶやいた。
「あそこに海外の食材のお店ができたでしょう。珍しくてついいろいろ買ってしまって。ダメよねえ、ちゃんと後のことを考えなくちゃ」
石段を上りきってすぐの大きな白い家の前で婦人は立ち止まった。表札には『城山』とある。
「どうもありがとう。ここで大丈夫よ」
レジバッグの中から缶詰を四つ取り出し、正人に差し出す。
「お礼にどうぞ。青陵の寮生さんでしょう? 良かったらお夜食にどうぞ」
「ありがとうございます」
遠慮なく受け取ると、城山夫人はますます目元を細めて嬉しそうに微笑んだ。
「今年の一年はどうなってるんだ。小粒に揃ってるんじゃなかったのか」
出し抜けに文句を言い始めた綾小路に女性陣の対応は辛かった。
「やだねえ、この人。ひと月も前のネタを引きずって」
「粘着質ですね、意外と」
「頭固すぎ」
ぶるぶると震える綾小路の様子に首を竦めて、一ノ瀬誠が「まあまあ」とつぶやく。
「一年生がどうかしたの?」
「無断欠席二日目。明日もこうなら対応を考えなければ」
綾小路が差し出した名簿に美登利はさっと目を通す。
「一年一組、須藤恵」
両脇から坂野今日子と船岡和美も覗き込む。
「この子知ってるよ。調理部の可愛い子」
「佐伯先輩の彼女さんですか?」
「違う、違う。今朝見かけたのは三組の小暮綾香」
可愛い女子に目がない和美はさすがに詳しい。
「中学同じで仲良しなんだと思うよ。タイプの違う美少女ふたりって感じで目立つの。そういえば、体育祭のときに一緒にいなかったかなあ?」
「佐伯先輩のせいですかね……」
和美と今日子が言い合うのを他の三人は黙って聞いていた。『三大巨頭』などと呼ばれていても、男女の機微に関しては女子の情報網に遠く及ばない。
「なんにしろ、明日には来てくれればいいけれど」
須藤恵さん。美登利のつぶやきに綾小路が無言で頷いた。
翌日の朝には雨は止んでいた。確実に昨日より気温が高くなっているのを感じる。
今朝は少しは早く起きれたはずなのに、余裕ぶっていたらいつもの時間になってしまっていた。絶対にもう、遅刻はしない。心に誓っていたから正人は全速力で学校に向かう。
河原沿いの道で、昨日の女子生徒を見つけた。とぼとぼと重い足取りで正人の前を歩いている。
「おい、あんた! 走らないと遅刻する!」
「え……」
ショートボブで目が大きく、背は小柄。ネクタイの色は同じ一年。それがわかって正人は思わずその手を掴む。
「あそこに海外の食材のお店ができたでしょう。珍しくてついいろいろ買ってしまって。ダメよねえ、ちゃんと後のことを考えなくちゃ」
石段を上りきってすぐの大きな白い家の前で婦人は立ち止まった。表札には『城山』とある。
「どうもありがとう。ここで大丈夫よ」
レジバッグの中から缶詰を四つ取り出し、正人に差し出す。
「お礼にどうぞ。青陵の寮生さんでしょう? 良かったらお夜食にどうぞ」
「ありがとうございます」
遠慮なく受け取ると、城山夫人はますます目元を細めて嬉しそうに微笑んだ。
「今年の一年はどうなってるんだ。小粒に揃ってるんじゃなかったのか」
出し抜けに文句を言い始めた綾小路に女性陣の対応は辛かった。
「やだねえ、この人。ひと月も前のネタを引きずって」
「粘着質ですね、意外と」
「頭固すぎ」
ぶるぶると震える綾小路の様子に首を竦めて、一ノ瀬誠が「まあまあ」とつぶやく。
「一年生がどうかしたの?」
「無断欠席二日目。明日もこうなら対応を考えなければ」
綾小路が差し出した名簿に美登利はさっと目を通す。
「一年一組、須藤恵」
両脇から坂野今日子と船岡和美も覗き込む。
「この子知ってるよ。調理部の可愛い子」
「佐伯先輩の彼女さんですか?」
「違う、違う。今朝見かけたのは三組の小暮綾香」
可愛い女子に目がない和美はさすがに詳しい。
「中学同じで仲良しなんだと思うよ。タイプの違う美少女ふたりって感じで目立つの。そういえば、体育祭のときに一緒にいなかったかなあ?」
「佐伯先輩のせいですかね……」
和美と今日子が言い合うのを他の三人は黙って聞いていた。『三大巨頭』などと呼ばれていても、男女の機微に関しては女子の情報網に遠く及ばない。
「なんにしろ、明日には来てくれればいいけれど」
須藤恵さん。美登利のつぶやきに綾小路が無言で頷いた。
翌日の朝には雨は止んでいた。確実に昨日より気温が高くなっているのを感じる。
今朝は少しは早く起きれたはずなのに、余裕ぶっていたらいつもの時間になってしまっていた。絶対にもう、遅刻はしない。心に誓っていたから正人は全速力で学校に向かう。
河原沿いの道で、昨日の女子生徒を見つけた。とぼとぼと重い足取りで正人の前を歩いている。
「おい、あんた! 走らないと遅刻する!」
「え……」
ショートボブで目が大きく、背は小柄。ネクタイの色は同じ一年。それがわかって正人は思わずその手を掴む。
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