それはキッスで始まった

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
63 / 63
第五話 鶏口となるも牛後となるなかれ

11.小さな独立国

しおりを挟む
 ただ、制度とはまた別のところで、周りの見る目の改革はムズカシイ。ここなの母親が気に病んでいるのはそこだろう。
 あの家はシングルマザーで四人も子どもがいる、若い男が出入りしてしてた、なんて好奇の目から、育児放棄や虐待の危険はないのか、なんて穿ったものまで。

 家庭が密室になっているといわれる現代、外からの視線も必要で、でもその眼差しは善意のものでなければならない。寛大な気持ちで子育て世代を見守るのが理想だけど、みんながみんなそうじゃないのが悲しいところ。

 人にやさしく、そうすれば、自分も人にやさしくされる。そんな単純な循環で成り立つほど世間は甘くないから、人は強くならざるを得ない。そうじゃなくて本当は、弱いままでもありのままで生きられる世界ならいいのにね。

 大多数に従って依存して我慢なんてしなくたっていい、小さな小さな自分の独立国で責任を持って胸を張って、ときには小さな国同士協力し合えればそれがいいのにな。鶏口牛後。リーダーになってこそ能力が発揮されたりするもんね。

「いや、ニワトリよりウシだろ」
 昨夜、夜道を歩きながらの私の独り言みたいなものに、シモンは口元を歪めてくれたけど。私の現状を揶揄してるのだとしたらたいした性格だけど。まあ、自分の食事(血液)の好みのことだろうけど。




 ここなとまた会おうねってあいさつして、その後は真面目に学校へ行って講義を受けた。
 昨日、マモルが代返してくれたらしく、恩着せがましく学食のカレーを要求され、頼んでないのにと文句を返しながらも、マモルのおせっかいなところはキライじゃないし、カレーなんて安いものだしと最終的にはおごってあげた。

 まだ明るいうちに神明社に帰って日課のトレーニングをこなし、ようやく山の際に太陽が隠れて薄暗くなってきた頃、鳥居の上に黒い影が踊っているのを見つけた。ムササビなら裏の山でよく見かけるけれど、あれはコウモリだ。

 人家に住み着くイエコウモリなら市街地にいることの方が多くて、このあたりに飛んでくるのは珍しい。山中の洞窟をねぐらにしているような種類ならばもっと珍しい。それでじっと目を凝らしていると、小さな影がゆらっとぼやけて膨張したように見えた。

 咄嗟にジャージのポケットの中の木製の指輪に触れながら身構える。影がゆらゆらと布を広げるように大きくなりながら私の前に下りてくる。
「非道な下賤の半妖め! さっさと旦那様を解放せぬか!」
 真っ黒で襟が立ってて裾が長いマントに身を包み、白髪をきれいにオールバックに撫でつけた青白い顔の老人が、私に向かってがなり立てた。

 ええええ、どこから突っ込んだらいいのかわからないくらいツッコミどころ満載なんですけど。とりあえず。
「ええと、どこのおじいちゃんかな……?」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スパークノークス

お気に入りに登録しました~

奈月沙耶
2021.08.16 奈月沙耶

ありがとうございますっ<(_ _)>

解除

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。