それはキッスで始まった

奈月沙耶

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第五話 鶏口となるも牛後となるなかれ

2.迷子

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 梅雨明け宣言が出てから、真夏日が続いた数日後のこの日の午前中は、どういうわけか涼しい風が吹いて過ごしやすかった。

 あさイチの学生課掲示板の前で出会った私とマモルは、なんだよー休講ないのかよーサボるかもう、てな感じに意気投合して回れ右して校門を出た。前期試験の代わりにレポートを提出させる先生のコマだからかまわないっしょ。

 そうして気晴らしにやって来た公園で、半ベソでさまよっていたここなと出会った。迷子になって親の姿をさがしてるのかと思ったら、迷子の弟をさがしているのだと言う。

「お母さんは疲れてるから、ここなが助けてあげるの。ここなはお姉ちゃんで、妹たちはまだ赤ちゃんだから、ここながひなた担当だから」
 ひなたというのが迷子の弟の名前で、ここなの母親は四人の幼児を抱えたシングルマザーであることが推察できた。

 幼女がしゃくりあげながら訴えるのにすっかりほだされたマモルは、ここなを背中におぶって公園内を走り始めた。
 ここは市営の広域運動公園だ。私たちが今いるのは、テニスコートを取り囲むように樹木が植えられた合間合間に、散歩道や、遊具がある遊び場や噴水のある小プールが点在するエリアで、幼児の移動範囲を狭く見たとしてもつぶさに捜索するとなればたいへんである。

 遠ざかるマモルとここなの背中をその場で見送った私は、回れ右して、ここながやって来た方向へと行ってみた。
 道幅が広くなってパーゴラとベンチが並んだ通りで、二人乗りのベビーカーを押した女性と行き合った。

「ここなちゃんとひなたくんのお母さんですか?」
 うろたえた様子で左右を見ながら歩いていた女性は、心配のあまりか潤んだ瞳で、私をはっと見た。目は口ほどに物を言う、だ。
「ここなちゃんなら、私の友だちと一緒にひなたくんをさがしてます。今、連絡してみるので」
 スマホを取り出す私の前で、ここなの母親はへなへなとしゃがみこんだ。

 こっちから電話する前にちょうどマモルからかかってきて、ひなたくんを発見したと教えてくれた。ナイスタイミング。
 ベンチに座って待っていると、ほどなく手をしっかりと握りあった姉弟が走ってやって来た。マモルもぽてぽてと後から追いかけてくる。

「お母さん!」
「もう、どこに行ってたの!?」
 しかりつける声をあげつつ、ここなの母親は二人の子どもをぎゅうっと抱き止めた。
「お母さんから離れちゃダメでしょ」
 ごめんなさい、ごめんね、と口々に謝る子どもたち。すぐに見つかって良かったよね、大事にならなくてさ。

 私とマモルが顔を見合わせていると、ここなの母親が「あの」と私たちを呼んだ。
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