44 / 63
第四話 夏越の祓
5.夜に
しおりを挟む
「あの女とおまえ、名前が似てるな」
「師匠の名前から一字もらったから。同じ師匠に術を習ったんだ」
「慎也と、あの克也って男もか」
「まあね。同じようなもん」
「親からもらった名前じゃないってことだな」
シモンの声は静かで機嫌が悪そうではなかったけれど、刻々と夜が増してくる中で表情はよく見えなくなった。
「だからオレに簡単に名前をよこしたんだな」
それは単に使役したかったからなのだけど。ゲンキンな私の心の声をよそにシモンは少ししんみりしてるみたいだ。茅の輪の支柱の竹に手をかけて輪の上部を見上げている。両サイドに竹の支柱を立てて輪を固定するのが我が神明社風だ。
「ところで、なんだこれ?」
「この輪をくぐってお祓いをするんだよ」
「身を清めるってことだよな」
「くぐってごらんよ」
「オレが?」
シモンは鼻で笑ったけれど。
「怖いの? 浄化されちゃったりしないから、くぐってごらん」
挑発してやると、ぐっとサンダル履きの足で茅の輪の下部をまたいで頭を屈めた。素直なヤツ。
輪をくぐって私の前に立ったシモンはぽつんと言った。
「なんともないな」
「あたりまえ。信じてないんだから」
「なるほど」
未知のものを恐れる純然たる恐怖と信仰心からくる畏怖とは種類が違う。
「明日は祭か。オレには関係ないけど」
「関係あるよ」
膝小僧に手をあてて立ち上がり私は正面からシモンを見た。
「大祓の本番は夜だから。あんたにも手伝ってもらう」
翌日の午後、表向きの儀礼である大祓詞の前には神楽舞の奉納もした。
神楽は私と貴和子の役目、サービス演目なわけだから見た目が肝心だと承知してはいるけれど正装しなくちゃならないのが気が重い。
「綺麗ですよ、十和子さん」
それでも慎也さんにお化粧してもらって誉められれば気分が上がる。私って単純なヤツなのだ。更に二割増しツンと澄ました貴和子に睨まれ、口元を引き締めた。
どうにかこうにか舞の奉納を終え、私はさっさと髢(かもじ)や冠をとっぱらって化粧を落とした。私は化粧が大嫌い。ツラの皮をもう一枚貼り付けてる気分になる。
慎也さんと交代で売店に出ないと。この時期にしか準備しないミニ茅の輪のお守りを目当てに来てくれる人もいるのだ。
慎也さんがあげる祝詞を拝聴しながら店番をしていると、筒井さんちのおばさんが婦人会で販売しているラムネを差し入れに持ってきてくれた。
「師匠の名前から一字もらったから。同じ師匠に術を習ったんだ」
「慎也と、あの克也って男もか」
「まあね。同じようなもん」
「親からもらった名前じゃないってことだな」
シモンの声は静かで機嫌が悪そうではなかったけれど、刻々と夜が増してくる中で表情はよく見えなくなった。
「だからオレに簡単に名前をよこしたんだな」
それは単に使役したかったからなのだけど。ゲンキンな私の心の声をよそにシモンは少ししんみりしてるみたいだ。茅の輪の支柱の竹に手をかけて輪の上部を見上げている。両サイドに竹の支柱を立てて輪を固定するのが我が神明社風だ。
「ところで、なんだこれ?」
「この輪をくぐってお祓いをするんだよ」
「身を清めるってことだよな」
「くぐってごらんよ」
「オレが?」
シモンは鼻で笑ったけれど。
「怖いの? 浄化されちゃったりしないから、くぐってごらん」
挑発してやると、ぐっとサンダル履きの足で茅の輪の下部をまたいで頭を屈めた。素直なヤツ。
輪をくぐって私の前に立ったシモンはぽつんと言った。
「なんともないな」
「あたりまえ。信じてないんだから」
「なるほど」
未知のものを恐れる純然たる恐怖と信仰心からくる畏怖とは種類が違う。
「明日は祭か。オレには関係ないけど」
「関係あるよ」
膝小僧に手をあてて立ち上がり私は正面からシモンを見た。
「大祓の本番は夜だから。あんたにも手伝ってもらう」
翌日の午後、表向きの儀礼である大祓詞の前には神楽舞の奉納もした。
神楽は私と貴和子の役目、サービス演目なわけだから見た目が肝心だと承知してはいるけれど正装しなくちゃならないのが気が重い。
「綺麗ですよ、十和子さん」
それでも慎也さんにお化粧してもらって誉められれば気分が上がる。私って単純なヤツなのだ。更に二割増しツンと澄ました貴和子に睨まれ、口元を引き締めた。
どうにかこうにか舞の奉納を終え、私はさっさと髢(かもじ)や冠をとっぱらって化粧を落とした。私は化粧が大嫌い。ツラの皮をもう一枚貼り付けてる気分になる。
慎也さんと交代で売店に出ないと。この時期にしか準備しないミニ茅の輪のお守りを目当てに来てくれる人もいるのだ。
慎也さんがあげる祝詞を拝聴しながら店番をしていると、筒井さんちのおばさんが婦人会で販売しているラムネを差し入れに持ってきてくれた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
彼女の母は蜜の味
緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる