34 / 63
第三話 夫婦喧嘩は犬も食わない
6.家庭訪問
しおりを挟む
「それで、仲直り?」
「っぽいですよね。でも」
これで納めていいものかどうなのか、なるみの中で葛藤があるらしかった。
「今回はこれですんでも、こういうことってまたあるんじゃないかって」
だよね。私だってそう思うぞ。
「でも。ああいうことを言う人だって見抜けなかったのはわたしなんだよなって……」
「ストップ」
なるみのくちびるの端が引きつるのを見て、私は手と声をあげていた。
「それダメ。相手の人間性の問題を自分の責任みたいに思っちゃうの、よくないよ。夫婦だろうが別々の人間なんだから」
なるみは目が覚めたみたいなきょとんとした顔で私を見て、あの、といきなり言った。
「トワさん、今からうちに来てくれませんか?」
滝沢夫婦の愛の住処は、山を下って上って、直線距離にしたらけっこうすぐの場所だった。
道順を聞きながら外に出ると雨があがっていて、ちょうどよかったと原付で向かった。初めて行く通りだったけれど、神明社の方へ繋がるっぽい抜け道があったから帰りはそっちに行ってみようと思った。
近年人気が高まっているという高台の新興分譲地。新築工事中の一戸建が並ぶ界隈からはずれた場所にメゾネットタイプの賃貸マンションが二棟並んでいて、駐車場になるみのラパンが停まっていた。
駐輪スペースに原付を置いて、部屋番号を確認しながらインターホンを押して待っていると、ぱたぱたと軽い足音の後、玄関ドアが開いてなるみが顔を出した。
「早かったかな?」
「イエ、ダイジョウブです」
おそるおそるといったふうになるみは部屋の中に私を入れてくれた。まず目に入った玄関は何足も靴が出しっぱなしということもなく、靴箱の上も片づいていて、百均で見たことのあるようなないようなインテリア小物が控えめに佇んでいた。
玄関の目の前がリビングらしく、雨あがりの煙るような光がレースのカーテン越しに室内に差し込んでいた。広さは八帖くらい、テレビとソファとローテーブル以外は横長に置かれたカラーボックスがあるだけ。さっぱりと物が少なく、そしてすっきりと片づいた印象だ。来客に慌てて掃除したなんて雰囲気はいっさいなく、普段からきれいにしてるのだろうなっていうのを感じる。
「すごい」
私は思わず口にする。
「きれいにしてるんだね」
そうとしか言いようがない。ソファのカバーには皺も寄ってないしましてや汚れやシミなんかもない。ドラマの中でお姑さんがやるみたいに人差し指でテーブルの上を拭ってもホコリなんか付かないだろう。
「っぽいですよね。でも」
これで納めていいものかどうなのか、なるみの中で葛藤があるらしかった。
「今回はこれですんでも、こういうことってまたあるんじゃないかって」
だよね。私だってそう思うぞ。
「でも。ああいうことを言う人だって見抜けなかったのはわたしなんだよなって……」
「ストップ」
なるみのくちびるの端が引きつるのを見て、私は手と声をあげていた。
「それダメ。相手の人間性の問題を自分の責任みたいに思っちゃうの、よくないよ。夫婦だろうが別々の人間なんだから」
なるみは目が覚めたみたいなきょとんとした顔で私を見て、あの、といきなり言った。
「トワさん、今からうちに来てくれませんか?」
滝沢夫婦の愛の住処は、山を下って上って、直線距離にしたらけっこうすぐの場所だった。
道順を聞きながら外に出ると雨があがっていて、ちょうどよかったと原付で向かった。初めて行く通りだったけれど、神明社の方へ繋がるっぽい抜け道があったから帰りはそっちに行ってみようと思った。
近年人気が高まっているという高台の新興分譲地。新築工事中の一戸建が並ぶ界隈からはずれた場所にメゾネットタイプの賃貸マンションが二棟並んでいて、駐車場になるみのラパンが停まっていた。
駐輪スペースに原付を置いて、部屋番号を確認しながらインターホンを押して待っていると、ぱたぱたと軽い足音の後、玄関ドアが開いてなるみが顔を出した。
「早かったかな?」
「イエ、ダイジョウブです」
おそるおそるといったふうになるみは部屋の中に私を入れてくれた。まず目に入った玄関は何足も靴が出しっぱなしということもなく、靴箱の上も片づいていて、百均で見たことのあるようなないようなインテリア小物が控えめに佇んでいた。
玄関の目の前がリビングらしく、雨あがりの煙るような光がレースのカーテン越しに室内に差し込んでいた。広さは八帖くらい、テレビとソファとローテーブル以外は横長に置かれたカラーボックスがあるだけ。さっぱりと物が少なく、そしてすっきりと片づいた印象だ。来客に慌てて掃除したなんて雰囲気はいっさいなく、普段からきれいにしてるのだろうなっていうのを感じる。
「すごい」
私は思わず口にする。
「きれいにしてるんだね」
そうとしか言いようがない。ソファのカバーには皺も寄ってないしましてや汚れやシミなんかもない。ドラマの中でお姑さんがやるみたいに人差し指でテーブルの上を拭ってもホコリなんか付かないだろう。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる