33 / 63
第三話 夫婦喧嘩は犬も食わない
5.同棲!?
しおりを挟む翌日の午後は講義がなかったから、昼食は家で慎也さんと一緒に冷やしうどんをいただいた。
空いた時間で境内のお掃除をって思ったけど、正午を過ぎると曇天からしとしとと雨が降り出した。仕方なく居間で腹筋していると、紫色の地に小花模様が散ったアジアンな感じのおしゃれな傘を差した人物が庭へと入ってきた。
「えと……」
傘を傾けて顔を覗かせたのは、昨夜出会った滝沢なるみだった。
「もう来てくれたの?」
「いえ。遅くなりました」
時間があるならあがっていってと誘うとなるみは頷いたので、私は玄関へとまわってくれるよう案内した。
蒸し蒸しするなか来てくれたのだからと窓を閉めてエアコンを入れた後、廊下から玄関へと向かう。すると浅葱色の袴姿の慎也さんがなるみを連れてきてくれた。
お茶は慎也さんにお願いして居間にふたりで落ち着くと、なるみはさっそく樋口一葉さんを返してくれた。
「ありがとうございました」
「いいえー。朝、おうちに帰ったの?」
「はい。ダンナの顔見たくなかったから、もういないだろうなって時間に」
ひょいと肩を上げてくちびるをすぼめたなるみは、ズルをしてかくれんぼに勝ったいたずらっこみたいに見えなくもなかった。
部屋着っぽいゆるっとした服装で疲れた顔つきをしていた昨晩とはがらっと変わり、今うちのちゃぶ台の前に座っているなるみは、前髪をすっきりと上げてメイクもばっちり、Tシャツにレギパンというさっぱりしたコーディネートなのになぜかおしゃれ感が漂うという、とても魅力的な女の子だった。
「準備してあった夕飯しっかり食べて、おちゃわん洗ってくれてありました。ごめんねって置き手紙があって」
「そっか」
「ネカフェで朝起きたときには、わたし何やってんだろうって思って、帰ってそれ見て、なんか力が抜けちゃって」
「はは」
慎也さんが冷茶とお菓子を持ってきてくれて、どうぞごゆっくりなんて言って戻っていった。
なるみが目をきらきらさせて潜めた声で言った。
「優しそうな人ですね~。同棲してるんですか?」
いやぁ、同棲とか照れるう。むしろフツウに私が慎也さんに寄生してるふうにご近所さんからは見られてるっぽいのだけど。ここはオトナの余裕な感じで思わせぶりに曖昧にしておこう。ささやかなミエである。
「で? ダンナさんは反省してるみたいだけど」
私が強引に話を戻すと、なるみはちょっと俯いた。
「一応わたしも、心配かけてごめんなさいってメッセはしたけど……」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる