28 / 63
第二話 窮鼠猫を噛む
17.山の中
しおりを挟む
猫の気配が強い町に入れず憑坐(よりまし)を使ってまであんずを追いかけて何がしたかったのか。
シモンが言った通り、モノノケの感覚では「嫁にする」がいちばんあり得そうだ。でも。でも、ものすごーくポジティブな可能性を言わせてもらえば、何かを伝えたかっただけなのかもしれない、と思いもする。なんとなくだけど。
「ああ。そういえば」
今夜はスタンダードにニワトリの血液パックを黙々と吸っていたシモンがいきなり話に入ってきた。
「昨日山の中で気になるモン見つけたんだ」
今から一緒に来いと私に言う。めんどくさいなあと思いつつ食べ終わってから懐中電灯を持ってシモンの後についていった。
雲に遮られて乏しい月明かりの中、足元を照らす懐中電灯の光だけを頼りに道なき斜面を歩かされて私は辟易する。
「血ぃ吸わせれば担いで飛んでってやるのに」
「ぜってー嫌だ」
私の血も、本当はくちびるだってそんなに安くないやい。
辿り着いてみればその場所は私の大学の目と鼻の先だった。
「あんた、こんなとこうろうろしてんの?」
「誰にも見つかってねーよ。それより見ろよ」
足先でシモンが示す所を懐中電灯で照らす。草むらに半ば埋もれるようにして小さな岩がそこにあった。文字は彫り込まれていないけど、鳥獣戯画っぽいネズミが描いてある。
「供養塔だね」
「やっぱり? 馬頭観音の石碑みたいなもんだな?」
「うん」
具体的にはどういう目的のものかはわからない。解剖実験後ラットの供養は業者の手できちんと行われていると聞いてる。でも、この石碑が置いてあるのが家政学部の三号館の北――子(ねずみ)の方向であることを思うと、以前解剖に関わった人たちがここで手を合わせたのだろうかという気もする。
シモンは草むらにしゃがみこんで石碑を撫でた。
「残り香があるけど、きれいなもんだ」
「そっか」
あまり反省はしない私だけど、申し訳なくは思う。ごめんね気づいてあげられなくて。
生きようとすることが生き物の本能であるなら、存在が危うくなったモノが発するメッセージも大体はひとつだ。「忘れないで」ていうこと。
私はジャージのポケットから木製の指輪を出して嵌めた。右手を振り上げる。
「こういうのは、気持ちだよね」
仕切り直す必要なんてないかもだけど、心静かに送ってあげたくて。
シャン、シャン。静かな山中で控えめに鈴を振る。雲が途切れ、月明かりが差す。私の足元で蹲った格好のままシモンもしばらく静かにしていてくれた。
シモンが言った通り、モノノケの感覚では「嫁にする」がいちばんあり得そうだ。でも。でも、ものすごーくポジティブな可能性を言わせてもらえば、何かを伝えたかっただけなのかもしれない、と思いもする。なんとなくだけど。
「ああ。そういえば」
今夜はスタンダードにニワトリの血液パックを黙々と吸っていたシモンがいきなり話に入ってきた。
「昨日山の中で気になるモン見つけたんだ」
今から一緒に来いと私に言う。めんどくさいなあと思いつつ食べ終わってから懐中電灯を持ってシモンの後についていった。
雲に遮られて乏しい月明かりの中、足元を照らす懐中電灯の光だけを頼りに道なき斜面を歩かされて私は辟易する。
「血ぃ吸わせれば担いで飛んでってやるのに」
「ぜってー嫌だ」
私の血も、本当はくちびるだってそんなに安くないやい。
辿り着いてみればその場所は私の大学の目と鼻の先だった。
「あんた、こんなとこうろうろしてんの?」
「誰にも見つかってねーよ。それより見ろよ」
足先でシモンが示す所を懐中電灯で照らす。草むらに半ば埋もれるようにして小さな岩がそこにあった。文字は彫り込まれていないけど、鳥獣戯画っぽいネズミが描いてある。
「供養塔だね」
「やっぱり? 馬頭観音の石碑みたいなもんだな?」
「うん」
具体的にはどういう目的のものかはわからない。解剖実験後ラットの供養は業者の手できちんと行われていると聞いてる。でも、この石碑が置いてあるのが家政学部の三号館の北――子(ねずみ)の方向であることを思うと、以前解剖に関わった人たちがここで手を合わせたのだろうかという気もする。
シモンは草むらにしゃがみこんで石碑を撫でた。
「残り香があるけど、きれいなもんだ」
「そっか」
あまり反省はしない私だけど、申し訳なくは思う。ごめんね気づいてあげられなくて。
生きようとすることが生き物の本能であるなら、存在が危うくなったモノが発するメッセージも大体はひとつだ。「忘れないで」ていうこと。
私はジャージのポケットから木製の指輪を出して嵌めた。右手を振り上げる。
「こういうのは、気持ちだよね」
仕切り直す必要なんてないかもだけど、心静かに送ってあげたくて。
シャン、シャン。静かな山中で控えめに鈴を振る。雲が途切れ、月明かりが差す。私の足元で蹲った格好のままシモンもしばらく静かにしていてくれた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる