それはキッスで始まった

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
3 / 63
第一話 馬の耳に念仏

2.町の小径

しおりを挟む
 にしてもうちの学食のラーメンは不味い! なんのコクもないスープにゆるゆるのたまご麺、昔懐かしの中華そばといえばそうかもしれないけど、不味いにもほどがある。
 この不味さで存在を許されているのだからラーメンに対するみんなの懐の深さを感じずにはいられない。不味いラーメンも美味い的な。さすがニッポンの国民食(ソウルフード)だよね!
 ……で、なんの話だっけ?

「バカにすんなよ、真っ暗闇で馬の頭がいきなり出てきてみろよ、ビビるぞ」
「真っ暗ってわけでもないって言ったじゃん」
「真っ暗だったら見えないだろうが。見えなけりゃ平和だろうが」
「つまり、そのお化けは自分で光ってたりはしなかったわけね」
「お、おう。そうなるか」

 ふうん、と目を細めて私はラーメンのどんぶりを持ち上げて残りのスープを飲み干した。
 うう、健康に悪いことをしちまったぜ。この背徳感がたまらん。今日は二倍トレーニングを頑張らねば。
「ごちそうさまでした」
 私はきちんと手を合わせて頭を下げる。マモルは自分が作ったわけでもないくせにおそまつさまでした、なんてつぶやいている。

 空になった食器を回収コーナーに置きに行ってから私たちは学食を出た。
「じゃ、代返よろ~」
 デイバッグを肩にかけてさっそく手を上げた私に、マモルはきょとんと眼を丸くする。
「へ?」
「さっそく行ってくる。その馬頭観音のとこ。南口を左に行けばいいんだよね?」
「あ、ああ。行けばわかるよ」
「りょーかい。行ってきまーす」

 しめしめ。講義をサボるいい口実ができたぜ。私はいそいそと駐輪場に向かって愛車であるイエローのビーノを引っ張り出す。
 午後の講義に合わせてやって来る顔見知りの学生に手を振りながら私は逆にキャンパスを出て、かろうじて舗装されている農道の坂道を下り始めた。




 電車の待ち時間が長いなら原付でくだんの駅まで行こうかと考えながらとりあえず最寄りの駅へと向かったのだが、時間がちょうど合ったので切符を買って二駅向こうのマモルがいつも使っている駅まで移動した。

 南口は小さいけれど小奇麗に改装したらしく、ロータリーの端にある交番の建物もポップな見た目の新しいものだった。その裏の小径へと私と同じ電車を降りた数人が歩いていく。なるほど、ここが抜け道か。

 マモルの話の通り、幅の狭い砂利道だった。この砂利もまだ白かったから、最近敷かれたものかもしれない。でも既に所々で層が薄くなりその下の土がむき出しになっている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...