傷つきたくない私たちは

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
97 / 103
おまけ2 はじめての

2.弟のともだち

しおりを挟む
 上機嫌で家に帰ると弟の友だちが来ているようだった。
「一緒に勉強するんですってよ」

 母親に頼まれて、美紀は紅茶とお菓子を持って二階への階段を上る。弟の部屋のドアをノックすると、すぐに弟が顔を覗かせた。
「なんだ、姉ちゃんか」
「ヘンな本見てないよね」
「ばーか。宿題やってんだよ」
 気をつけながらお盆をローテーブルに置き、美紀はそこにいる弟の友人に目を向けた。

「こんにちは」
「こんにちは。お邪魔してます」
 まったく予想に反した。今まで弟が連れてきた汗臭くぎゃあぎゃあうるさい高校生男子とは百八十度違う。
「同じクラスの子?」
「うんにゃ、となり。志望校同じでさ、進路指導室でつい昨日仲良くなったんだ。な?」
「はい」
 にこっと彼は微笑む。
「ふーん」
 ティーカップとクッキーのお皿を並べながら美紀は相槌を打つ。

「トイレ行ってくる」
「うん」
 弟がドアを閉めて部屋を出ていく。美紀はその場に座りなおして彼の顔を改めて見た。
「お茶どうぞ」
「はい。ありがとうございます」

 見れば見るほど珍しいタイプだ。きちんと正座して姿勢を正してソーサーを持ち上げる。
「わ、良い匂いですね、このお茶。葉っぱですよね」
「母が好きだから。苦手かな」
「大丈夫です」
 にこっと笑ってカップに口を付ける所作は流れるようだ。

「躾の厳しい家の子?」
「え? いや、そんなことないですけど」
 きょとんと眼を丸くして彼はソーサーを戻す。
「普通の家ですよ」
 伏し目がちになって笑う顔が寂しそうにも見える。一方ですべすべの頬がやわらかそうで、由梨のほっぺたみたいだ。触りたいかもしれない。

「なんだよ、まだいたのかよ」
 戻ってきた弟が意外そうに姉を見る。
「勉強すんだからあっち行って」
「お姉さまに向かってその口の利き方はなんですか」
「勉強のひとつも教えてから言ってくれ」
 姉弟のごく普通のコミュニケーションをしていたら彼にくすりと笑われた。

「ほら、もう邪魔だからあっち行って」
「はいはい。頑張ってね」
 最後に彼に向かって言うと、ぺこりと会釈してくれた。可愛いかもしれない。お盆を持って階段を下りながら美紀は考えてしまう。あの子、これからちょくちょく来るといいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   

設樂理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る

通りすがりの冒険者
ライト文芸
高校2年の安藤次郎は不良たちにからまれ、逃げ出した先の教会でフランチェスカに出会う。 スペインからやってきた美少女はなんと、あのフランシスコ・ザビエルを先祖に持つ見習いシスター!? ゲーマー&ロック好きのものぐさなフランチェスカが巻き起こす笑って泣けて、時にはラブコメあり、時には海外を舞台に大暴れ! 破天荒で型破りだけど人情味あふれる見習いシスターのドタバタコメディー!

【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。

大森 樹
恋愛
「君だけを愛している」 「サム、もちろん私も愛しているわ」  伯爵令嬢のリリー・スティアートは八年前からずっと恋焦がれていた騎士サムの甘い言葉を聞いていた。そう……『私でない女性』に対して言っているのを。  告白もしていないのに振られた私は、ショックで泣いていると喧嘩ばかりしている大嫌いな幼馴染の魔法使いアイザックに見つかってしまう。  泣いていることを揶揄われると思いきや、なんだか急に優しくなって気持ち悪い。  リリーとアイザックの関係はどう変わっていくのか?そしてなにやら、リリーは誰かに狙われているようで……一体それは誰なのか?なぜ狙われなければならないのか。 どんな形であれハッピーエンド+完結保証します。

闇鍋【一話完結短編集】

だんぞう
ライト文芸
奇譚、SF、ファンタジー、軽めの怪談などの風味を集めた短編集です。 ジャンルを横断しているように見えるのは、「日常にある悲喜こもごもに非日常が少し混ざる」という意味では自分の中では同じカテゴリであるからです。アルファポリスさんに「ライト文芸」というジャンルがあり、本当に嬉しいです。 念のためタイトルの前に風味ジャンルを添えますので、どうぞご自由につまみ食いしてください。 読んでくださった方の良い気分転換になれれば幸いです。

仮初家族

ゴールデンフィッシュメダル
ライト文芸
エリカは高校2年生。 親が失踪してからなんとか一人で踏ん張って生きている。 当たり前を当たり前に与えられなかった少女がそれでも頑張ってなんとか光を見つけるまでの物語。

男子高校生を生のまま食べると美味しい

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
ライト文芸
就活生の会社訪問。やってきたのは、「うす」と挨拶してきたヌボーっとしている男子高校生。  社会常識ゼロ。このまま面接に進むとやばい――? そう思った人事担当者 兼 独身女性のアオイは、会社に内緒であれやこれやと面倒を見ていきます。  人事担当者のお姉さんが朴訥系男子高校生を愛でるお話。

僕と彼女の七日間

PeDaLu
ライト文芸
ある日、僕に妹が出来た。 その妹は「お兄ちゃんは七日後に死ぬわ」そう言った。 その翌日に同じような境遇の女の子と出会い、僕らは共に六日後を目指すことになる。 僕らはどうなってしまうのか。 僕の答えを探す六日間が始まる。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...