傷つきたくない私たちは

奈月沙耶

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第20話 我儘

1.死ぬんじゃないの?

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 もともと夏は苦手なところに交代勤務の体調管理が難しく、らしくもなく食が細くなってしまった。
「さっぱりしたものが食べたい」
 由梨がリクエストすると美紀は親友の言葉に目を剝いた。
「あんた死ぬんじゃないの?」
「どうして」
「肉が食べれなくなったらお終いだよ」

 確かに。元気のない由梨を励まそうとしたのか、美紀が由梨の休みに合わせて有休を取ってくれ、手近な観光地に涼みに出かけた。
 おかげでお目当ての湖畔のホテルでランチバイキングを楽しむ頃には、食欲もだいぶ戻っていた。

「しあわせ」
 目の前で切り分けてもらったローストビーフを頬張る由梨の顔を見て、美紀はヨカッタヨカッタとつぶやいた。
 こうしたお出かけの際にはフットワークの軽い美紀がエスコートしてくれる。惚れてしまいそうだ。
「会社ではどう?」
「なんとか平常心」
「そっか」
 温野菜をつつきながら美紀はそっとつぶやいた。
「時間が解決してくれるよ」




 大きな会議のいくつかを終え、小田も睦子も肩の荷が下りたようだった。
「あとは上の話だよ。こっちはもう知らない」
 呑気そうにしてはいても口数が減っていたことで睦子が抱えていたストレスもわかる気がした。

「派遣会社にたくさんお金が入ってみんなの待遇が上がるといいね」
 そんなふうに話していたが難しいことは由梨にはわからない。ただ睦子は派遣の担当さんが慰労会をセッティングしてくれるのだと、とても楽しみにしていた。他所の企業で工程管理をしている面々も集まる会になるのだという。向上心剝き出しの睦子は、交流会にやる気満々なようだった。
「結婚相手と出会うかもしれないじゃんっ」

 小田は小田で気が進まないようなことをこぼしていたけど、彼が行かないわけにもいかない。睦子にごり押しされるようにして行くと頷いていた。




 そんなわけでその週明けは睦子は実に上機嫌で、予想通り由梨の休憩時間に合わせて報告をしに来た。

「できたばっかのおしゃれなイタリアンダイニングを貸し切りしてくれててね、すごく良かったよ」
「へえ。いいなー。良い人はいた?」
「いやいや。みんなオヤジばっかだったよ。かと思えば実年齢はあたしより下だったりしてさ」
「はは……」

「小田くんは小田くんでなんかくたびれちゃっててさー。あ、またクルマ出してもらったんだけど」
「うん」
「カノジョとうまくいってないらしいね。悩んで憔悴しちゃってる」
「……カノジョさんが仕事辞めたがってるっていうのは聞いたけど」

「そんなのは揺さぶりだろうけど」
 シニカルにくちびるを曲げて睦子が言った言葉に、由梨は驚く。
「小田くんをせっついてるんでしょ」
「……え?」
 どういうこと? 呑み込めない由梨に向かって睦子は意地悪く微笑む。
「要するに、結婚したいんだよ。カノジョの方が」
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