傷つきたくない私たちは

奈月沙耶

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第5話 キャベツをシェア

1.買い物

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 翌日の休日は天気も良くて掃除も洗濯もはかどった。気分が良い。少し休憩しようとコーヒーを淹れてテレビをつける。朝のワイドショー番組で野菜の価格が高いと取り上げられていた。

 そうだ。夕方、美紀が迎えに来てくれるから今のうちに買い物に行っておこう。何か安売りしていれば買い溜めして、作り置き調理をしておけば後が楽だ。
 冷蔵庫の中をチェックするとお茶のペットボトルとマーガリンくらいしかない。会社に持っていくお弁当はおにぎりだけでも我慢できるが、野菜が圧倒的に足りない。

 由梨は自転車を引っ張り出してスーパーにでかけた。会社方面とは反対方向の店に行くことにする。今日は金曜日で、その店は毎週金曜日に玉子が安くなるのだ。

 まだ午前十時。客足はまばらだ。由梨はカゴを持ってまずは野菜を物色する。高い。きのこ類まで高い。玉ねぎくらいしか買えるものがない。
 諦めてチルドのコーナーでおかずになりそうなものを選んだ後、ズボラ調理には欠かせないめんつゆを取りに行く。玉子を二パック買って味付け卵を作ろうか。

 考えながら調味料の棚を眺めているうちに、ホイコーローの素が安売りされているのを見つけた。『在庫限りの大特価!』こういうコトバに女子は弱い。パッケージの写真に食欲をそそられる。思わず二箱カゴの中に放り込んでいた。

 次に迷わず精肉コーナーへ。豚の小間切れが安い。よし。そうなると問題はキャベツだ。玉ねぎのホイコーローでは悲しすぎる。
 野菜売り場に戻ってキャベツの価格のポップを睨みつける。一個二百円。高すぎる。二分の一ならどうだろう。横に視線を流して確認すると半分で百三十円。バカにしてるのか。由梨は膝を屈めた姿勢のまま悶々と懊悩する。

「高いな」
「……」
「半分なら百円にしろよって感じだな」
「……」
「一個買って分けるか?」
「……?」

 まさか自分に話しかけられているとは思わなかったから、反応が遅くなった。長身で短髪黒髪の同年代らしい男性が腕組をして由梨の隣に立っていた。ようやく顔を上げた由梨を横目に見る。

「どうする?」
 ていうか、誰ですか? 疑問がありありと表情に出ていたのだろう。彼は片方の眉を上げ、腰を屈めたままの由梨の顔を覗き込んだ。
「……白井だけど」
「あ……」
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