傷つきたくない私たちは

奈月沙耶

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第1話 苦手な職場

3.どうせ

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 半袖のTシャツの上から薄手のパーカーを羽織って小さなショルダーバッグを持てば、それで帰り支度は終わりだった。

「今日カレシのとこ行くんでしょ」
「うん。夜食どうしようかなあ」
 年下の女子ふたりはいつもお互いの彼氏の話しかしない。由梨は無言のままいちばん後から更衣室を出る。

 上履きからスニーカーに履き替えて外に出ると、昼間に比べて気温はだいぶ下がっていた。
「やっぱり夜はまだ肌寒いね」
 毎日交わしているどうでもいい会話をまたしながら外階段を下りていく。建屋の脇には駐輪場があり自転車通勤の由梨はここで彼女たちと別れる。
「お疲れさまー」
「気をつけてね」
「お疲れさまです」

 三人と別れ由梨はようやく、ようやく心の底からほっとする。自分の自転車を引っ張り出してすぐそばの正門ゲートまで歩いて引いて行く。守衛室前の機能門柱のカードリーダーの部分にICカードを翳す。ピッと反応したのを確認してから正門を出て自転車に乗った。

 工場街の夜道は静かだ。街灯が多いけれどやっぱり怖い。住宅地に入るまでは神経を尖らせる。とはいえ明日は休みだから気分は軽い。
 中勤と朝勤の間の休日は一日しかない。午後十時に仕事が終わってから翌々日の朝七時まで。時間に換算すれば短いが、嬉しいものは嬉しい。

 帰り道の途中にある二十四時間営業のスーパーや、回り道をして深夜まで開いている古本ショップに立ち読みに行くことも考えたが、今夜はまっすぐ家に帰ることにする。
 さっさとシャワーを浴びて、お菓子を食べながら録り溜めしてあるドラマや映画を観ようと決めた。慣れない職場のことは忘れ自分の楽しみを追求しなければ。

 と考えて、由梨はやっぱりスーパーに寄っていくことにする。この時間なら割引の総菜をゲットできるかもしれない。缶ビールも買ってしまおう。
 若い娘の行動にしてはおじさん臭い気もするが気にしたらいけない。どうせ彼氏なんていないのだから。
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