2 / 4
2
しおりを挟む
「え? あ、いいえ。そういうわけでは」
「あ、ごめん。勘違い」
「ああ、うん。……でも、私程度の腕じゃ、そんな慎重になるほどのことでもないし」
抱えた膝を引き寄せて片方の頬を当てながら顔を斜めにし、彼女は僕を見上げて笑った。
「全国だって七位止まりでさ。詳しくない人はすごいって褒めてくれるけど、上には上がいるんだあ」
「ああ。そりゃまあ、そうだよな」
僕が頷くと、彼女は目を丸くしてからふきだした。
「ふつうはそんなことないよって否定してくれるのに、同意しちゃうんだ?」
「え。や……ごめん」
「いいよ、いいよ。正直で嬉しいよ」
くすくすお腹を抱えて彼女は笑っている。いつもの上品な雰囲気とは少し違う。僕は自分が何を言おうとしてるのかも分からないまま口を開きかけた。でも。
「呼ばれてるよ?」
集合がかかって皆が輪になって集まっている。行かなきゃならない。僕は後ろ髪を引かれる思いで彼女のそばを後にした。
ほどなく彼女と友人は別れて、彼女は別の同級生と付き合い始めた。
「大事にしてたつもりだったんだけどなあ」
喧嘩をしたり何かが起こったわけじゃない。段々としっくりこなくなってきて会わない日が続いて、気が付いたら終わっていたという。嘆くそいつの背中を叩きながら、またタイミングが悪かった、僕はそのことをはっきり自覚していた。憔悴している友人をよそに彼女を口説くなんてことは僕にはできなかった。
それからは特に接点のないまま僕たちは高校を卒業した。三年間通していちばん仲が良かったはずのそいつとも連絡を取らなくなり、僕は成人式を迎えた。
中学時代の同級生が集まる地元の成人式で彼女のうわさを聞いた。高校も同じだったメンバーが話していたのだ。
「学生結婚だってよ。相手みっつ上の社会人とかって」
「へーえ。金持ち?」
「そうじゃないかな。いいよねえ、美人は」
「美人てわけでもないんだけどなあ。モテるんだよねえ、あやかりたいわあ」
「式終わったら、部活のメンバーで合流しないかって。知り合い呼んで合コンみたいにしようって」
「ははは、言い出したの誰? そっちが目的なんじゃないの?」
けらけら笑い合う元同級生女子たちと目が合った。誘われるのは必然だった。
振袖や袴から着替えた後、繁華街の居酒屋に今度は高校時代の同級生が集まった。卒業して二年しか経ってない。なのに学生服からこなれた私服姿に変わったそいつらはみんな別人のようにきらきらして見えた。
「あ、ごめん。勘違い」
「ああ、うん。……でも、私程度の腕じゃ、そんな慎重になるほどのことでもないし」
抱えた膝を引き寄せて片方の頬を当てながら顔を斜めにし、彼女は僕を見上げて笑った。
「全国だって七位止まりでさ。詳しくない人はすごいって褒めてくれるけど、上には上がいるんだあ」
「ああ。そりゃまあ、そうだよな」
僕が頷くと、彼女は目を丸くしてからふきだした。
「ふつうはそんなことないよって否定してくれるのに、同意しちゃうんだ?」
「え。や……ごめん」
「いいよ、いいよ。正直で嬉しいよ」
くすくすお腹を抱えて彼女は笑っている。いつもの上品な雰囲気とは少し違う。僕は自分が何を言おうとしてるのかも分からないまま口を開きかけた。でも。
「呼ばれてるよ?」
集合がかかって皆が輪になって集まっている。行かなきゃならない。僕は後ろ髪を引かれる思いで彼女のそばを後にした。
ほどなく彼女と友人は別れて、彼女は別の同級生と付き合い始めた。
「大事にしてたつもりだったんだけどなあ」
喧嘩をしたり何かが起こったわけじゃない。段々としっくりこなくなってきて会わない日が続いて、気が付いたら終わっていたという。嘆くそいつの背中を叩きながら、またタイミングが悪かった、僕はそのことをはっきり自覚していた。憔悴している友人をよそに彼女を口説くなんてことは僕にはできなかった。
それからは特に接点のないまま僕たちは高校を卒業した。三年間通していちばん仲が良かったはずのそいつとも連絡を取らなくなり、僕は成人式を迎えた。
中学時代の同級生が集まる地元の成人式で彼女のうわさを聞いた。高校も同じだったメンバーが話していたのだ。
「学生結婚だってよ。相手みっつ上の社会人とかって」
「へーえ。金持ち?」
「そうじゃないかな。いいよねえ、美人は」
「美人てわけでもないんだけどなあ。モテるんだよねえ、あやかりたいわあ」
「式終わったら、部活のメンバーで合流しないかって。知り合い呼んで合コンみたいにしようって」
「ははは、言い出したの誰? そっちが目的なんじゃないの?」
けらけら笑い合う元同級生女子たちと目が合った。誘われるのは必然だった。
振袖や袴から着替えた後、繁華街の居酒屋に今度は高校時代の同級生が集まった。卒業して二年しか経ってない。なのに学生服からこなれた私服姿に変わったそいつらはみんな別人のようにきらきらして見えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
冷たい桜
七三 一二十
現代文学
春の夜、桜舞う公園を彷徨う兄妹。彼らが求めるものは…?
※本作には近親相姦要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※本作は小説家になろう様にも掲載しております。
花火
古紫汐桜
恋愛
結婚して10年目の鮫島彩花(45歳)
穏やかな伴侶に恵まれ、何不自由の無い生活を送っていた。
晩婚だった彩花には子供がおらず、もう、終活の事を考えていた。
そんな中、都内の本社勤務を命じられ、彩花は地元の営業所から都内へ通勤する事に。
独身時代以来の電車通勤に辟易していた時、何度も駅の改札で出くわす三島健人と出会う。何を考えているのか分からない健人に翻弄されているうち、彩花は健人が気になり始めてしまう。
しかし、健人の薬指には銀色に輝く指輪が……。
元々、もう朽ち果てるだけの自分が相手にされる筈が無いと、自分の気持ちを打ち消す彩花。そんな彩花を、何だかんだと構う健人。
次第に距離が近付く2人は、脆くも儚い花火の様な恋に堕ちて行く──。
表紙絵や中の挿絵は、ミカスケ様(@oekakimikasuke)のイラストをお借り致しました。
最期の最後に贈る うた
植田伊織
現代文学
毒親である母さんは私に「殺して欲しい」と言った。私は母さんを殺せただろうか?
糖尿病とアルコール依存症を併発している母さんは、もうすぐ視力を失う。
画家である母さんに失明は致命的だ。でも、事情はそれだけじゃない。
母さんは、「私を殺して欲しい」と「アタシ」に頼む。
その男、人の人生を狂わせるので注意が必要
いちごみるく
現代文学
「あいつに関わると、人生が狂わされる」
「密室で二人きりになるのが禁止になった」
「関わった人みんな好きになる…」
こんな伝説を残した男が、ある中学にいた。
見知らぬ小グレ集団、警察官、幼馴染の年上、担任教師、部活の後輩に顧問まで……
関わる人すべてを夢中にさせ、頭の中を自分のことで支配させてしまう。
無意識に人を惹き込むその少年を、人は魔性の男と呼ぶ。
そんな彼に関わった人たちがどのように人生を壊していくのか……
地位や年齢、性別は関係ない。
抱える悩みや劣等感を少し刺激されるだけで、人の人生は呆気なく崩れていく。
色んな人物が、ある一人の男によって人生をジワジワと壊していく様子をリアルに描いた物語。
嫉妬、自己顕示欲、愛情不足、孤立、虚言……
現代に溢れる人間の醜い部分を自覚する者と自覚せずに目を背ける者…。
彼らの運命は、主人公・醍醐隼に翻弄される中で確実に分かれていく。
※なお、筆者の拙作『あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が』に出てくる人物たちがこの作品でもメインになります。ご興味があれば、そちらも是非!
※長い作品ですが、1話が300〜1500字程度です。少しずつ読んで頂くことも可能です!
いつかは さようなら~よかれと思うことをしてくれなくていい。嫌なことをしないで。
あおみなみ
現代文学
高校時代1年先輩だった、涼しげな容姿で物静かな「彼」こと相原幸助。
愛らしい容姿だが、利己的で共感性が薄い「私」こと天野真奈美は、周囲から孤立していたが、「彼」がいればそれでいいと思っていた。
8年の交際の後、「彼」と結婚した真奈美は、新婚初夜、耳を疑う言葉を聞く。
◇◇◇
この短編を下敷きにして書きました。そこそこ長編になる見込みです。
『ごきげんよう「あなたは一番見るべきものを ちゃんと見ていましたか?」』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/566248773/193686799
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
診察券二十二号
九時木
現代文学
拒否の原理、独断による行動。
正当性、客観性、公平性を除去し、意思疎通を遮断すること。
周囲からの要求を拒絶し、個人的見解のみを支持すること。
ある患者は診察券を携帯し、訳もなく診療所へ向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる