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おそれ【恐(れ)】
しおりを挟むおそれ【恐(れ)】恐れること。恐れこわがる気持ち。
『今日は何もなければ夕方には帰るよ。君は花の稽古の日だったな。あの先生はどうだい? 続けられそう?』とジャケットを羽織りながら尋ねた肇様の言葉に私は頷きました。肇様は『そう』とだけ言うと衣装棚から帽子を取り出して私に手渡しました。肇様の部屋から出て玄関に向かうと肇様は革靴を履いてその場で待っていた松田さんから鞄を渡され最後に私から帽子を受け取りました。『いってきます』と言う肇様に『いってらっしゃいませ』と声を掛けて私は松田さんと一緒に礼をしました。仕事へ出かける肇様を見送ってから私はお花の稽古の準備を始めました。篠花家の別荘での避暑を終えてから、私の生活には新しい決まり事がいくつかできました。ひとつは朝出かける肇様に帽子をお渡ししてお見送りすること。朝食は必ず一緒にとること。肇様のお母様のご紹介で週に二回お花の稽古へ通うこと。そして、夫婦で寝所を同じにすること。
『大丈夫? 痛い?』耳元で聞こえる囁きに身体を震わせながら首を横に振りました。足の間に指を埋めたまま動かないでいてくれる肇様の手を見ながら、まだ慣れない異物感に浅く息をしていると『ちゃんと息してるな。じょうず』と肇様が私をあやすようにこめかみや目尻のあたりにくちづけました。布団に仰向けになっている私に寄り添うように横向きに寝そべる肇様の顔にすり寄りくちづけをねだれば、すぐに唇が重なりました。舌の付け根をやわく擦られて鼻から甘えた声が漏れます。くちづけが深くなりそちらに意識を向きそうになると、秘所に埋められたままだった肇様の指がゆっくりと動き始めました。中から抜けては入る感覚はやはり快感にはまだ遠く、どうしても身体が強張ります。すると肇様は抜き差しするのをやめて中の腹側を指で優しく押しながら撫で始めました。肇様の指先に触れられた場所から生まれるむずむずとしてもどかしい感覚に無意識に腰が捻じれてしまいます。中で緩い刺激を続けられながら、肇様の唇が顎から首筋、鎖骨へ降り、乳房を戯れのように吸ったあと乳首に触れました。びくりと身体を震わせた私の顔を見上げていたずらっぽく笑うと、私と目を合わせたままちろりと舌を出してわざと乳首を避けて乳房の肌に舌を滑らせます。そうされると中のむずむずが胸にまで広がったようになって息が上がってしまいます。頭が沸いて勝手に出てくる涙で視界を滲ませながら、背中をのけぞらせて自ら胸を突き出すと肇様の舌がゆっくりと近付いて平たい面で乳首をゆっくりこそがれました。焦れたそこから生まれる快楽は耐えがたく、はしたない声が勝手に出て身体がびくびくと跳ねました。乳首をねぶられて喘いでいると、中を優しく撫でて甘やかしていた指が急に腹側の壁を強く押し込み、同時に親指で陰核を潰されて悲鳴のような声が出ました。視界が断続的に白く弾け、下腹部に重い快感が膨らみ絶頂を予感させます。そのまま親指を左右に小刻みに動かして陰核を強く刺激されてしまえば、ぎゅっと丸まったつま先がぶるぶると震え、腹の底で甘やかな絶頂が弾け二度、三度と声も出せぬまま身体が跳ねまわりました。尾を引く絶頂の余韻に小さく震えていれば、肇様が軽く触れるだけのくちづけをしながら、中から指を抜き、秘所に手のひらを当てて割れ目全体をゆっくり上下に擦りました。下腹部にくすぶる快感の余韻からまた火がついてしまいそうで私は肇様の鎖骨のあたりに手をついて首を横に振りました。肇様は私の額にひとつくちづけを落として秘所から手を離すと私の呼吸が落ち着くまで頼りなく震える身体を抱き締めていてくれます。それから用意してあった布を手桶で湿らせて、汗や愛液で汚れた身体を拭ってくれるのです。
別荘で初めて肇様に身体を触れられてから、私は時折肇様と肌を合わすようになりました。肇様は私を身も世もなく乱れさせるものの、ご自身は私に何も求めずこの行為が最後までなされることもありませんでした。最中や事後に硬くなった肇様のものが身体に当たることはあれど、そのことに私から言及したり、肇様がなにか言ったりすることもありませんでした。私ばかりが得をしていて不公平だとは思うのですが、例えば私がそれを慰めるよう言ったとしたら、最後までことが進んでしまう気がして恐ろしくて何も言えないのです。もし私が処女でなくなったら、母は用なしになった私を迎え入れてくれないのではないか。母にとって価値があるのは私の処女だけだからです。そう思うと、肇様にひどいことをしているとわかっていても、どうしても前に進むことができないのです。
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