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きら・う【嫌う】
しおりを挟むきら・う【嫌う】そのもの(状態・行為)をすんなりと受け入れることが出来ず、避けようとする。
その日の夜、お風呂を終えて寝室として使っている和室へ入ると、広縁の椅子に木箱を抱えて腰かけた肇様が私を手招きしました。また何か企んでいるのかと恐る恐る近寄ると肇様は『警戒しないでくれよ。傷の手当てをしたいだけだから』と言いました。よく見れば肇様が抱えていた木箱は薬箱でした。そうすると次は肇様がまともに怪我の手当てをできるのかという疑問が浮かびます。どうやら考えが顔に出ていたようで肇様は少しむすっとして『手当てくらいできるよ。子どもの頃はいつも自分と弟たちの手当てをしていたんだ。生傷の絶えない子ども時代だったんでね』と言いました。肇様は薬箱を机に置くと椅子の前に腰を下ろし、私に早く座るよう仕草で示しました。私は怪我の手当てができないので、大人しく椅子に座ると両膝を横に倒すようにして肇様に足を差し出しました。そこまでしてから男の人を床に座らせて足を持たせるなんて失礼極まりない行動だと気が付いて、肇様の手から逃げるように足を自分の側に引き寄せてしまいました。すると『こら、観念しなさい』と肇様が冗談めいた口調で笑って私の足を捕まえてしまいました。肇様の少しかさついた手のひらが足の甲を滑って踵を包みました。湯上がりで体温が上がっているはずなのに、肇様の手のひらは私の肌よりずっと熱くて急にそわそわするような落ち着かない気分になりました。手当ての様子が見ていられず、窓の外へ目を向けて今日も夜闇を飛び交う蛍の緑色の光に集中しようとしました。どうしてかどきどきとする心臓がばれる前に早く終わってくれと祈っていると『終わったよ』と簡潔な一言でいたたまれない時間が終わったことを知りました。私は小さく頷いたあと、肇様が向かいの椅子に戻ってくれるまで蛍を見続けることにしました。しかし肇様は一向に私の足元から動く気配が足ません。あまつさえ『蛍、綺麗だね』という一言ともに膝に何かが乗ったのです。私は慣れない重さと浴衣越しに膝に伝わってくる熱に思わずびくりと身体を揺らしてしまいました。こうなるといよいよどうしたらいいか分からなくなってきました。『何匹くらいいそう?』と全くいつも通りの調子で尋ねる肇様に分からないとかろうじて答えました。まさかこのままいつものような他愛ない話を続けるのかと戦慄したところで『なあ、ちゃんと楽しいか?』と肇様が静かな声で尋ねました。『今回は初っ端から失敗しているしな。君はラジオを聞いている方が楽しいのに、今日なんて倒れるまで引っ張り回して怪我もさせてしまった。僕が君だったら怒って帰っている』肇様は小さくため息をついて続けました。『今まで他人の事なんて考えずに生きてきたからここにきてツケを払っている感じだ。やればやるほど君に嫌われていってしまう気がする』肇様のその声を聞いて窓の外へ向けていた顔をゆっくり正面に戻すと、肇様は私の膝に頭を乗せて横を向いていました。暗くて表情までは分かりませんでしたが、落ち込んで見えて私はみぞおちのあたりがぐにゃりとひしゃげて息ができなくなりました。知らない熱が胸の奥から次々に湧いて出て、大きな波にさらわれて成す術がないような──呉服屋さんで泣いてしまった時と同じ、苛烈な感情に飲み込まれて自分で自分のことを全く制御できなくなってしまったのです。居場所が定まらず宙に浮いたままだった両手で肇様の焦茶色の髪に触れました。わずかに震えた肇様の頬を挟んで顔を上げさせて驚きに見開いた目をじっと見つめました。私は余計なことを言えません。言ってはいけないからです。だから肇様と目を合わせてただ首の横に振りました。目を逸らさず、震える唇を引き結んで。『どうして泣くんだ』そう言って肇様は私の手にご自身の大きくて乾いた手を重ねました。『君は何を否定したいのだろう。この旅行は楽しくなかったか?』私は首を横に振りました。『僕なんか置いてもう帰りたい?』私は首を横に振りました。『僕のことが嫌いになった?』私は首を横に振りました。しかしそんな否定では何もかも足りなく思えて私は肇様の首にしがみつきました。私の体重を支えきれなかった肇様が後ろ側に倒れ、私は仰向けになった肇様に乗り上げる格好になりました。それでもなお私は肇様にしがみついたまま首を横に振りました。重なりあった胸から私の死んでしまいそうなほど早い鼓動は肇様にばれてしまったと思います。でももうそんなことはどうでもよかったのです。耳元で『顔を見せて』と低く掠れた声が聞こえて私は肇様の胸に手をついて顔を上げました。ぱらぱらとこぼれ落ちる涙を肇様の手のひらが拭ってくれました。『自惚れてしまいそうだな』と呟いた肇様は親指で私の唇を掠めるように撫でるとゆっくりと顔を寄せました。唇同士が触れる直前、濡れた焦茶色の瞳が揺らぎ躊躇うように止まった距離を最後は私の方から埋めました。肇様のやわい唇が触れてまた離れてゆきました。伏せていた瞼を開くと、肇様と目が合いました。こちらを焦がすような強いその目にこくりと喉を鳴らした次の瞬間には先ほどよりも性急に再び唇が合わさりました。角度を変えて幾度か押し付けられた後、感触を確かめるように下唇を食まれ吸い付かれました。片時も唇を離してもらえないまま、肇様の指先が生え際に差し入れられ垂れた髪を撫でつけられました。そうしていたずらに耳朶を擦られて声が漏れてしまいました。自分でも聞いたことのない声に、ただでさえ早鐘を打つ心臓がどきんと大きく脈打って顔が燃えるように熱くなりました。一瞬動きを止めた肇様が吐息だけで笑ったのが聞こえると背中と腰に手を回されてごろりと身体を返されました。突然視界が回ったことに驚く間もなく、肇様が私に覆いかぶさっている状況を理解した途端、私は唐突に今から行われるであろう行為に考えが至って息を詰めました。うわん、と脳裏にこびりついた母の言葉が頭の中で響き渡りました。酒に酔うたびに繰り返し聞かされた言葉に身体が強張りかけたその時、コツンと額に小さな衝撃を感じました。我に返るとすぐ目の前に肇様の顔がありました。『大丈夫? 息をしてなかったぞ』と鼻先を触れ合わせながら言われて私はほとんど条件反射で頷きました。肇様は私の顔をじっとのぞきこんで『覆い被さられるのが怖いのか? まあ普通怖いよな、自分よりでかい人間にのしかかられたら』と普段と変わらないさらさらとした声で言って私の上からどいてくださいました。胸の前で握りしめていた両手をちょんと触れられて解くと畳に転がった私を引っ張り上げてくれました。そのまま肩と膝裏に腕を回されて身体ごと引き寄せられ、肇様の胡坐の中に横向きに座った格好になりました。肇様は抱き締めて頬に何度も口づけを落としました。唇が徐々に移動してゆき再び耳朶に触れると身体がびくりと震えて小さく声が漏れてしまいました。慌てて口を両手で押さえると、肇様は小さく笑って耳朶に唇を触れさせたまま『みみよわいね』と言いました。カッと全身が熱くなり羞恥に涙が出そうで肇様の胸を押して逃げ出そうとしましたが、腰に手を回されてしまって身動きが取れません。暴れる私に肇様は『合言葉を決めようか』と唐突に言いました。どういうことかわからず肇様を見上げると『本当に嫌だったり無理だと思ったとき用の合言葉。言われたら絶対にそれ以上は続けない。普段使わない言葉がいいんだけど、どうしようか』と言って私を見下ろしました。私は肇様の言葉を二回頭の中で繰り返して、ずびと鼻をすすってから昼に森で見た白い花の名前を言いました。『ははは、レンゲショウマか。いいね、それにしよう』とにこにこした肇様は頬や瞼にくちづけを降らしました。『言わなくて大丈夫?』と聞かれたので、私は少し迷ってから最後までするのか肇様に尋ねました。肇様は笑って『しないよ。きもちくなるだけ』と言ったので私は頷きました。『かわいいなあ』と肇様が吐息交じりで言いながら私の顎を指先で持ち上げて唇を重ねました。唇を食み合う合間に口を開けるようお願いされたので、うすら開くと隙間から舌が口の中に入り込んできました。驚いて顔を引いてしまうと肇様がじっと私の顔を見つめました。その目は合言葉を言わなくて大丈夫か問うていて、私は一瞬ためらってから自ら肇様に顔を寄せました。再び口の中に入ってきた舌に上顎をくすぐられ鼻にかかった声が出ました。顎に添えられているのとは逆の手が浴衣の上から鎖骨あたりをくすぐり乳房を触れるか触れないかほどの力加減で撫でました。その触れ方に焦れた頃、下から持ち上げるようにやわく揉まれ緩やかな快楽に息が漏れました。時折指先が乳首を掠め、そのたびに身体が小さく跳ねてしまいます。浴衣の合わせに肇様の手がもぐりこみ、乳房に直に触れられました。熱い手のひらが乳房をまさぐるたびむずむずした感覚に太ももをすり合わせていると、浴衣の下から抜け出た肇様の手がするすると下がってゆき太ももを撫でました。足の付け根から膝までをもどかしく行き来する大きな手に思わず見入ってしまうと、耳朶にぬるりとした感触が這って思わず大きな声を出してしまいました。ちゅ、ちゅ、と吸い付いてはいたずらに耳輪をくすぐり、時折耳孔に入り込む舌のせいで頭蓋にあられもない水音が反響して頭がぼうっとしてしまいます。ずっと緩やかに太ももを撫でていた手のひらが膝をくるりと撫でたかと思うとごく弱い力で私に足を開くよう促しました。求められたとおりに足を開くもののわずかに残った羞恥がその幅を狭めてしまいました。それでも肇様はよくできましたと褒めるようにこめかみのあたりに口づけを落としてくれました。こぶし一つ分しか開けなかったせいでほとんど肌蹴ていない浴衣の上からゆっくりと内腿をたどった指先が秘所に触れました。布越しに伝わる指の感触に快楽ともどかしさが同時に生まれ肇様の浴衣を握りしめてしまいました。焦らすように指先が一旦離れて足の付け根を撫でたかと思うと、徐々にまた中心に近付いてゆく感覚に息が上がってしまいます。そうしてようやく中心の割れ目を撫でられると鋭い快楽が身体を突き抜け全身がびくりと跳ねました。自分でも己の身体の様子に驚いているうちに、指先が再び敏感な割れ目を撫でさすります。指が上下するたびにどんどん何も考えられなくなって、ただはしたない声が出てしまうことが恥ずかしくて必死で口元を押さえて肇様の胸に顔を押し付けていました。じれったい速度で割れ目を上下に擦られ、一際大きい快楽を生む部分をくるくるともてあそばれて、全身が強張り始めました。触れられている部分から生じる快楽がじわじわと太ももや下腹部にまで広がりあと少しの強い快楽を求めて腰がのけぞりました。切なくて鼻を鳴らしてしまうと急に顎を掴まれ、べろりと耳朶を舐め上げられました。耳をねぶられたまま割れ目の上端の部分を指先で何度も叩かれて頭が真っ白になりました。息が止まり足がぴんと伸びてがくんがくんと身体が跳ねました。激しい快楽が徐々に過ぎ去り、身体の震えがおさまると自分が荒い息を繰り返し汗だくになっていることに気が付きました。せわしく呼吸をしている私の口に肇様が吸い付き舌で口内をくちゅくちゅとかき混ぜられました。肇様の柔らかい舌の感触と初めての強い快楽の余韻に浸っているうちに、急激に襲ってきた眠気に身をまかせ私は目を瞑りました。
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