上 下
1 / 29

しょじょ【処女】

しおりを挟む


しょじょ【処女】少女期を過ぎた女性が、性的経験をまだ持たないこと。また、その女性。



 私の中にある一番古い記憶は、酒の匂いをさせながら泣きじゃくる母に『お前のショジョには価値がある』と何度も何度も聞かされたことです。そのときは『ショジョ』がなんなのかわからず、ただ必死そうな母に合わせて頷いていました。私は母と二人暮らしでしたし、外には絶対に出るなときつく言われていたので、母以外の人間を目にする機会はほとんどありませんでした。ですが、時折母は男の人を連れ帰ってきて一晩中何かを叫びながらどたばたと布団の上で暴れていることがありました。そういった男の人はだいたい昼になる前には出てゆくのですが、中には幼い私に興味を示す人もおりました。母の邪魔にならないように身を潜めている土間の隅から引きずり出されて衣服を剥ぎ取られたあたりで大抵母が激昂して男の人を滅茶苦茶に殴ったり手当たり次第に物を投げつけたりします。『こいつのショジョにいくらの価値があると思っているんだ』『あたしがどれだけ苦労してこいつを生かしてるか知らねえのか』などと叫ぶ母に男の人は『きちがい』とか『くそあま』などと言い捨てて出てゆくのです。こういうことがあったとき、母は私を殴ります。訳が分からなくなるくらい殴られはしますが、身体のどこかに傷や不具合が残ることはなかったので、そのたびに私はきっと自分の『ショジョ』に価値があるおかげだなあ、と感謝したものです。
 ある日、いつになく上機嫌な母に髪を洗って身体を拭くように言われました。言う通りにすると、今度は穴もほつれもない綺麗な着物を渡されました。身体を清潔にすることも服を着替えることもそれほど経験が無かったので、妙に緊張したのを覚えています。思えば、昼間に寝て夜の内に働く母が日も高いうちにめかしこんでいたことも常ではないことでした。いつもは上がることを許されていない座敷に座らされ『今から大事なお客様がいらっしゃるからね、いい子にするのよ』と優しく言われて私は何度も頷きました。そうしてやって来たのは三人の男の人でした。男の人というのは母が連れ帰ってくるような、髭が生えていて酒や煙草の匂いのする声の大きい人間だと思っていたので、汚れていない服に身を包みぴしりと背筋を伸ばして喋るその人たちは私にとってまるで未知の存在であったことは言うまでもありません。にこにこと笑う母が何度も私を指し示し『ダンナサマのオナサケをいただきできた子でございます』『目元などよく似ておりますでしょう。今年で十五になりますが、もちろんショジョでございます』と説明していました。母が熱心に話しかけていた男の人は正座したままの私を見下ろしていましたが、その目は腹を蹴られて吐瀉物まみれになった私を見る時の母の目と似ていましたから、上機嫌な母には悪いのですがあまり良いことにはならないだろうなと思っていました。『この娘は屋敷に連れ帰る。お前は追ってサタを待て』と男の人が捲し立てる母を遮ってそう言うと、私の二の腕を掴んで引き立てました。突然のこととつま先が地面に着くか着かないかくらいまで身体を持ち上げられていたので、私は生まれて初めての家の外に怯える暇さえ与えられずに待たせてあった車に押し込められてしまいました。私の世界の全てであった長屋からは母の金切り声が響いていましたが、あいにく車のやかましいエンジン音で内容までは聞き取れませんでした。母と土間の隅しか知らなかった私にとっては何もかもが初めてで頭はパニック寸前でした。なので母の『いい子にするのよ』と言う声を何度も頭の中で繰り返していました。そこから先は何もかも目まぐるしくて何を言われたのかあまり覚えていません。長屋よりもずっと大きな建物に着くなり知らない人にお風呂に放り込まれ、全身を何度も擦られました。着物を何枚も着せられぎゅうぎゅうと帯を絞められたあと、私を車に押し込めた男の人に広い部屋まで連れてこられました。その部屋には別の男の人と女の人が怖い顔をして座っていました。『ズガタカイ』と私を連れてきた男の人に言われたのですが、何のことやらわからないでいると頭を掴まれて畳に顔を押し付けられました。ややあって『顔を見せろ』と声が聞こえると、今度は頭を持ち上げられました。私の顔を見た怖い顔の男の人は『代わりに仕立てろ』とだけ言うと立ち上がって部屋を出て行きました。女の人は終ぞ言葉を発さないまま男の人について出て行ってしまいました。
 こうして、私のさいみょう家での暮らしが始まったのです。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...