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最終章 姉妹の選択
運も実力らしい
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「リンゴと袋を使えば上手く行くの?」
ナナが半信半疑な目を向けていると、ルルは自信満々な笑顔で頷いた。
「うん、思い浮かべてるように行けば上手くいく!」
「ホントかなぁ」
「大丈夫だよ! とりあえずそれしかない!」
ヒソヒソ声ながらも力強い声を上げるルルに、ナナは疑いの目を絶やさない。
ナナの脳裏には、寝ている熊を起こすルルや危ない綱渡りをさせるルルが浮かんでいるのだ。多分、今回も危ない目に遭うのだろうなとは、薄々と気が付いている。
「分かったよ、じゃあそれでやってみよ」
小さくため息を吐きながら言ったナナ。するとルルは嬉しそうに頷き、妹の手を取った。
「ありがと! じゃあ早速やってみよう!」
ルルはそう言うと、床に落ちたままのビニール袋を手に取り、その中にリンゴを一つ入れた。
「待って待って、まだ何をやるのか聞かされてないんだけど……」
その様子を見ていたナナが尋ねると、ルルは口元をニヤリと吊り上げた。その表情だけで、ナナは過去のトラウマを記憶の中から引っ張り出され、全身で身震いをした。
======
「お姉ちゃん……ほんとにこれで良いんだよね……?」
ルルの指示通りに動いたナナは、若干の不安を感じていた。その理由となるのは、ルルの考えた作戦が運任せすぎるのだ。
「うん、大丈夫! そこでオーケーだよ!」
ルルは地下へと続く階段の前に、リンゴがひとつだけ入ったビニール袋を片手に立っている。
一方のナナは二階へと続く階段の途中にもうひとつのリンゴを置いて、ルルの元へと戻って来た。自分の置いたリンゴの方を見てみると、階段の真ん中あたりにぽつんと置いてあり、こちらを見下ろしていた。
なんだか、階段の途中にリンゴが置いてある違和感が凄い。
「よしよし、いい感じだね」
ナナの置いてきたリンゴを見たルルは、階段の近くだからと、声の大きさを最大限に落として呟いた。
「これ……本当にやるんだよね……」
「もちろんだよ。私がリンゴの入ったビニール袋を階段に投げたら、急いで階段脇のトイレに逃げ込むよ」
その言葉を聞いたナナは、階段のすぐ隣にあるトイレを目で確認した。
「うん……分かった」
ナナが頷くと、ルルは目を鋭くさせながら地下へと続く階段を見下ろした。
「じゃあ、やるよ」
「う、うん……」
ナナが頷いたとほぼ同時、ルルはリンゴの入ったビニール袋を勢いよく階段へと放り投げた。
するとそのビニール袋は、中のリンゴが重りとなって勢いよく階段の下へと落ちていく。さらに、ビニール袋というだけあって、階段を転がり落ちる音はまるで食器をひっくり返したかのようにうるさかった。
袋とリンゴの奏でる音を聞きながら、姉妹は急いでトイレの中へと入り、扉を閉めた。
「すごくうるさかったね」
ナナはそう言いながら、トイレの鍵を閉めようと手を伸ばす。
「わ、鍵は閉めない方が良いよ。魔法使いさんが扉の前を通ったら気付かれる」
「あ、そっか」
扉に鍵を掛けるとトイレのドアノブの色が変わるので、鍵が掛けられたことが簡単に分かってしまう。
ルルがそんなことに気が付くのが珍しいと思ったナナだが、それは口に出さないでおこうと言葉を飲み込んだ。
いつの間にかビニール袋の音が止むと、それと代わって階段を勢いよく登ってくる音が聞こえてくる。
ドタドタドタ!
その音を聞いた姉妹は、食い気味にトイレの扉に耳を当てた。
ここからが勝負だ。ひとつでも判断ミスをすると、魔法使いさんに見つかってしまう。
「誰じゃ! 誰か居るのか!?」
魔法使いさんは階段を上り終え、姉妹たちの居る一階に到着した様だ。
「ほらほら、今のところ『双子のリンゴ大作戦』が成功してるよ」
ルルが静かな声で嬉しそうに言った。
『双子のリンゴ大作戦』。その内容は、ビニール袋に入ったリンゴで音を鳴らして魔法使いさんをおびき寄せ、さらに、二階へと続く階段にリンゴを置くことによって、二階からリンゴが転がって来たのではと思わせる作戦だ。そうすれば魔法使いさんは二階に行き、私たちはその隙を突いて地下へと降りられるのでは無いかと考えたのだ。
その前半の作戦は見事に成功した、そして次は運要素が強い。魔法使いさんが階段に置いてあるリンゴに気が付くかどうかに掛かっているのだ。
姉妹は喉に生唾を通しながら、扉の外の音を聞く。
「おい! ワシには分かっておるぞ、あの小娘どもじゃろ!」
小娘という言葉だけで、その対象が自分たちであることが分かり、二人同時に体をビクリとさせた。
「え、私たちだってバレちゃったの?」
「そりゃそうだよ……だって昨日の今日で家に来るのなんてナナたちくらいだもん……」
「そう言われてみればそうかも」
扉に耳を当てながらヒソヒソ話しをしていると、ドタドタドタと階段を上って行く音が聞こえた。
恐らく、階段に置いてあるリンゴに気が付いたのだろう。
「やったやった、引っかかったね」
ルルの嬉しそうな声がナナの耳に届いた。
「うん、でもまだここから出たらダメだよ?」
「分かってる分かってる、完全に上まで行ったらだよね」
ルルの言葉にナナがコクリと頷く。
すると魔法使いさんの足音は、完全に聞こえなくなった。ルルは今しかないと思い、音を立てないようにゆっくりと扉を開いた。
「よし、行こう」
そのルルの合図をきっかけにトイレから出ると、靴下を床に擦るようにしながら地下へと降りて行った。
ナナが半信半疑な目を向けていると、ルルは自信満々な笑顔で頷いた。
「うん、思い浮かべてるように行けば上手くいく!」
「ホントかなぁ」
「大丈夫だよ! とりあえずそれしかない!」
ヒソヒソ声ながらも力強い声を上げるルルに、ナナは疑いの目を絶やさない。
ナナの脳裏には、寝ている熊を起こすルルや危ない綱渡りをさせるルルが浮かんでいるのだ。多分、今回も危ない目に遭うのだろうなとは、薄々と気が付いている。
「分かったよ、じゃあそれでやってみよ」
小さくため息を吐きながら言ったナナ。するとルルは嬉しそうに頷き、妹の手を取った。
「ありがと! じゃあ早速やってみよう!」
ルルはそう言うと、床に落ちたままのビニール袋を手に取り、その中にリンゴを一つ入れた。
「待って待って、まだ何をやるのか聞かされてないんだけど……」
その様子を見ていたナナが尋ねると、ルルは口元をニヤリと吊り上げた。その表情だけで、ナナは過去のトラウマを記憶の中から引っ張り出され、全身で身震いをした。
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「お姉ちゃん……ほんとにこれで良いんだよね……?」
ルルの指示通りに動いたナナは、若干の不安を感じていた。その理由となるのは、ルルの考えた作戦が運任せすぎるのだ。
「うん、大丈夫! そこでオーケーだよ!」
ルルは地下へと続く階段の前に、リンゴがひとつだけ入ったビニール袋を片手に立っている。
一方のナナは二階へと続く階段の途中にもうひとつのリンゴを置いて、ルルの元へと戻って来た。自分の置いたリンゴの方を見てみると、階段の真ん中あたりにぽつんと置いてあり、こちらを見下ろしていた。
なんだか、階段の途中にリンゴが置いてある違和感が凄い。
「よしよし、いい感じだね」
ナナの置いてきたリンゴを見たルルは、階段の近くだからと、声の大きさを最大限に落として呟いた。
「これ……本当にやるんだよね……」
「もちろんだよ。私がリンゴの入ったビニール袋を階段に投げたら、急いで階段脇のトイレに逃げ込むよ」
その言葉を聞いたナナは、階段のすぐ隣にあるトイレを目で確認した。
「うん……分かった」
ナナが頷くと、ルルは目を鋭くさせながら地下へと続く階段を見下ろした。
「じゃあ、やるよ」
「う、うん……」
ナナが頷いたとほぼ同時、ルルはリンゴの入ったビニール袋を勢いよく階段へと放り投げた。
するとそのビニール袋は、中のリンゴが重りとなって勢いよく階段の下へと落ちていく。さらに、ビニール袋というだけあって、階段を転がり落ちる音はまるで食器をひっくり返したかのようにうるさかった。
袋とリンゴの奏でる音を聞きながら、姉妹は急いでトイレの中へと入り、扉を閉めた。
「すごくうるさかったね」
ナナはそう言いながら、トイレの鍵を閉めようと手を伸ばす。
「わ、鍵は閉めない方が良いよ。魔法使いさんが扉の前を通ったら気付かれる」
「あ、そっか」
扉に鍵を掛けるとトイレのドアノブの色が変わるので、鍵が掛けられたことが簡単に分かってしまう。
ルルがそんなことに気が付くのが珍しいと思ったナナだが、それは口に出さないでおこうと言葉を飲み込んだ。
いつの間にかビニール袋の音が止むと、それと代わって階段を勢いよく登ってくる音が聞こえてくる。
ドタドタドタ!
その音を聞いた姉妹は、食い気味にトイレの扉に耳を当てた。
ここからが勝負だ。ひとつでも判断ミスをすると、魔法使いさんに見つかってしまう。
「誰じゃ! 誰か居るのか!?」
魔法使いさんは階段を上り終え、姉妹たちの居る一階に到着した様だ。
「ほらほら、今のところ『双子のリンゴ大作戦』が成功してるよ」
ルルが静かな声で嬉しそうに言った。
『双子のリンゴ大作戦』。その内容は、ビニール袋に入ったリンゴで音を鳴らして魔法使いさんをおびき寄せ、さらに、二階へと続く階段にリンゴを置くことによって、二階からリンゴが転がって来たのではと思わせる作戦だ。そうすれば魔法使いさんは二階に行き、私たちはその隙を突いて地下へと降りられるのでは無いかと考えたのだ。
その前半の作戦は見事に成功した、そして次は運要素が強い。魔法使いさんが階段に置いてあるリンゴに気が付くかどうかに掛かっているのだ。
姉妹は喉に生唾を通しながら、扉の外の音を聞く。
「おい! ワシには分かっておるぞ、あの小娘どもじゃろ!」
小娘という言葉だけで、その対象が自分たちであることが分かり、二人同時に体をビクリとさせた。
「え、私たちだってバレちゃったの?」
「そりゃそうだよ……だって昨日の今日で家に来るのなんてナナたちくらいだもん……」
「そう言われてみればそうかも」
扉に耳を当てながらヒソヒソ話しをしていると、ドタドタドタと階段を上って行く音が聞こえた。
恐らく、階段に置いてあるリンゴに気が付いたのだろう。
「やったやった、引っかかったね」
ルルの嬉しそうな声がナナの耳に届いた。
「うん、でもまだここから出たらダメだよ?」
「分かってる分かってる、完全に上まで行ったらだよね」
ルルの言葉にナナがコクリと頷く。
すると魔法使いさんの足音は、完全に聞こえなくなった。ルルは今しかないと思い、音を立てないようにゆっくりと扉を開いた。
「よし、行こう」
そのルルの合図をきっかけにトイレから出ると、靴下を床に擦るようにしながら地下へと降りて行った。
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