盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶

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最終章 姉妹の選択

魔女さん

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 自ら落としたスマートフォンをルルが拾い上げると、それは未だに音楽を奏で続けていた。

「どどどどうしよう! このスマートフォンってやつ使えないはずなのに誰かが掛けてきてる!」

 ルルは口をアワアワとさせながら、画面に映る『非通知』の文字を見ている。この『非通知』という漢字が読めないので、誰からの電話なのかが全く分からない。そもそも魔女さんは、誰かと電話をしている姿なんて見せたことが無かったので、電話主がどういう人なのかも想像が出来なかった。

「お姉ちゃん……もしかしてこれって……」

「なに! 怖いこと言わないでよ!?」

「オバケ……とか」

「やっぱり言った! 私もそう思ったけど!」

 ナナの言葉に背筋を凍らせたルル。
 でもオバケ以外の何かだったら、一体何だと言うのだろうか。
 使えもしないスマートフォンに電話を掛けることが出来る人なんて、この世に居る人には不可能ではないのだろうか。そう思うと、オバケと言う可能性も少なからずあるのでは……。
 姉妹がそんなことを考えている間にも、スマートフォンからは着信を知らせる音楽が鳴り響いている。

「これって電話するまで鳴り止まないんじゃ……」

 ルルがブルブルと震えながら尋ねると、ナナは「多分」とぎこちなく頷いた。

「え、え、どうしようどうしよう……出ても良いと思う?」

「分からないよ……お姉ちゃんに任せる」

「そう言われてもなぁ」

 ナナに選択を迫られたルルは、スマートフォンの画面とにらめっこをするようにして見つめている。
 数秒の間考えたルルが「よし」と小さく呟くと、通話を開始するのであろう緑色のボタンを押した。
 しかし、今まで電話をしたことが無かった姉妹は、スマートフォンをどうやって使って良いのかが分からない。
 二人がまごまごとしていると、スマートフォンから咳払いのような音が聞こえてきた。

『あー、あー、もしもーし、聞こえてますかー?』

 スマートフォンから聞こえてきたのは、知らない女性の声だった。しかも音量が少しだけ大きい。
 急いで返事をしようとルルが口を開く。

「き、聞こえま――」

『えーと、この電話を聞いているってことは盲目魔女さんに身の危険が起こったのよね? そしてあなた達は盲目魔女さんと暮らしてる人よね? あ、そうそう、この電話は昔々に魔法で録音したものだから私が一方的に話す形になってるの』

 盲目魔女さん? 身の危険? 魔法で録音?
 そんなことを突然言われても頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。
 それでもなんとなく分かったことは、この電話は私たちの声とは関係なく、この電話の主が喋り続けるものらしい。
 頑張って話に追いつこうとする姉妹達をよそに、電話主は話しを続ける。

『それで本題なのだけれど、あなた達は今、盲目魔女さんの身に何かが起きて困っている所だったんじゃないかしら?』

 ここでようやく、盲目魔女さんという名の正体が分かった。盲目魔女さんと言われている人は、私たちの魔女さんのことを指している。
 そしてこの電話主は、魔女さんの身に何かあったのだと言い当てたのだ。

『この電話は盲目魔女さんの身に危険があった時に着信が鳴って、私の録音した音声が聞こえる魔法が仕掛けてあるの。だからいきなり電話が鳴ってびっくりしたかもしれないわね。うふふ』

 何だか魔女さんのような口調と笑い声だ。
 そんなことはともかく。この電話の主は魔法が使えるらしい。そしてその魔法を使い、魔女さんに危険が及んだ際にこの音声が聞けるように設定しているのだ。
 なんて難しそうな魔法なのだろうと、姉妹は同じことを考えていた。

『あ、お話しが逸れてしまいましたね。えっと、盲目魔女さんの身が危険とのことでよろしいですよね? そのことでひとつだけ操作をして欲しいのですが――』

 操作? 一体何を操作すれば良いのだろうか。
 ルルは次の指示を一言一句逃さないようにと、スマートフォンをまじまじと見ながら身構えている。
するとその画面には、0から9までの数字が並んだキーボードが現れた。

『盲目魔女さんの今の状況について、病や怪我で倒れたなら1を、居場所が分からないのなら2を、その他は3を押してね♪』

 スマートフォンからの声は、それをきっかけにシンと静まった。それと同時に、ルルとナナは顔を見合わせて首を傾げた。

「えーっと、この場合は2を押せば良いんだよね?」

「うん、それで大丈夫だと思う」

 ルルが尋ねると、ナナは小さく頷いた。

「よし、じゃあ押すよ」

 ルルはそう言うと、キーボードに示された『2』を人差し指で優しく触れた。
 すると画面は再び暗くなり、電話主の声が聞こえてくる。

『そうなのねぇ、盲目魔女さんの居場所が分からなくなったと……それなら私が出来ることはひとつだけね』

 電話主がそれを言い終わると同時、スマートフォンの画面がもう一度光り出した。
 そこに映っていたのは、簡易的な地図と赤色の矢印だった。

『さぁ、画面にマップが表示されたかしら。見ての通り地図が映っていますね。そして、その真ん中にある赤い矢印が分かるかしら?  その矢印が今あなた達が居る場所を示しているの』

 ルルは「へぇ」と呟くと、その場でスマートフォンを持ちながらくるくると回り出した。

「本当だ! 矢印も一緒に回る!」

 とても嬉しそうなルルの表情を見て、静かに指示を聞きたいナナは顔を渋くさせている。
 そんなことをしている間にも、スマートフォンから指示が流れ出す。

『ここからが重要よ? 今から赤い矢印の先に青い線を引いてみるわね』

 電話主の言葉が終わると同時、赤い矢印の先から青い点線が現れた。その点線は画面に映り切らないようで、とても遠くまで伸びているようだ。

『さて、私からはどれくらいの距離か分からないけれど、その青い線の先にはあなた達の大好きな盲目魔女さんが居るわよ』

「「え!」」

 魔女さんがこの線の先に居る。それを聞いた姉妹は、慌てて画面を見た。
 これだけの情報だと魔女さんがどこに居るのか分からないが、この線を辿れば魔女さんに辿り着ける。その事実が、心の底から嬉しかった。

『私が出来るのはここまで。あとはあなた達が盲目魔女さんの元に行って救い出してちょうだい。何があったのかは分からないけれど、あの子は寂しがり屋で根は良い子だから……絶対に助けて上げて欲しいの』

 魔女さんが寂しがり屋というのは初めて知った。だがそれよりも、どうしてこの人はそんなに魔女さんのことを知っているのだろうという疑問が浮かんだ。

『あ、それと自己紹介が遅れたわね。私は盲目魔女さんから魔女さんと呼ばれている――えっと、盲目魔女さんの師匠と言えば分かりやすいかしら?』

 その言葉を聞いた姉妹は目を大きく見開いた。
 この人が魔女さんの言っていた師匠……あの魔女さんに魔法を教えた人だ。
 魔女さんの話しによると、この人は既に亡くなっている。ということは、この電話は亡くなる前に録音したものだ。そう考えると、身体中にゾワゾワと鳥肌が立った。

『という訳で、魔女さんからの手助けはここまでとなります。信じていれば絶対に大丈夫、未来はきっと明るいわ。あなた達に神の御加護があらんことを――。それじゃあね、 可愛い可愛い"双子の魔法使い見習いさん"♪』

 ブツリ。という音がスマートフォンから聞こえると、姉妹の心臓は動揺で激しく跳ね始めた。
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