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第三章 いざ!冒険へ!
草原のクマさん
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クマの大きな口から放たれた炎の玉は、走るルルの数メートル後ろに落ちた。パチパチと音を立てながら燃える草。それが本当の炎だったのだと容易く想像させる。
「ふえぇ……危なかった……」
ナナの元に辿り着いたルルが、焼け焦げた草原を眺めながら言った。もしもあれが自分に直撃していたら。想像するだけで身震いする。
「お、お姉ちゃん……そんなこと言ってる場合じゃないよお……」
「え?」
完全に安心しきったルルだが、ナナはビクビクとしながら後ろを指をさした。
「クマさん……また口に火が……」
その声にルルが振り向くと、既にクマの口からは炎が放たれていた。
「危ない!」
ルルはそう叫ぶと、ナナを抱えながら草原へと飛び込んだ。
ボンッと音が鳴り響き、さっきまで二人が立っていた道に炎の玉が衝突した。
姉妹は草原に尻もちを着きながら、すっかり焼け焦げてしまった道を、目を丸くしながら見ている。
「ひえぇ、危なかったねぇ」
「お姉ちゃんがクマさんのこと怒らせるからだよぉ」
「ご、ごめん……まさか茶色のフワフワの正体がクマさんだったとは」
「もー、寄り道はしない約束だったのに」
しかし、今はそんな言い争いをしている場合じゃない。姉妹は思い出したかのように熊の方を振り返る。
「クマさん、まだ怒ってるね」
「そりゃそうだよ……」
二人の視線の先には、怒りが治まらない様子の熊が口に火を灯しながらゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「どうしようどうしよう……」
ルルは口をアワアワとさせている。
そんなことなどお構いなしに、熊はのそりのそりと歩いて近づいてくる。
「お姉ちゃん……魔法を使って退治できないかな?」
「魔法!? そんなことしたら可哀想だよ!」
ルルの使う魔法を熊へと当てることが出来れば退治をすることは出来るだろう。しかしそんなことをすれば、熊が死んでしまうのではないだろうか。
「私が無理矢理に起こしたから怒ってるのに、それで殺すのは出来ないよぉ」
「違うよ、驚かすんだよ! クマさんの近くに雷か火を落としてビックリさせれば……!」
確かに、それならば熊を傷付けずに退治することが出来そうだ。そうと決まれば、一刻も早く魔法を唱える必要がある。
「うん、そうしよう! クマさんの近くに雷を落とす!」
ルルはそう言って頷くと、胸の前に手を突き出した。
「お姉ちゃん、ナナも補助魔法唱えた方がいい?」
ナナが迫り来る熊をチラチラと確認しながら問う。しかし、ルルは首を横に振った。
「それはダメ。まだ少しだけしかナナの補助魔法付きで練習した事ないから、クマさんに雷が当たっちゃうかもしれない」
「うん、そうだね、分かったよ」
久しぶりに聞いたルルの真面目なセリフに、思わず息を飲んで頷いた。
「ナナは何かすることある?」
ただただ熊が近づいて来るのを眺めているよりは、何かしていたかったのだ。
「じゃあ、私とクマさんの距離が三十メートルに近づいたら合図して。今から集中して目つぶっちゃうから」
「分かった、三十メートルだね」
ナナの返事を聞いたルルは、静かに目を閉じた。
バチバチと音を立てながら、ルルの体中に電気が走りはじめる。
すると、その音を聞いた熊は足を早めた。ルルが何かしようとしているのがバレたのだろう。
こうなると合図をするのも、ほんの数秒後になりそうだ。
「グオオオオオオオォォォォォ!」
熊が地面を四つの足でえぐりながら近づいてくる。口の中には先程と同様に炎が宿り始めた。
その炎が完全に宿る前に、熊の位置が目測三十メートルの所へと到達した。
「お姉ちゃん、今……!」
それを聞き届けたルルの目が開く。その瞬間、耳を塞ぐような轟音が辺りに響き、目の前に雷の線が何本も出現する。
スドオオオオォォォォォォン――。
物凄い音と共に熊が倒れた。
「はぁはぁはぁ……あれ、熊さんに当たっちゃった!?」
ルルは魔法を使った疲れを浮かべながらも、熊へと急いで駆け寄った。
「お、お姉ちゃん危ないよ……」
そう言いながらも、ナナがその後ろから着いてくる。急いで熊へと近付いてみると、ピクピクと痙攣しながら白目を剥いていた。
「え、これは死んじゃったの?」
熊の周りには雷の落ちた跡が残っている。だが、熊へと当てたつもりはないので直撃はしていないはず。ルルが心配そうに熊の様子を見ていると、ナナが手をポンと叩いた。
「もしかしたら、感電しちゃったのかも」
「感電?」
ルルには聞いたことが無かった言葉だった。
一体なんの話しだろうと首を傾げると、ナナは人差し指を立てながら口を開いた。
「電気が近くに落ちると、地面を伝って電気が当たっちゃうんだよ」
「え! じゃあクマさんに当たっちゃったの!?」
「当たってはいるけど死んではないと思う……直撃よりは威力が弱いはず……」
これと言った確証は無いが……。
ルルは腕を組みながら白目を剥いた熊をジッと見ていたかと思うと、何かを思い付いたように顔を上げた。
「よし、今のうちに行こう」
どうやら熊の心配よりも先に進みたいようだ。それはナナも同じ意見だったので、ルルの言葉に強く頷いてみせた。
「そうだね。起きたらまた襲われる……」
そうと決まれば後は早い。
二人は目を合わせて頷くと、忍び足かつ早足で元の道へと戻って行った。
案の定、目を覚まさなかった熊を心配しながらも、姉妹は山の入口へと歩みを進めたのだった。
「ふえぇ……危なかった……」
ナナの元に辿り着いたルルが、焼け焦げた草原を眺めながら言った。もしもあれが自分に直撃していたら。想像するだけで身震いする。
「お、お姉ちゃん……そんなこと言ってる場合じゃないよお……」
「え?」
完全に安心しきったルルだが、ナナはビクビクとしながら後ろを指をさした。
「クマさん……また口に火が……」
その声にルルが振り向くと、既にクマの口からは炎が放たれていた。
「危ない!」
ルルはそう叫ぶと、ナナを抱えながら草原へと飛び込んだ。
ボンッと音が鳴り響き、さっきまで二人が立っていた道に炎の玉が衝突した。
姉妹は草原に尻もちを着きながら、すっかり焼け焦げてしまった道を、目を丸くしながら見ている。
「ひえぇ、危なかったねぇ」
「お姉ちゃんがクマさんのこと怒らせるからだよぉ」
「ご、ごめん……まさか茶色のフワフワの正体がクマさんだったとは」
「もー、寄り道はしない約束だったのに」
しかし、今はそんな言い争いをしている場合じゃない。姉妹は思い出したかのように熊の方を振り返る。
「クマさん、まだ怒ってるね」
「そりゃそうだよ……」
二人の視線の先には、怒りが治まらない様子の熊が口に火を灯しながらゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「どうしようどうしよう……」
ルルは口をアワアワとさせている。
そんなことなどお構いなしに、熊はのそりのそりと歩いて近づいてくる。
「お姉ちゃん……魔法を使って退治できないかな?」
「魔法!? そんなことしたら可哀想だよ!」
ルルの使う魔法を熊へと当てることが出来れば退治をすることは出来るだろう。しかしそんなことをすれば、熊が死んでしまうのではないだろうか。
「私が無理矢理に起こしたから怒ってるのに、それで殺すのは出来ないよぉ」
「違うよ、驚かすんだよ! クマさんの近くに雷か火を落としてビックリさせれば……!」
確かに、それならば熊を傷付けずに退治することが出来そうだ。そうと決まれば、一刻も早く魔法を唱える必要がある。
「うん、そうしよう! クマさんの近くに雷を落とす!」
ルルはそう言って頷くと、胸の前に手を突き出した。
「お姉ちゃん、ナナも補助魔法唱えた方がいい?」
ナナが迫り来る熊をチラチラと確認しながら問う。しかし、ルルは首を横に振った。
「それはダメ。まだ少しだけしかナナの補助魔法付きで練習した事ないから、クマさんに雷が当たっちゃうかもしれない」
「うん、そうだね、分かったよ」
久しぶりに聞いたルルの真面目なセリフに、思わず息を飲んで頷いた。
「ナナは何かすることある?」
ただただ熊が近づいて来るのを眺めているよりは、何かしていたかったのだ。
「じゃあ、私とクマさんの距離が三十メートルに近づいたら合図して。今から集中して目つぶっちゃうから」
「分かった、三十メートルだね」
ナナの返事を聞いたルルは、静かに目を閉じた。
バチバチと音を立てながら、ルルの体中に電気が走りはじめる。
すると、その音を聞いた熊は足を早めた。ルルが何かしようとしているのがバレたのだろう。
こうなると合図をするのも、ほんの数秒後になりそうだ。
「グオオオオオオオォォォォォ!」
熊が地面を四つの足でえぐりながら近づいてくる。口の中には先程と同様に炎が宿り始めた。
その炎が完全に宿る前に、熊の位置が目測三十メートルの所へと到達した。
「お姉ちゃん、今……!」
それを聞き届けたルルの目が開く。その瞬間、耳を塞ぐような轟音が辺りに響き、目の前に雷の線が何本も出現する。
スドオオオオォォォォォォン――。
物凄い音と共に熊が倒れた。
「はぁはぁはぁ……あれ、熊さんに当たっちゃった!?」
ルルは魔法を使った疲れを浮かべながらも、熊へと急いで駆け寄った。
「お、お姉ちゃん危ないよ……」
そう言いながらも、ナナがその後ろから着いてくる。急いで熊へと近付いてみると、ピクピクと痙攣しながら白目を剥いていた。
「え、これは死んじゃったの?」
熊の周りには雷の落ちた跡が残っている。だが、熊へと当てたつもりはないので直撃はしていないはず。ルルが心配そうに熊の様子を見ていると、ナナが手をポンと叩いた。
「もしかしたら、感電しちゃったのかも」
「感電?」
ルルには聞いたことが無かった言葉だった。
一体なんの話しだろうと首を傾げると、ナナは人差し指を立てながら口を開いた。
「電気が近くに落ちると、地面を伝って電気が当たっちゃうんだよ」
「え! じゃあクマさんに当たっちゃったの!?」
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これと言った確証は無いが……。
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「そうだね。起きたらまた襲われる……」
そうと決まれば後は早い。
二人は目を合わせて頷くと、忍び足かつ早足で元の道へと戻って行った。
案の定、目を覚まさなかった熊を心配しながらも、姉妹は山の入口へと歩みを進めたのだった。
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