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第7章 聖女の解放、そして
7-2・私は君が嫌いだ
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巨木の空洞の先は、底の見えない闇が広がっていた。下まで伸びる縦穴は広く、ここが樹の中であることを疑うほどだ。階段はないが、複雑に入り組んだ木の幹が足場になっていて、降りることはそう困難ではない。
灯りはパトリックの剣に絡みつく炎の赤と、ラギウスが手にした携帯用の小さなランプのみ。ランプと言ってもそれはランタンの形ではなく、手のひらに収まるくらいの六角柱の水晶でできた魔法具だった。
赤と白の光に照らされて浮かび上がる木の幹が、進むにつれて細くなっていく。それはやがて一本の根になって、更に奥まで続いている。
たった一本の根があれほどの巨木になるのかと驚きはしたが、それよりも二人の意識を奪ったのは、灯りに照らされて碧く揺らめく空間だった。
「これは……海の中、なのか?」
周囲を取り囲んでいた木の根が一本になったことで、壁が、頭上が、足元があらわになる。
辺り一面、碧に満ちていた。
縦穴はいつの間にか横に伸びていて、足元に広がるのはゴツゴツとした岩肌だ。見上げれば、日も差さないのに揺らめく海中の碧が見える。その中を揺蕩うのは――真珠だ。いくつもの真珠が海流に漂い、まるで珊瑚の産卵のように碧い海中をあてどなく揺られている。けれどもそのすべてが、瞬きの一瞬に霧散して消えていった。
「息ができるのは、ここに満ちる不思議な力のせいか?」
「だろうな。魔石の放つ力が、海水を押しやってんだろ。どっちにしろ、俺たちには好都合だ。今のうちにアレを解放するぞ」
アレ、とラギウスが指差した先。碧い海のカーテンをバックにして、仄暗い海底に一本の古びた樹が立っていた。
ノルバドの巨木と一本の根で繋がっているその樹は、養分をすべて吸い取られているようで、幹も枝も老人の腕のように痩せ細っていて生気がない。その枝のひとつに、きらりと光る金色の宝冠がぶら下がっていた。
真珠をあしらった、上品な宝冠だ。ちょうど額の中央にあたる部分に、大きめの赤い宝石が埋め込まれている。確認せずとも、それがルーテリエルを封じた魔石であることに間違いはなさそうだ。
「ラギウス、ここは海底だ。あれは一旦回収して、地上に戻ってから解放した方がいい」
「もちろんそのつもりだ。ここでカタつけちまったら魔石の力もなくなって、ついでにこの空間も壊れるからな。それにお前と心中する気はねぇよ。俺にはヴィオラが待ってんだ」
当然言い返してくるかと思ったパトリックが無言なので、ラギウスが不可解に目を細めて振り返った。見ればパトリックは視線を足元に落としたまま、少し後ろで立ち止まっている。
「リッキー?」
「こんな状況だからゆっくり話をする暇はないが……ひとつだけ、確認させてくれ」
落としていた視線をラギウスへ向けて、パトリックが静かに、けれどはっきりとした声で問う。
「ラギウス、君は――本気か?」
何が、とは聞かない。まっすぐに向けられるセレストブルーの瞳が、言葉よりも雄弁にパトリックの心を物語っているから。
「あぁ」
ラギウスも迷うことなく、自身の思いをはっきりと肯定する。
「そうか」
短く、それだけを返すと、その手に掴んでいた剣を眼前へと持ち上げた。かと思うと、弧を描くように大きく頭上を振り払う。
パトリックの頭上。分断された水の壁を押し抜けて、青黒いウミヘビのような魔物が侵入してきていた。汚れた油のように垂れ下がる魔物は、足元へ落ちる前にパトリックの炎によって跡形もなく消し飛ばされる。
その向こうではパトリックとほぼ同時に動いていたラギウスが悪態をつきながら、飛びかかってくる魔物の群れを黒い魔石の剣で素早く薙ぎ払っていた。
「話してる途中に湧いてくんな!」
「まるで君のようだな」
「何だよっ、それ」
「空気を読まない、ということだ」
「読んでんだろーがっ」
「どうだか」
斬っても斬っても湧いてくる魔物に、気付けばふたり背中を合わせて戦っていた。
どちらが指示したというわけではない。無意識にパトリックは地面を這って近付く魔物を炎で一掃し、ラギウスは頭上から垂れ落ちてくる魔物を黒い魔石の剣で叩き落としていく。
海賊と海軍。いがみ合っていたわりには、二人の呼吸は申し合わせたようにぴったりだ。それを癪だと思う気持ちも既になく、互いの口元にはかすかな笑みすら浮かんでいる。
「このままじゃ埒があかねぇ」
「何か策があるのか?」
「策っつぅか、宝冠奪って逃げるしかねぇだろ」
「真面目に聞いた私が馬鹿だった」
「大真面目だっての!」
助走もなく高く一回転したラギウスが、垂れ落ちてくる前の魔物まで切り裂いてわずかな時間を稼ぐ。対してパトリックもより強い炎の波を這わせ、束の間だが二人の周りから魔物の影がなくなった。
「リッキー。少しの間、一人で耐えられるか?」
「愚問だ」
即座に言い切ったパトリックに、ラギウスが満足げににやりと笑う。
「やっぱり俺、お前好きだわ」
「私は君が嫌いだ」
合図をしたわけでも、策を伝えたわけでもない。けれどもわずかに身を低くしたラギウスを見て、パトリックが剣を横に構え直す。
何度か剣を交えただけで互いの癖を知り、相手の意図を読んで動くことができる二人だ。敵同士であれば手の内を読まれる厄介な相手だが、味方であれば阿吽の呼吸で最高の相棒にもなれる。
「逃げる準備しとけよ」
そう言ったかと思うと、ラギウスがパトリックめがけて走り出した。眼前で大きく跳ね上がると、その足場を作るようにしてパトリックが剣を大きく振りかぶる。
剣に絡みつかせた炎の威力は最大限に。あふれる熱気を凝縮して、ラギウスが踏み抜く刃の強度を強引に上げる。にじり寄る魔物を黒焦げにした炎の剣は、けれど黒い魔石を持つラギウスには効かない。だからパトリックも、力を加減することなくラギウスに向けて炎の剣を振るえるのだ。
配慮も何もない猛火を纏う炎の剣。その刃を足場にして、魔狼の高い身体能力を駆使したラギウスが、魔物の海を飛び越えて枯れ木の宝冠へ手を伸ばした。
宝冠に埋め込まれた赤い宝石が、きらりと光る。海から遮断されているというのに、ラギウスの指先に触れた宝石はなぜか涙に濡れていた。
――かえりたい。
青い、碧い、海の中。体と心を蝕む苦痛から、わずかに解放されたような気がして目を開ける。
こぽこぽと、青を漂うのは真珠だ。私の真珠。私の涙。故郷を思って、愛しいあなたを思って流す、私のかなしみ。
かえりたい。
かえりたい。
あぁ、けれども、私はもう穢れてしまった。こんな体では、美しいあの国へは戻れない。愛しいあなたのもとへ、共にいくことができない。
かえして。
かえして。
私をかえして。
穢れてしまった私の代わりに、私をヴァーシオンへ連れていって。
逃げるために失った四つの力を取り戻して、私を「私」に戻して、祖国へ連れて帰ってほしいの。私の代わりに、「あなた」が。私の力を宿す、「あなた」が。
何度でも繰り返すわ。
「あなた」が失敗しても、次の「あなた」なら連れ帰ってくれるかもしれない。いつか来る救いのために、私は何度でも「あなた」を生む。
私の真珠から生まれた「あなた」。
今の「あなた」はそう、メルヴィオラというのね。
メルヴィオラ。
メルヴィオラ。
どうか私をかえしてほしいの。
あなたに宿った力は、「わたし」そのもの。
だから「わたし」を、美しいあの国へ連れ帰って。
お願いよ。
私の聖女、メルヴィオラ。
灯りはパトリックの剣に絡みつく炎の赤と、ラギウスが手にした携帯用の小さなランプのみ。ランプと言ってもそれはランタンの形ではなく、手のひらに収まるくらいの六角柱の水晶でできた魔法具だった。
赤と白の光に照らされて浮かび上がる木の幹が、進むにつれて細くなっていく。それはやがて一本の根になって、更に奥まで続いている。
たった一本の根があれほどの巨木になるのかと驚きはしたが、それよりも二人の意識を奪ったのは、灯りに照らされて碧く揺らめく空間だった。
「これは……海の中、なのか?」
周囲を取り囲んでいた木の根が一本になったことで、壁が、頭上が、足元があらわになる。
辺り一面、碧に満ちていた。
縦穴はいつの間にか横に伸びていて、足元に広がるのはゴツゴツとした岩肌だ。見上げれば、日も差さないのに揺らめく海中の碧が見える。その中を揺蕩うのは――真珠だ。いくつもの真珠が海流に漂い、まるで珊瑚の産卵のように碧い海中をあてどなく揺られている。けれどもそのすべてが、瞬きの一瞬に霧散して消えていった。
「息ができるのは、ここに満ちる不思議な力のせいか?」
「だろうな。魔石の放つ力が、海水を押しやってんだろ。どっちにしろ、俺たちには好都合だ。今のうちにアレを解放するぞ」
アレ、とラギウスが指差した先。碧い海のカーテンをバックにして、仄暗い海底に一本の古びた樹が立っていた。
ノルバドの巨木と一本の根で繋がっているその樹は、養分をすべて吸い取られているようで、幹も枝も老人の腕のように痩せ細っていて生気がない。その枝のひとつに、きらりと光る金色の宝冠がぶら下がっていた。
真珠をあしらった、上品な宝冠だ。ちょうど額の中央にあたる部分に、大きめの赤い宝石が埋め込まれている。確認せずとも、それがルーテリエルを封じた魔石であることに間違いはなさそうだ。
「ラギウス、ここは海底だ。あれは一旦回収して、地上に戻ってから解放した方がいい」
「もちろんそのつもりだ。ここでカタつけちまったら魔石の力もなくなって、ついでにこの空間も壊れるからな。それにお前と心中する気はねぇよ。俺にはヴィオラが待ってんだ」
当然言い返してくるかと思ったパトリックが無言なので、ラギウスが不可解に目を細めて振り返った。見ればパトリックは視線を足元に落としたまま、少し後ろで立ち止まっている。
「リッキー?」
「こんな状況だからゆっくり話をする暇はないが……ひとつだけ、確認させてくれ」
落としていた視線をラギウスへ向けて、パトリックが静かに、けれどはっきりとした声で問う。
「ラギウス、君は――本気か?」
何が、とは聞かない。まっすぐに向けられるセレストブルーの瞳が、言葉よりも雄弁にパトリックの心を物語っているから。
「あぁ」
ラギウスも迷うことなく、自身の思いをはっきりと肯定する。
「そうか」
短く、それだけを返すと、その手に掴んでいた剣を眼前へと持ち上げた。かと思うと、弧を描くように大きく頭上を振り払う。
パトリックの頭上。分断された水の壁を押し抜けて、青黒いウミヘビのような魔物が侵入してきていた。汚れた油のように垂れ下がる魔物は、足元へ落ちる前にパトリックの炎によって跡形もなく消し飛ばされる。
その向こうではパトリックとほぼ同時に動いていたラギウスが悪態をつきながら、飛びかかってくる魔物の群れを黒い魔石の剣で素早く薙ぎ払っていた。
「話してる途中に湧いてくんな!」
「まるで君のようだな」
「何だよっ、それ」
「空気を読まない、ということだ」
「読んでんだろーがっ」
「どうだか」
斬っても斬っても湧いてくる魔物に、気付けばふたり背中を合わせて戦っていた。
どちらが指示したというわけではない。無意識にパトリックは地面を這って近付く魔物を炎で一掃し、ラギウスは頭上から垂れ落ちてくる魔物を黒い魔石の剣で叩き落としていく。
海賊と海軍。いがみ合っていたわりには、二人の呼吸は申し合わせたようにぴったりだ。それを癪だと思う気持ちも既になく、互いの口元にはかすかな笑みすら浮かんでいる。
「このままじゃ埒があかねぇ」
「何か策があるのか?」
「策っつぅか、宝冠奪って逃げるしかねぇだろ」
「真面目に聞いた私が馬鹿だった」
「大真面目だっての!」
助走もなく高く一回転したラギウスが、垂れ落ちてくる前の魔物まで切り裂いてわずかな時間を稼ぐ。対してパトリックもより強い炎の波を這わせ、束の間だが二人の周りから魔物の影がなくなった。
「リッキー。少しの間、一人で耐えられるか?」
「愚問だ」
即座に言い切ったパトリックに、ラギウスが満足げににやりと笑う。
「やっぱり俺、お前好きだわ」
「私は君が嫌いだ」
合図をしたわけでも、策を伝えたわけでもない。けれどもわずかに身を低くしたラギウスを見て、パトリックが剣を横に構え直す。
何度か剣を交えただけで互いの癖を知り、相手の意図を読んで動くことができる二人だ。敵同士であれば手の内を読まれる厄介な相手だが、味方であれば阿吽の呼吸で最高の相棒にもなれる。
「逃げる準備しとけよ」
そう言ったかと思うと、ラギウスがパトリックめがけて走り出した。眼前で大きく跳ね上がると、その足場を作るようにしてパトリックが剣を大きく振りかぶる。
剣に絡みつかせた炎の威力は最大限に。あふれる熱気を凝縮して、ラギウスが踏み抜く刃の強度を強引に上げる。にじり寄る魔物を黒焦げにした炎の剣は、けれど黒い魔石を持つラギウスには効かない。だからパトリックも、力を加減することなくラギウスに向けて炎の剣を振るえるのだ。
配慮も何もない猛火を纏う炎の剣。その刃を足場にして、魔狼の高い身体能力を駆使したラギウスが、魔物の海を飛び越えて枯れ木の宝冠へ手を伸ばした。
宝冠に埋め込まれた赤い宝石が、きらりと光る。海から遮断されているというのに、ラギウスの指先に触れた宝石はなぜか涙に濡れていた。
――かえりたい。
青い、碧い、海の中。体と心を蝕む苦痛から、わずかに解放されたような気がして目を開ける。
こぽこぽと、青を漂うのは真珠だ。私の真珠。私の涙。故郷を思って、愛しいあなたを思って流す、私のかなしみ。
かえりたい。
かえりたい。
あぁ、けれども、私はもう穢れてしまった。こんな体では、美しいあの国へは戻れない。愛しいあなたのもとへ、共にいくことができない。
かえして。
かえして。
私をかえして。
穢れてしまった私の代わりに、私をヴァーシオンへ連れていって。
逃げるために失った四つの力を取り戻して、私を「私」に戻して、祖国へ連れて帰ってほしいの。私の代わりに、「あなた」が。私の力を宿す、「あなた」が。
何度でも繰り返すわ。
「あなた」が失敗しても、次の「あなた」なら連れ帰ってくれるかもしれない。いつか来る救いのために、私は何度でも「あなた」を生む。
私の真珠から生まれた「あなた」。
今の「あなた」はそう、メルヴィオラというのね。
メルヴィオラ。
メルヴィオラ。
どうか私をかえしてほしいの。
あなたに宿った力は、「わたし」そのもの。
だから「わたし」を、美しいあの国へ連れ帰って。
お願いよ。
私の聖女、メルヴィオラ。
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