114 / 114
第6章 新しい物語
エピローグ
しおりを挟む
「やだっ。そんなに見ないでよ!」
心なしか顔を赤く染めたシェリルが、伸びてくるカインの手を払いのけて後ろを向いた。いつもは服でしっかり隠されている首元が今日は胸元近くまで露わになって、白い肌がみるみるうちに赤くなっていくのが容易に見て取れる。
「見えるからしょうがねーだろ。それに今日はどうやったってお前が悪い」
きっぱりと断言されむっと眉を寄せたシェリルが、反論しようとカインの方を振り返る。その隙を狙って、カインはいとも簡単にシェリルの体を両腕の中に閉じ込めた。
「きゃっ!」
「相変わらず無防備だな」
「そんな事言われても……。別にカインを警戒する必要なんてないじゃない」
「そりゃ嬉しいね」
にやりと笑って顔を近づけてくるカインに、シェリルはしまったと心の中で後悔した。
「ちょ、ちょっと待って! 今から式が始まるのに、そんなっ」
「まだ三十分はある。十分だろ」
「何が十分なのよっ。カインの馬鹿っ!」
これでもかと言うほど顔を真っ赤にさせて、慌ててカインの腕から逃れたシェリルが、そのままドレスの裾を引きずりながら窓際へと避難する。と、その指先が、窓辺に置かれていた大きめの箱に触れた。
「あれ? ……何、これ」
箱を持ち上げて視線をカインに向けても、知らないとの答えしか返ってこない。淡いブルーのリボンがつけられた白い箱は、大きさの割には軽い方だった。
「開けてみるか?」
そう言ってシェリルからひょいっと箱を取ったカインが、ゆっくりと蓋を持ち上げる。中に入っていたのは、天使の羽根を絡ませて作った、ウェディング用のティアラだった。
「これ……もしかして」
驚いたように口元を手で覆ったシェリルに、カインが肯定の意を示して静かに頷いた。壊れ物を扱うようにそっとティアラを箱から取り出して、カインも驚いたように言葉をなくして息を飲む。
「ルーヴァとセシリアと……リリスに、それからここはアルディナの羽根だ」
飾り付けられた羽根を見つめながら、カインが掠れた声で小さく告げる。驚きと感動とで胸がいっぱいになり、シェリルは瞼が熱くなるのを感じてせわしく瞬きをした。
箱の中に一緒に入っていた、二人の結婚を祝福するカードを見て、さすがのカインも少しだけ照れくさそうに微笑みを浮かべた。
「……あいつら」
小さく呟いてカードをシェリルへ手渡したカインが、持っていた羽根のティアラをそっとシェリルの頭に乗せる。それは純白のドレスを身に纏うシェリルに、とてもよく似合っていた。
「行くか。あんまり遅いと、クリスにまた怒鳴られる」
「うん」
今にも泣きそうな顔で精一杯の笑顔を向けたシェリルを、カインは両腕に軽々と抱えて歩き出す。
閉じられたドアの向こう、誰もいない部屋の窓から見える晴れ渡った青空に、幾つもの羽根が二人を祝福するようにふわりと優しく舞い降りていった。
心なしか顔を赤く染めたシェリルが、伸びてくるカインの手を払いのけて後ろを向いた。いつもは服でしっかり隠されている首元が今日は胸元近くまで露わになって、白い肌がみるみるうちに赤くなっていくのが容易に見て取れる。
「見えるからしょうがねーだろ。それに今日はどうやったってお前が悪い」
きっぱりと断言されむっと眉を寄せたシェリルが、反論しようとカインの方を振り返る。その隙を狙って、カインはいとも簡単にシェリルの体を両腕の中に閉じ込めた。
「きゃっ!」
「相変わらず無防備だな」
「そんな事言われても……。別にカインを警戒する必要なんてないじゃない」
「そりゃ嬉しいね」
にやりと笑って顔を近づけてくるカインに、シェリルはしまったと心の中で後悔した。
「ちょ、ちょっと待って! 今から式が始まるのに、そんなっ」
「まだ三十分はある。十分だろ」
「何が十分なのよっ。カインの馬鹿っ!」
これでもかと言うほど顔を真っ赤にさせて、慌ててカインの腕から逃れたシェリルが、そのままドレスの裾を引きずりながら窓際へと避難する。と、その指先が、窓辺に置かれていた大きめの箱に触れた。
「あれ? ……何、これ」
箱を持ち上げて視線をカインに向けても、知らないとの答えしか返ってこない。淡いブルーのリボンがつけられた白い箱は、大きさの割には軽い方だった。
「開けてみるか?」
そう言ってシェリルからひょいっと箱を取ったカインが、ゆっくりと蓋を持ち上げる。中に入っていたのは、天使の羽根を絡ませて作った、ウェディング用のティアラだった。
「これ……もしかして」
驚いたように口元を手で覆ったシェリルに、カインが肯定の意を示して静かに頷いた。壊れ物を扱うようにそっとティアラを箱から取り出して、カインも驚いたように言葉をなくして息を飲む。
「ルーヴァとセシリアと……リリスに、それからここはアルディナの羽根だ」
飾り付けられた羽根を見つめながら、カインが掠れた声で小さく告げる。驚きと感動とで胸がいっぱいになり、シェリルは瞼が熱くなるのを感じてせわしく瞬きをした。
箱の中に一緒に入っていた、二人の結婚を祝福するカードを見て、さすがのカインも少しだけ照れくさそうに微笑みを浮かべた。
「……あいつら」
小さく呟いてカードをシェリルへ手渡したカインが、持っていた羽根のティアラをそっとシェリルの頭に乗せる。それは純白のドレスを身に纏うシェリルに、とてもよく似合っていた。
「行くか。あんまり遅いと、クリスにまた怒鳴られる」
「うん」
今にも泣きそうな顔で精一杯の笑顔を向けたシェリルを、カインは両腕に軽々と抱えて歩き出す。
閉じられたドアの向こう、誰もいない部屋の窓から見える晴れ渡った青空に、幾つもの羽根が二人を祝福するようにふわりと優しく舞い降りていった。
0
お気に入りに追加
16
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる