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第3章 涙のかけら
地界ガルディオス・4
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地界ガルディオスから光に連れられて現われ出た場所は、寂れたフィネス村とは正反対の賑やかで活気のある小さな港町だった。
空は月を迎え、町は夕闇に包まれ始めている。ぐったりとしたまま一向に目を覚まさないカインを腕に抱いて座り込んでいたシェリルは、その額の刻印と親切な住人のおかげで何とか宿屋の一室を借りる事が出来た。
カインをベッドに寝かせてその横に椅子を持ってきて腰かけたシェリルは、何とかディランから逃れられた事にほっと安心して三日月の首飾りを握りしめた。
ディランの攻撃を防ぎ自分たちをこの町まで連れてきてくれた涙のかけらの力に深く感謝しながら、シェリルはふとディランの行動に多くの疑問と不安を覚える。
敵であるはずのカインに対して見せる異常なまでの執着。
『僕には彼の目覚めが必要だ』
『心外だね。何かしたのは女神の方だろう?』
数々の謎めいた言葉。ルシエルの封印が解けかかっていると言う事実。そして、シェリルが憎むべき闇はルシエルだという事も、ディランは淡々と告げた。
「私……。私、どうしたら」
多くの謎と不安が入り乱れてしまい、シェリルは混乱した頭を何度も横に振って冷静さを取り戻そうとした。しかし自分の背後に渦巻いていた強大で邪悪な影の存在を否定する事など出来るはずもなく、シェリルは小刻みに震える体を両腕できつく抱きしめる。
もはや両親を殺した闇に復讐すると言うシェリルひとりの問題ではなく、光と闇、そして世界をも巻き込もうとしている逃れようのない運命の手が、もうそこまで来ているのだ。
「カイン。……カイン、起きて」
いつの間にか瞳から零れ落ちていた涙を拭って、シェリルがそっとカインの手を握りしめた。
「……怖いの。ひとりじゃ、怖いの。お願い、目を覚まして」
震えるシェリルの声音に反応して、カインの左耳のピアスがきらりと赤く煌いた。涙で歪んだ視界に血のような赤い光を映して、シェリルがぎくんと体を震わせる。
「これは……。どうして」
隙間なくびっしりと罅割れた紫銀の石は、まるで今のカインのように不安定で、そのまま崩れ落ちてしまいそうに見える。時々光る赤は、カインをどこか遠くへ連れ去ってしまいそうだった。聖地でピアスに罅が入った瞬間を目の当たりにした時のように、そして地界でディランがシェリルからカインを奪おうとした時のように、シェリルの胸は早鐘を打ち息さえ出来なくなる。
「……行かないで。カイン、ここへ戻ってきて!」
叫ぶように呼びかけて、シェリルはほとんど無我夢中でカインに強く抱きついていた。震える両腕を背中に回して胸元に顔をうずめたシェリルは、カインをどこにも連れ去られないよう更に強く力を込める。
心の中で何度もカインの名前を呼びながら、かすかに聞こえてくる細い呼吸を支えにしてカインを抱きしめたシェリルの耳に、はるか遠くから孤独と悲しみ、そして迷いと不安に満ちた儚い声が届いた。
『……お前は……誰だ? ……我を、求めると言うのか? 光を持つお前が、我を救うと言うのか?』
それは彼の声だった。
何度となくシェリルを付け狙い、恐怖を象徴する幾重にも重なった低い声音は、確かにカインの声だった。
空は月を迎え、町は夕闇に包まれ始めている。ぐったりとしたまま一向に目を覚まさないカインを腕に抱いて座り込んでいたシェリルは、その額の刻印と親切な住人のおかげで何とか宿屋の一室を借りる事が出来た。
カインをベッドに寝かせてその横に椅子を持ってきて腰かけたシェリルは、何とかディランから逃れられた事にほっと安心して三日月の首飾りを握りしめた。
ディランの攻撃を防ぎ自分たちをこの町まで連れてきてくれた涙のかけらの力に深く感謝しながら、シェリルはふとディランの行動に多くの疑問と不安を覚える。
敵であるはずのカインに対して見せる異常なまでの執着。
『僕には彼の目覚めが必要だ』
『心外だね。何かしたのは女神の方だろう?』
数々の謎めいた言葉。ルシエルの封印が解けかかっていると言う事実。そして、シェリルが憎むべき闇はルシエルだという事も、ディランは淡々と告げた。
「私……。私、どうしたら」
多くの謎と不安が入り乱れてしまい、シェリルは混乱した頭を何度も横に振って冷静さを取り戻そうとした。しかし自分の背後に渦巻いていた強大で邪悪な影の存在を否定する事など出来るはずもなく、シェリルは小刻みに震える体を両腕できつく抱きしめる。
もはや両親を殺した闇に復讐すると言うシェリルひとりの問題ではなく、光と闇、そして世界をも巻き込もうとしている逃れようのない運命の手が、もうそこまで来ているのだ。
「カイン。……カイン、起きて」
いつの間にか瞳から零れ落ちていた涙を拭って、シェリルがそっとカインの手を握りしめた。
「……怖いの。ひとりじゃ、怖いの。お願い、目を覚まして」
震えるシェリルの声音に反応して、カインの左耳のピアスがきらりと赤く煌いた。涙で歪んだ視界に血のような赤い光を映して、シェリルがぎくんと体を震わせる。
「これは……。どうして」
隙間なくびっしりと罅割れた紫銀の石は、まるで今のカインのように不安定で、そのまま崩れ落ちてしまいそうに見える。時々光る赤は、カインをどこか遠くへ連れ去ってしまいそうだった。聖地でピアスに罅が入った瞬間を目の当たりにした時のように、そして地界でディランがシェリルからカインを奪おうとした時のように、シェリルの胸は早鐘を打ち息さえ出来なくなる。
「……行かないで。カイン、ここへ戻ってきて!」
叫ぶように呼びかけて、シェリルはほとんど無我夢中でカインに強く抱きついていた。震える両腕を背中に回して胸元に顔をうずめたシェリルは、カインをどこにも連れ去られないよう更に強く力を込める。
心の中で何度もカインの名前を呼びながら、かすかに聞こえてくる細い呼吸を支えにしてカインを抱きしめたシェリルの耳に、はるか遠くから孤独と悲しみ、そして迷いと不安に満ちた儚い声が届いた。
『……お前は……誰だ? ……我を、求めると言うのか? 光を持つお前が、我を救うと言うのか?』
それは彼の声だった。
何度となくシェリルを付け狙い、恐怖を象徴する幾重にも重なった低い声音は、確かにカインの声だった。
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