戦国武将異世界転生冒険記

詩雪

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第一章 スルト村編

第24話 父と子

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一部グロテスクな表現がございます。ご注意ください。
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 決戦場所は騎士団の訓練広場である。騎士団の施設には関係者以外は基本的には立ち入れないので、巡礼者や観光客は入ってこられない。村人でもロンたち家族と繋がりの深い人しか入れないようにしていた。

 ジンの武器は舶刀2本に背中にある木刀。対するロンは片手直剣に小盾バックラーという装備だった。ここでコーデリアはロンが小盾バックラーを持っている事に少し驚いた。

「ジェシカ、ロンさんは元々戦士ウォーリアでしたよね? 盾では無いようですが」

「確かに夫は戦士ウォーリアでしたが、私が夫のパーティーに入る前は剣闘士グラディエーターだったのです。治癒術師ヒーラーの私が加入した時に盾術士スクードへ転向して、その後戦士ウォーリアに上がったのです」

「ジェシカを守るために盾術を得られたという訳ですか。剣術士ソードマン武闘士ファイター盾術士スクード剣闘士グラディエイター戦士ウォーリアですか…分かってはいましたが、やはりロンさんも只者では無かったようですね」

「有り難い事ですが、当時は申し訳ない気持ちだったんですよ。私は戦闘スタイルを変える程の事とは思えないと言ったのですが、治癒術師ヒーラーは貴重だと言って、聞いてもらえませんでした」

「なるほど。当時から治癒術師ヒーラーでは無く、ジェシカの事を守りたかったと言うところでしょうか」

「だといいのですけどね。今日は誰かを守る必要は無いですから。剣闘士グラディエイターとして戦うという事でしょう」

「この事、ジンは?」

「私は教えていません。あの人もこの日の為にジンには伝えていないでしょう。恐らくエドガーさんもオプトさんもご存じないと思います」

「ジンは幸せ者ですね」

「ふふっ、本当に」


◇ ◇ ◇ ◇


刃引はびきは無し。勝敗はどちらかが負けを認めるか、戦闘不能になるかだ。異論は?」

「ありません、父上」

「よし…皆! 最後まで見届けてくれ!」

「エドガー頼む!」

「ああ。お前らの本気を見せてくれ!…始めっ!」



 ここに、父と子の最初で最後の大勝負が幕を開けた。

「参ります父上!」
「来い! ジン!」

―――ギャリィィン!

 子による縦一閃を、父の横一閃が受け止め、激しい打ち合いが始まった。

 どちらも一撃当たれば昏倒するような急所を狙う。牽制、打撃全てを駆使してひたすら相手を倒すために剣を振るう。

 時折襲ってくる小盾バックラーのスパイクが身体をかすめ、鋭い刺突が顔の横を通り過ぎる。

 父上が強いのは知っていた。

 だが、誰かを守る必要が無いというだけで、これ程戦闘術が変わるとは予想をはるかに超えていた。まさに攻撃の嵐。コーデリアさんの怒涛の攻撃も隙が無く厄介だったが、とにかく父上の一撃は重い。

 俺の攻撃は難なく受け止められ、すべてが見透かされている感覚に陥る。

 攻撃を受け流して反撃しようにも体は大きく揺さぶられ、次の攻撃につなげにくい。やはり今の俺の剣技では及ぶところが無い。ならば出し惜しみは無し。

 少し驚いて頂きます!
 バンッ、と地面に手を付き地属性魔法を発動する。

地の隆起グランドジャッド!」

―――ズガン!

 ロンの目の前に3m程の土壁が突如現れ、距離を取ったジンへの追撃を一瞬ためらった。

(いつの間に地属性魔法まで!? 面白い!)
「うぉぉぉぉっ!」

 ロンが咆哮し小盾バックラーで土壁が破壊されると同時にジンは突撃。ロンの眼前で舶刀を振り下ろし、空振りと見せ掛けて風刃を放った。

 届かぬ刃だと油断した、ロンの剣を持つ右腕に痛みが走る。

「ぐっ、風刃か! だがっ!」

 ロンは斬りつけられた右腕を遠心力とし、そのまま右足で後ろ回し蹴りを繰り出す。体重が乗った重い一撃はジンの右腕に命中、身体ごと吹き飛ばした。

 だが、ジンは空中で体勢を立て直し着地。すぐさま反撃に移る。

(受けた攻撃を利用してあの体勢から反撃に転ずるなんて! やはり父上はすごい!)

「だけど、負けません!」

 脚に強化魔法を集中し、一蹴りでロンの懐に入ったジンは、零距離で逆手に持った2本の舶刀を振り上げるが、ロンは身体を後ろに反らしてこれを回避。
そのまま後方回転バク転するや、ジンのあごに蹴りを見舞う。

 シュバン!

 足に強化を集中していたジンはまともに食らうと昏倒ものだが、際どい所でこれを回避。

 お互いに体勢を崩す中、共に隙ありと見て強引に立て直して突撃、容赦なく武器を振り下ろした。

 ギャゴッ!

 ギリギリと交差する刃から火花が飛び、り合いながら動きが止まる。

 そこでロンがふっと力を弱め、たまらずジンが前のめりになったところに右膝を顔面に振りぬくが、ジンは2本の舶刀をクロスさせ、刀身の腹で受け止める。その衝撃で後ろに吹き飛んだ状態のまま空中で風刃を繰り出すが、不可視であるはずの風の刃を、ロンは剣と小盾バックラーでいとも容易く防いだ。

(やはり見えなくとも舶刀の動作で読まれてしまいますね。もう風刃は効かないと思った方がいい!)
「まだまだぁ!」

 ジンは着地と同時に脚を強化、ロンに向かって大きく跳躍し、頭上に迫ると同時に強化を腕と武器に集中し、さらに刀身に風魔法を纏わせた。

 そしてその場で身体をひねり一回転、強烈な二連撃を放つ。

「――――流気旋風バーストストリーム!」

「うぉっ!!」
(強化と風の同時発動だと!?)

 バキンッ!

 剣と小盾バックラーを弾かれ、無防備になったロンに向かいジンは着地と同時に突進、よろめくロンの懐まで入り、舶刀を当てて胸を十字に切り裂いた。

「はっ!」

 ズバン!

「ぐはっ! …あ、浅いぞっ!」

 ロンは叫ぶと、血が吹き仰け反る身体に活を入れて、胸元にいるジンの頭上目掛けて小盾バックラーを振り下ろす。

 まさかの即時反撃にギリギリ反応したジンは、ビキッと首筋を鳴らし、頭だけを後ろに下げ回避を試みるが、踏み込み過ぎたせいで体勢が悪い。

 小盾バックラーのスパイクはジンの額中央からこめかみを切り裂き、辺りに血がしぶいた。

「っく!」

 両者、血まみれになりながらも一歩も引かず。裂けた部分に強化魔法を施して出血を抑え、再び武器を握って先に動いたのはロン。

 頭の傷はダメージを過大評価し、正常な判断を鈍らせる。それは人間の本能のようなもので、ジンもその例には漏れない。

 ジンは二本の舶刀を逆手に持ち直し、ロンの攻撃すべてを受け流す構えに入った。

 ロンは怒涛の連撃を繰り出しながら決定打を探り、ジンは体力の回復と出血量を抑えるため、硬直する全身の筋肉を緩め、攻撃せずにひたすら回避と受け流しに徹した。

(疲れて動きが鈍れば反撃に、受け流しで隙が出来ればその隙を突く!)

(この受け流しの技術はやはりコーデリアの教えか。ならば…受け流せない攻撃はどうする!)

「――っ!?」

 父上の腕と剣に魔力が集まっている!
 もう作戦を見破られた! 回避は不可、受け流せない強力な一撃が来る!
 だが、今の頭と腕の部分強化ではその一撃を支える事が出来ない可能性が高い。
 刀身を犠牲にして防ぐ以外に道は無い!

 父は連撃を止め固有技スキル繰り出し、子は父の全力を自らの全力で受け止める。


(生き残れよジン!)
「―――一刀双刃オルトロス!」
(止めて見せる!)
「―――流気旋風バーストストリーム!」


 父の一刀から繰り出される高速の左右同時攻撃と、子の風魔法を纏った舶刀二連撃がぶつかり、2人を中心に凄まじい剣戟の衝撃が周囲に響き渡った。


 ◇


 子は両膝を突いて天を仰ぐ。
 額から流れ落ちる血は全身を真っ赤に染め、折れた両剣を握る腕は、深々と切り裂かれていた。

 父も魔力を使い果たした結果、胸の傷が開き、子同様に全身を赤く染めて力なく剣に身を委ねていた。

 両者必殺の一撃は、父に軍配が上がる。


「まだ、ゴフッ…背負ってる、みたいだが…はぁっ、はぁっ…そいつも折って、やろう」

「うげて…だぢま、す」

 ロンは『重い』と言って小盾バックラーを投げ捨て、ジンは折れた舶刀を手放し、背の木刀に手をかけようとしたが、なかなか腕が上がらない。

「くっ、くそ……ぐぁぁっ!」

 体を捻り、勢いをつけて背中に手を回して木刀を手に取った瞬間、『ブチッ』と言う音と共に完全に左腕が動かなくなり、木刀が地面に落ちる。落ちた木刀を右手で拾い、ジンは立ち上がった。

「はあ゛っ、はあ゛っ…お、またせ…じまじた」

 ジンの目は流れ落ちる血でにじんでおり、視界がぼやけて目を開けるのにも苦労している。しかし目を閉じては戦えない。ぶら下がっているだけの左手を引き下げ、木刀を構える。

「ジン…ほ、本当の戦いは、はぁっ…ここ、からだ。絶対に諦めるなっ! ぶっ! ごぼっ!」

 この時、ロンは自身の傷の深さに驚いていた。分厚い筋肉は切り裂かれ、骨まで達している。

(血を流しすぎて視界が…これほどのダメージを先手で取られていたとは…ジンも相当の深手にもかかわらず立ったんだ。だがジンは動けん、最後の一撃は俺から繰り出さねばならない!)

「うお゛ああああっ! 行くぞジン!」

「はい゛っ!」

 ジンに木刀を振る力は残っていない。しかし震える脚は何とか動く。
 木刀を手放さないよう精一杯握りしめ、振られるように身体を回転させて遠心力で木刀を横一閃、かすむ視界の中、父らしき影を迎え撃った。


 ガキンッ!


 子の乾坤一擲けんこんいってきの一振りは、父の振り下ろした剣を弾いて胴体を打ち抜いた。

 父は胴体を打ち抜かれると同時に倒れ、子も最後の一撃で倒れ込む。

 父と子の最初で最後の大勝負。
 
 最後まで武器を握り締めた、子の勝利。
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