好きな子に告白も出来ない男の童貞卒業物語

杉 孝子

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プロローグ

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 この物語は、『慟哭 ~あの時の気持ちは本気の気持ち、今でもそれは変わらない~』のサイドストーリーです。『慟哭』エピソード3の『片思い』で山下が、雄琴に遊びに行こうと誘いますが、俺たちは結局一緒に行くこともありませんでした。
 ある日の夕方に、一人で車に乗り込み家を出た。琵琶湖大橋を渡り、雄琴のソープランド街に降り立った。今考えると、誰かとつるんで行動するのではなく、自分一人でも行って見せる。そんな勇気を試したかったのだと思う。


   ******************************


  その日も朝から、気分が落ち着かなかった。遠足を前にした眠れぬ幼稚園児みたいで、かといって嬉しいわけじゃなく、むしろ不安で落ち着かなくなっていた。

 歳がいくだけで、全てにおいて成長していない自分がどうしようもなくて、夜は眠れず、起きていれば何かに八つ当たりしてしまう。

 休日の遅い朝食をとった後、気分転換に車で飛ばそうと思った。いつものコースを走ることに決め、七年目になった愛車『おんぼろサニー』に乗った。まだまだ走れる車だが、近々買い替えを予定していたので、潰れたクーラーは直さず、これからの暑い季節、窓を全開で走らなければならないのが難点だった。

 特に趣味という程熱中している物は無く、二十五歳になったのに彼女もおらず、会社と自宅の往復で時間が過ぎていく。身長も165cmで見た目もイケメンとは程遠い。オシャレに関しては後輩から突っ込まれるほどに疎い。良いとこなしの男だ。

 会社で三つ下の子に好意を抱きながらも、絶対に自分と釣り合いが取れそうにないと、もやもやしている意気地なし。そのくせその子が気になりどうしようもない。彼女が近くを通り度に目で追ってしまう。会社の飲み会等で顔を合わせても、自分から誘うことも出来ない。

 高校は、男子校で女子と話すことも無かったし、会社での女性社員なんて5人程。中には母親と同じくらいの人もいるから、出会いの場など皆無だった。
 
 休日は読書か映画、ドライブかパチンコ。それくらいしか趣味が無い。近くにも本屋はあるが、本を買うことが目的では無い。好きな曲を聴きながら車を走らせて、時間を潰すことが目的だ。今日の目的地は、自宅から車で三十分程離れた本屋だった。いつも休みには良く行く店で、わざわざ遠回りの湖岸道路をルートに選び向かった。琵琶湖の景色を眺めながら走ることが出来るので、ドライブには丁度いい。ちょっと遠回りになるけれど、道も走りやすい。

 一時間位そこの本屋で時間を潰していたが、別に欲しい本がなかったので、手ぶらで外に出た。いつも買ってやっているんだからたまにはいいだろう。

 童貞卒業の決断をする一つの出来事が起こったのは、この後なんだ。本屋から手ぶらで出てこようが、誰それの本を買って出てこようが、そんなことは関係なかった。本屋からの帰り道も湖岸道路を通った。

 琵琶湖の彦根市と草津市の中間位に来た時、夕立が起こった。春の嵐か、5月晴れだった空が変わり、月並みだが、バケツをひっくり返したみたいに雨が降り出した。その中を一人の二十歳前後の女の子が歩いているのが見えた。

 何故に歩いているのか。湖岸にキャンプか遊びに来たのか。友達か彼氏とは一緒ではないのか。すでに上から下までずぶ濡れだろう彼女を見て、幾つかの疑問が沸き上がった。

 突然に普段の自分とは違うもう一人の俺が、

「止まってやれ」と言うのを聞いた。

「彼女、びしょ濡れじゃないか。車に乗るように声をかけてやれ」それに対して、

「訳のわからん女を車に乗せる必要はない」と応戦する。
 
 頭の中で対極の声が乱れ飛ぶ中、俺の車は女の子の横を通り過ぎ、しばらく走った。

 けれども、どうしても気になる俺は、車を琵琶湖側の空き地に止めて少し考えた。
 
 今までずっと女の子に積極的に声などかけなかったし、かけられなかった。いつまでもこの調子だと、彼女なんかできっこないじゃないか。二十五歳にもなって、キスしたことがないなんて天然記念物もんだ。会社では、俺が童貞だと平気でからかいやがる。どれだけ俺が傷ついているか知っているのか。

 セックスなんて、彼女が出来ればいつだってできると思っているし、初対面の女性とセックスすることに気が乗らないから、そういうのが嫌で、今まで風俗にも行かなかったし、いつまで経っても彼女ができないから、イコール童貞のままだっただけじゃないか。
 
 俺はこの時決めた。よし、童貞を卒業してやると。
 
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