彼女を死に追いやった奴等へ俺からの最恐の贈り物

杉 孝子

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11_黒幕の正体

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 呻き声を上げ、反撃すらできず地面に転がる男たちを尻目に、俺は短髪の男に歩み寄る。奴はアキレス腱を切られて逃げることも叶わず、足首を押さえながら地面に座り込んでいる。俺の足音に気づいたのか、奴は顔を上げてこちらを睨みつけた。

「俺に見覚えがあるだろう。見忘れたなんて言わせない」

 俺の言葉に、短髪男は反撃する力もないはずなのに、口だけは達者だった。

「てめえなんか知るもんか。誰に頼まれてこんなところに乗り込んできやがった!」

 奴の威勢のいい態度に、俺は冷たい目で見下ろしながら言葉を続ける。

「今年の春、カップルを黒いワゴンで拉致して、山林に置き去りにした事件があったな。その車、あれはお前のものだろう」

 短髪男の表情をじっと見つめる。奴の目がかすかに動揺したのを見逃さなかった。

「さらに二か月前、村上政久の家が放火された。これもお前の仕業だろう?」

 奴はしばらく俺の目を見据えていたが、次の瞬間、鼻で笑いながら答えた。

「知らねぇな。何の話だかさっぱりだ」

 しらを切る態度に、俺の中で冷えた怒りが湧き上がる。わずかな沈黙の後、俺は低い声で言った。

「そうか。そこまで言うなら仕方がない」

 言葉と同時に短髪男の左肩を思い切り蹴り上げる。奴は力なく仰向けに倒れ、冷たいコンクリートに身体を打ち付けた。苦痛で呻く声を無視し、俺は奴の傍らに立つ。

「手荒なことはしたくなかったが、そういう態度なら別だ」

 俺は無造作にナイフを取り出すと、短髪男の右太腿に突き立てた。鋭い刃が肉を貫く感触と共に、奴の絶叫が倉庫内に響き渡る。金属的な悲鳴が冷たい壁に跳ね返り、辺りにこだまする。

「やめろ! 何のつもりだ!」  
 短髪男が苦痛に呻きながら叫ぶが、俺の手は止まらない。  

「これは、お前に焼き殺された父親の分だ」  
 そう言いながら、俺はナイフを引き抜き、血に濡れた刃を別の場所に押し当て、力を込めて突き立てた。  

「これは母の分だ」  
 短髪男は絶望の表情を浮かべ、ナイフを掴もうともがくが、俺は冷徹に突き刺した刃を手首を捻って動かす。その瞬間、男は再び悲鳴を上げ、身体をのけ反らせた。  

「これがどういう意味か、そろそろ分かるだろう」  
 俺は低い声で言い放つ。  

「答えろ。あの事件の真相を、今ここで話せ」  
 短髪男の顔は恐怖と痛みに歪みながらも、強張り続けていたが、その瞳には明らかな動揺が浮かび始めていた。

 男の大腿動脈からは血が溢れるように流れ出し、コンクリートの床を赤黒く染めていく。薄暗い倉庫の中でも、男の顔色が血の気を失い、青ざめているのがはっきりとわかった。  

「どうして俺たちを襲った。無差別に襲っただけなのか? それとも誰かに頼まれたのか?」  
 俺は鋭い声で問いかける。  

 短髪男は痛みに喘ぎながらも、虚勢を張るように低く呻いた。  
「無差別に襲っただけだ・・・誰かに頼まれたわけじゃねぇ」  

 だが、その声には力がなく、目が泳いで視線を合わせようとしない。男の震える唇と、滲む汗が、嘘を隠しきれていないことを物語っていた。  

「嘘をつくな」  
 俺は冷たく言い放つと、男の胸元にナイフの切っ先を向けた。その一言に、短髪男は顔を歪めながら肩を震わせた。  

「くっ、頼まれたんだ。でも、名前なんて知らねぇんだよ!」  
 とうとう男は、押し殺していた恐怖を声に滲ませて叫んだ。

 しかしその時、不意に後ろから首元に鋭い焼け付く痛みが走る。  

「くたばれ!化け物野郎!」  

 背後から足音を忍ばせて来た男が、俺の首にナイフを突き立てると、そのまま後ずさりながら距離を取った。短髪男が動けないのを見かねての助けだろう。奴は俺が倒れるのを期待しているのか、怯えながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべている。  

 俺は振り向きざまに、ゆっくりと首に刺さったナイフを左手で抜き取った。一瞬、噴き出す血飛沫が周囲に飛び散る。  

「・・・ッ!」  

 短髪男も、ナイフを刺した男も、目を見開いて立ち尽くす。彼らの目の前で、傷口から肉が盛り上がり、血が止まり、みるみるうちに塞がっていった。まるで高速再生でもしているかのように、数秒後には跡形もなく元通りの皮膚がそこに戻っていた。  

 静寂が一瞬、倉庫内を支配する。俺はナイフを手の中で軽く回しながら、怯える男たちに目を向けた。  

「次は、どこを刺す?」  

 声に冷たい響きを込めて言うと、二人の男は震えながら後ずさり始めた。

 俺のパーカーやジーンズは、先程までの戦いでいたるところを切り裂かれており、破れた生地が辛うじて皮膚にぶら下がる箇所もある。血と汗で生地が重くまとわりつき、動きづらい。  

 男たちにさらに歩み寄ろうとしたその時、足元で何かが落ちる音がした。振り返ると、それは破れたジーンズのポケットからこぼれ落ちた明美のお守りだった。  

 俺はお守りを拾い上げ、手に取って表裏を確認する。しかし、すぐに異変に気付いた。お守りの袋が切り裂かれており、中に折り畳まれた紙が見えている。  

 普通、お守りの中には神聖な木や紙でできた御札が入っているのが一般的だ。それを開けることは神聖さを損なう行為だとされ、普通はやらない。だが、既に切り裂かれた袋の中に見える紙が妙に気になり、俺は指先で慎重に引き出した。  

 煙草の箱ほどの大きさの紙を広げると、そこには乱雑な筆跡でこう記されていた。  

『神も仏もいるものか。神宮明、仇は討てたか。-草薙圭介より』

「草薙啓介・・・」  

 思わず呟いたその名が、空気に溶け込むと同時に、短髪の男の表情が一変した。その変化を、俺は見逃さなかった。  

「おい、草薙啓介を知っているのか?」  

 俺は鋭く問い詰めながら一歩踏み出す。男は俺をまるで死者でも見るような目で凝視し、怯えた声で答えた。  

「知ってる。知ってるよ・・・」  
震える声が倉庫に響く。  

「俺たちに話を持ちかけてきた奴だ。お前たちカップルを拉致して、痛めつけろって約束で。金を貰ったんだ」  

 その言葉に、俺の中で長く凍っていた感情の塊が、一瞬にして煮えたぎったように感じた。  

「草薙圭介、やっぱり、お前か」  

 拳を握りしめた俺は、男たちを睨みつけながら、さらなる事実を暴くために声を上げた。


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