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1_最期の夜
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スマホに明美からの連絡が入っていた。シャワーから出てきた俺は、目を通した。明日の予定の確認だった。可愛い猫のスタンプが『嬉しい』を表現している。
松田明美と俺は小学校からの幼馴染だ。高校進学で別々になったが、大学で同じ大学に入っていることをSNSで知って、俺から声をかけた。中学時代のおぼこさを知っているだけに、彼女の変化に驚いた。
女性の美への憧れには感服するばかりだ。一重だった目元はくっきりの二重になり、ラメがキラキラと輝いている。おかっぱみたいな髪型も肩より長めのストレートで後でお団子にしている。
正直声をかけたが付き合ってくれると思わなかった。大学から付き合い始めて、3年が経つ。お互い地元の会社に就職して、社会人となって忙しい毎日を送っているが、休日には出来る限り会うようにしていた。
今週の土曜日も近くの公園でデートと食事の約束をしていた。そのラインだった。
俺は、『俺も楽しみにしている』とラインを返してから、暫くはやり取りをしていたが、いつもと同じように明美のお休みのスタンプで終了となった。
明美の実家に向かって車を走らせる。俺の実家から数分の距離だった。そろそろどこかアパートを借りて二人で生活するつもりだった。
車のハンズフリーのスピーカーからは、明美の声が聞こえてくる。
「えー、もう着いちゃうの。まだ支度できてないよー」
いつも明美に待たされているので、気にもならなくなった。
「早くしなきゃ置いてくぞ」
「悪いけど、部屋に上がってきて」
「お父さんもお母さんも居るんだろ」
「居るわよ。今日は仕事休みだから。いつも会ってるじゃない」
そうこうしている間に明美の実家に着いてしまった。俺は、エンジンを止めると携帯だけを持って玄関に向かう。
庭の空いたスペースには、明美の母が育てている寄植えの小さな花たちがきれいに咲いている。
玄関でチャイムを鳴らして、扉が開くのを少し待つ。いつものように明美の母がドアを開けた。
「政久君、おはよう。また明美の支度待ちなの。さあ上がって」
明美はどちらかというと父親に似ているらしかった。明美の母は背が低く少し小太りでそれでいて愛嬌のある女性だった。
「お邪魔します」
そう言って俺は頭を下げて玄関から入ってすぐの階段を上り明美の部屋へと向かう。後ろから明美の母が
「朝ご飯は食べてきた。まだなら食べて行きなさいよ」と声をかけて来る。
「朝食食べてきてるのでお構いなく」と階段を上りながら俺は返答する。
明美の部屋を二回ノックすると、返事があった。
俺はドアを開けて中に入ると明美が言った。
「また、朝食食べてきてないでしょ。遠慮しちゃって」
「いつも食べないから、平気さ」
明美の部屋は、女性らしくぬいぐるみやピンク系統の色で統一されていて
奇麗に整理されていた。小さなピンク系のテーブルに簡易の鏡が立てかけてその前には化粧品が広げられていた。
「まだお化粧終わっていないのよ。ちょっと待っててね」
「いいよ。別に予約している時間じゃないから。」
明美のシングルベットに腰かけて後姿を眺める。鏡に写る俺を明美は見ながら今日観る映画楽しみだねと話してくる。
「映画も楽しみだけど、明美と過ごせる時間が俺には大事なんだよ」
「えー、何か気障なこと言ってる」
鏡に写る明美が笑いながらラメを塗り終えると、俺に振り向く。
「どう。今日の私」
「きれいだよ。さあ、出発しよう」
車は駅前の駐車場に止めて、電車で京都駅まで出てから、京阪電車に乗り換えて、三条に着いた頃には昼前だった。『新京極』と呼ばれている商店街に向かって二人で歩き出す。
『新京極』は、三条通りから四条通りまでの約五百メートルの通りをいい、平安京の時代にまでさかのぼることが出来る。豊臣秀吉が京都市中の寺院を寺町通に集め、その境内が縁日の舞台や催し物、見世物を中心に発展し明治に入ってから、寺院の境内を整備して『新京極』として新たな通りを作ったのが始まりである。
三条駅から明美と手を繋いで鴨川大橋を渡る。初夏の暑さに子供たちが鴨川に入って遊んでいるのが見える。深さはそれほどでもないようだ。精々膝辺りまでだろうか。橋の下の日陰では、カップルらしい男女が涼んでもいる。鴨川の土手沿いの片方では納涼床が張り出して、食事を楽しんでいる人達も見える。
『新京極』の商店街の中は、休日でもあるので結構な人が行き来していた。歩きながら目についた軽食店に入る。昼の時間帯なので込んでいたが少し待てば席が空きそうだった。映画が始まる時間までは十分余裕がある。先に渡されたメニューを二人で見ながらこれもおいしそう。これ食べてみたいねと話しているうちに名前を呼ばれて席に案内された。
京都は盆地であり、冬は雪は少ないが底冷えが厳しく、夏は結構蒸し暑く熱い日が多い。幸い夏本番には早いので、日中も少し汗ばむ程度で済んだ。夕方には映画館に入っていたこともあり、出て来た頃には日が沈み始めていた。俺が予約しておいた洋風レストランに行った後に納涼床のワインバーに二人で座っていた。
気持ちの良い夜風に当たりながら、鴨川の流れを見ていた。鴨川の土手沿いにはカップルが等間隔で座りながら、二人の世界に入っているのだろう。肩を寄せ合っている者もいれば、彼氏に凭れ掛かるようにしているカップルもいる。
明美に後で土手沿いを歩こうかと聞いてみた。
「酔っぱらわなかったらね。鴨川に落っこちたら大変だよ」
少し赤らんだ顔で微笑んで言う。
「まだ大丈夫だよ。ワイン三杯だもの。遅くなっても今日は帰らないから大丈夫」
「途中で歩けなくなったら、ベットまで運んでね」
「任しておきなさい。お姫様」
店を出てからは、三条大橋まで少し戻って、橋台部分から鴨川の土手へと続く階段を降りる。だいぶん宵も深まって来ていた、ワインバーから見ていた頃よりカップルが若干減ってきているようだが、それでも等間隔で随分と座っている。
俺は明美としばらく河川沿いを歩きながら、座る場所を探していた。カップルが抜けたのだろう、等間隔の距離が長い場所を見つけた。
俺がその場所に行って座ると、明美も寄り添うように座る。鴨川の流れの音が小さく聞こえている。
「そろそろ、アパート借りようと思ってるんだ。いくつか候補上げてるんだけど、来週一緒に行かないか」
以前から同棲に関して幾度か明美と話をしたことがあった。明美自身も賛成していたので、いくつかの候補を挙げておいた。
「付き合っているだけじゃなくて、一緒に生活してみるのも必要だもの。政久が猫被ってるかもね」
「俺たち何時からの付き合いだよ。今さら明美に猫被る必要あるか」
俺は苦笑いしながら、明美の肩を抱き寄せた。そのまま、身体を捻るようにして、明美の正面に向き合うとキスをする。
明美から舌を入れてくる、先ほど飲んでいた白ワインの甘い香りと共に熱く情熱的なキスを要求してくる。そのまま押し倒してしまいそうになる欲求を抑えながら俺は、舌を絡ませていた。
OpenAI DALL·E
松田明美と俺は小学校からの幼馴染だ。高校進学で別々になったが、大学で同じ大学に入っていることをSNSで知って、俺から声をかけた。中学時代のおぼこさを知っているだけに、彼女の変化に驚いた。
女性の美への憧れには感服するばかりだ。一重だった目元はくっきりの二重になり、ラメがキラキラと輝いている。おかっぱみたいな髪型も肩より長めのストレートで後でお団子にしている。
正直声をかけたが付き合ってくれると思わなかった。大学から付き合い始めて、3年が経つ。お互い地元の会社に就職して、社会人となって忙しい毎日を送っているが、休日には出来る限り会うようにしていた。
今週の土曜日も近くの公園でデートと食事の約束をしていた。そのラインだった。
俺は、『俺も楽しみにしている』とラインを返してから、暫くはやり取りをしていたが、いつもと同じように明美のお休みのスタンプで終了となった。
明美の実家に向かって車を走らせる。俺の実家から数分の距離だった。そろそろどこかアパートを借りて二人で生活するつもりだった。
車のハンズフリーのスピーカーからは、明美の声が聞こえてくる。
「えー、もう着いちゃうの。まだ支度できてないよー」
いつも明美に待たされているので、気にもならなくなった。
「早くしなきゃ置いてくぞ」
「悪いけど、部屋に上がってきて」
「お父さんもお母さんも居るんだろ」
「居るわよ。今日は仕事休みだから。いつも会ってるじゃない」
そうこうしている間に明美の実家に着いてしまった。俺は、エンジンを止めると携帯だけを持って玄関に向かう。
庭の空いたスペースには、明美の母が育てている寄植えの小さな花たちがきれいに咲いている。
玄関でチャイムを鳴らして、扉が開くのを少し待つ。いつものように明美の母がドアを開けた。
「政久君、おはよう。また明美の支度待ちなの。さあ上がって」
明美はどちらかというと父親に似ているらしかった。明美の母は背が低く少し小太りでそれでいて愛嬌のある女性だった。
「お邪魔します」
そう言って俺は頭を下げて玄関から入ってすぐの階段を上り明美の部屋へと向かう。後ろから明美の母が
「朝ご飯は食べてきた。まだなら食べて行きなさいよ」と声をかけて来る。
「朝食食べてきてるのでお構いなく」と階段を上りながら俺は返答する。
明美の部屋を二回ノックすると、返事があった。
俺はドアを開けて中に入ると明美が言った。
「また、朝食食べてきてないでしょ。遠慮しちゃって」
「いつも食べないから、平気さ」
明美の部屋は、女性らしくぬいぐるみやピンク系統の色で統一されていて
奇麗に整理されていた。小さなピンク系のテーブルに簡易の鏡が立てかけてその前には化粧品が広げられていた。
「まだお化粧終わっていないのよ。ちょっと待っててね」
「いいよ。別に予約している時間じゃないから。」
明美のシングルベットに腰かけて後姿を眺める。鏡に写る俺を明美は見ながら今日観る映画楽しみだねと話してくる。
「映画も楽しみだけど、明美と過ごせる時間が俺には大事なんだよ」
「えー、何か気障なこと言ってる」
鏡に写る明美が笑いながらラメを塗り終えると、俺に振り向く。
「どう。今日の私」
「きれいだよ。さあ、出発しよう」
車は駅前の駐車場に止めて、電車で京都駅まで出てから、京阪電車に乗り換えて、三条に着いた頃には昼前だった。『新京極』と呼ばれている商店街に向かって二人で歩き出す。
『新京極』は、三条通りから四条通りまでの約五百メートルの通りをいい、平安京の時代にまでさかのぼることが出来る。豊臣秀吉が京都市中の寺院を寺町通に集め、その境内が縁日の舞台や催し物、見世物を中心に発展し明治に入ってから、寺院の境内を整備して『新京極』として新たな通りを作ったのが始まりである。
三条駅から明美と手を繋いで鴨川大橋を渡る。初夏の暑さに子供たちが鴨川に入って遊んでいるのが見える。深さはそれほどでもないようだ。精々膝辺りまでだろうか。橋の下の日陰では、カップルらしい男女が涼んでもいる。鴨川の土手沿いの片方では納涼床が張り出して、食事を楽しんでいる人達も見える。
『新京極』の商店街の中は、休日でもあるので結構な人が行き来していた。歩きながら目についた軽食店に入る。昼の時間帯なので込んでいたが少し待てば席が空きそうだった。映画が始まる時間までは十分余裕がある。先に渡されたメニューを二人で見ながらこれもおいしそう。これ食べてみたいねと話しているうちに名前を呼ばれて席に案内された。
京都は盆地であり、冬は雪は少ないが底冷えが厳しく、夏は結構蒸し暑く熱い日が多い。幸い夏本番には早いので、日中も少し汗ばむ程度で済んだ。夕方には映画館に入っていたこともあり、出て来た頃には日が沈み始めていた。俺が予約しておいた洋風レストランに行った後に納涼床のワインバーに二人で座っていた。
気持ちの良い夜風に当たりながら、鴨川の流れを見ていた。鴨川の土手沿いにはカップルが等間隔で座りながら、二人の世界に入っているのだろう。肩を寄せ合っている者もいれば、彼氏に凭れ掛かるようにしているカップルもいる。
明美に後で土手沿いを歩こうかと聞いてみた。
「酔っぱらわなかったらね。鴨川に落っこちたら大変だよ」
少し赤らんだ顔で微笑んで言う。
「まだ大丈夫だよ。ワイン三杯だもの。遅くなっても今日は帰らないから大丈夫」
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「任しておきなさい。お姫様」
店を出てからは、三条大橋まで少し戻って、橋台部分から鴨川の土手へと続く階段を降りる。だいぶん宵も深まって来ていた、ワインバーから見ていた頃よりカップルが若干減ってきているようだが、それでも等間隔で随分と座っている。
俺は明美としばらく河川沿いを歩きながら、座る場所を探していた。カップルが抜けたのだろう、等間隔の距離が長い場所を見つけた。
俺がその場所に行って座ると、明美も寄り添うように座る。鴨川の流れの音が小さく聞こえている。
「そろそろ、アパート借りようと思ってるんだ。いくつか候補上げてるんだけど、来週一緒に行かないか」
以前から同棲に関して幾度か明美と話をしたことがあった。明美自身も賛成していたので、いくつかの候補を挙げておいた。
「付き合っているだけじゃなくて、一緒に生活してみるのも必要だもの。政久が猫被ってるかもね」
「俺たち何時からの付き合いだよ。今さら明美に猫被る必要あるか」
俺は苦笑いしながら、明美の肩を抱き寄せた。そのまま、身体を捻るようにして、明美の正面に向き合うとキスをする。
明美から舌を入れてくる、先ほど飲んでいた白ワインの甘い香りと共に熱く情熱的なキスを要求してくる。そのまま押し倒してしまいそうになる欲求を抑えながら俺は、舌を絡ませていた。
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