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13_朱美からの告白
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駅前の駐車場に着くと朱美の車を探す。白のタントはすぐに見つかった。運転席で携帯を操作しているのだろう、携帯の画面の明かりが朱美の姿が確認できる。私が近づいていくと朱美は気配でわかったのか運転席のドアを開ける。
「田村さん、お帰りの所呼び戻して申し訳ありません」彼女は改まって言った。
「いや、いいんだ。ただ、若い者同士で楽しんでもらった方が良いかな、と思って」
私が朱美の少し戸惑っているような顔を見ながら言う。
「話があるなら何処か場所を変えようか。静かに話せるところがいいか」
私は、頭の中で行き場所を考えていたが、最近飲みに来ていないせいで良い場所が思いつかなかった。十数年前とは店も様変わりしている。駐車場から駅前に向かい、カラオケボックスに向かう。私だけでなく朱美の為にも、駅前のスナックや居酒屋で会社の関係者にでも見つかることを少しでも避けたかった。
数人の若者がカラオケボックスの入り口でたむろしていたが、知った顔はいない。私は朱美の前を歩いて先に入って受付をする間も朱美は私の後ろに立ったままでいた。
部屋に入ると、私はソファーに座ってメニューを開いた。
「取り敢えず、何か頼んでおくか」
朱美が部屋の電話を取り注文を言っていく。私は、ハイボールとつまみを、朱美は帰りを考えてノンアルコールを頼むと思っていたが、酎ハイを頼んでいた。頼み終わると、朱美は私の横に座って来ると、
「田村課長、少し話したいことがあるんだけど、聞いてくれますか」
朱美が珍しく自分から話題を振って来た。会社では、私の方から業務内容を伝える一方で、朱美からは余り意見も出てこないのが常だった。たまにプライベートの話を私がしても特に盛り上がった記憶はない。当然と言えば当然だし。それが普通だと思っている。
「安井さんから話なんて珍しいな。うん、いいよ。話して」
「でも、少しプライベートな内容なんで、秘密にしておいてくださいね」
「ああ、誰にも話さない。部下の事を吹聴して回る上司何て、信用できないだろ」
店員がドアを開けて机に注文の品を置いて出て行く。
「じゃあ、少し長くなるかもだけど」
そういうと、グラスの酎ハイを一口飲み静かにテーブルに戻す。
「私近々一人暮らし始めようと思うんです」
私は内心ほっとした。もっと悩ましい相談だったらと身構えていた部分があった。
朱美は私の目を見ながら話し始めた。目元を見ながら話をするように言われているが、実際に今までこれだけ見詰めながら話す子はいなかった。奇麗に整えた睫毛が閉じられる度に目蓋に散ったラメがキラキラと光る。
「会社にも近い所で探していたんですけど、やっと良さそうな物件が見つかったんです」
「良かったじゃないか。毎日通勤が大変だったし。去年は大雪で数日間有給も使ったりしてたから。安心した」
「そうなんですよね。通勤時間が勿体なくて。朝も早く支度しないといけないし」
「女性は特にお化粧もするし、身だしなみにも時間かかるから。近くなって楽にはなるね」
一年前の朱美の歓迎会でも一人暮らしには憧れていたから、両親をも説得したのだろう。
「両親も一人暮らし心配だろうけど、そんなに実家と離れてるわけじゃないから了解はしてくれてるんだろ」
朱美と同じタイミングでグラスを口に運ぶ。
「父も母も反対はしていないし、むしろ父は喜んでいるみたい」
「お父さんが喜んでるの。父親としては一人娘が一人暮らしするのは心配なんだけどな」
朱美は持っていたグラスを一気に飲み干した。
「田村さん、頼んでいい」グラスを持ち上げて聞いてくる。
「あぁ、飲みたかったら幾らでも頼んで」
朱美は注文が来るまで何も喋らなくなった。店員が持ってきた二つの酎ハイの片方を半分くらい飲み干してから、
「そこなのよ。父が喜ぶことが許せない。もうこれ以上父に支配されたくない」
私は朱美の言っていることが理解できずにいた。朱美の目元が潤んでいるのが見える。
「安井さんの言っていることが、良く解っていないんだが」
「私、父にレイプされているの。随分前から」
私の困惑する表情を見て決意するかのように朱美は早口で言った。仕事の合間も余りプライベートを話さない朱美だったが、定年になった父とは仲が良いと聞いたことがある。
「お母さんは知っているの」私は当然のことのように聞いていた。
朱美は首を横に振ると、グラスを取って喉に流し込む。
「知らないと思う。父は母の前だとそんなそぶりを見せないし、母が仕事なんかで居ない時に私を誘ってくる。中学校に入った頃から、体を触ってきたり、キスしてきたり。小さい時の記憶は余り無いからわからないけど、小学校の時は母も家に居たりしてたから」
私は、告白する朱美の顔を見詰めているしかなかった。
「高校へ入る前にレイプされたの。それからは、母のいない時を見計らって、体を求めて来た。だから、母が居なくなる予定があれば、極力外に出て行ったの。父と二人になるとまたレイプされるから」
「実の父親が、娘をレイプするなんて」
「実の父じゃないのよ。私が生まれてすぐ位に離婚して、一旦母の実家に帰って来たみたい。私が保育園に行くまでは、祖父母に育てられてたの。もう二人共亡くなってるけど」
朱美の頬を伝わり彼女の白いスカートの上に光るものが落ちていくのが見えた。朱美の相談事がようやく解ってきた。一人暮らしでもしようものなら、養父の思うがままにされる。
「何故、私に相談しようと」私は疑問を口にした。
「こんなこと同年代の人にも相談できないもの。警察にも行くこと出来ないし」
朱美は三杯目の酎ハイを手に取って、私と目を合わせて逸らすこともしない。綺麗で長いまつ毛をしている。潤んだ朱美の瞳に映る自分を見ていると里美を想い出す。朱美の目は里美に似ていなくも無い。酎ハイを飲むと彼女は見つめたまま私に言った。
「課長、私の事、気になっているんでしょ」
「田村さん、お帰りの所呼び戻して申し訳ありません」彼女は改まって言った。
「いや、いいんだ。ただ、若い者同士で楽しんでもらった方が良いかな、と思って」
私が朱美の少し戸惑っているような顔を見ながら言う。
「話があるなら何処か場所を変えようか。静かに話せるところがいいか」
私は、頭の中で行き場所を考えていたが、最近飲みに来ていないせいで良い場所が思いつかなかった。十数年前とは店も様変わりしている。駐車場から駅前に向かい、カラオケボックスに向かう。私だけでなく朱美の為にも、駅前のスナックや居酒屋で会社の関係者にでも見つかることを少しでも避けたかった。
数人の若者がカラオケボックスの入り口でたむろしていたが、知った顔はいない。私は朱美の前を歩いて先に入って受付をする間も朱美は私の後ろに立ったままでいた。
部屋に入ると、私はソファーに座ってメニューを開いた。
「取り敢えず、何か頼んでおくか」
朱美が部屋の電話を取り注文を言っていく。私は、ハイボールとつまみを、朱美は帰りを考えてノンアルコールを頼むと思っていたが、酎ハイを頼んでいた。頼み終わると、朱美は私の横に座って来ると、
「田村課長、少し話したいことがあるんだけど、聞いてくれますか」
朱美が珍しく自分から話題を振って来た。会社では、私の方から業務内容を伝える一方で、朱美からは余り意見も出てこないのが常だった。たまにプライベートの話を私がしても特に盛り上がった記憶はない。当然と言えば当然だし。それが普通だと思っている。
「安井さんから話なんて珍しいな。うん、いいよ。話して」
「でも、少しプライベートな内容なんで、秘密にしておいてくださいね」
「ああ、誰にも話さない。部下の事を吹聴して回る上司何て、信用できないだろ」
店員がドアを開けて机に注文の品を置いて出て行く。
「じゃあ、少し長くなるかもだけど」
そういうと、グラスの酎ハイを一口飲み静かにテーブルに戻す。
「私近々一人暮らし始めようと思うんです」
私は内心ほっとした。もっと悩ましい相談だったらと身構えていた部分があった。
朱美は私の目を見ながら話し始めた。目元を見ながら話をするように言われているが、実際に今までこれだけ見詰めながら話す子はいなかった。奇麗に整えた睫毛が閉じられる度に目蓋に散ったラメがキラキラと光る。
「会社にも近い所で探していたんですけど、やっと良さそうな物件が見つかったんです」
「良かったじゃないか。毎日通勤が大変だったし。去年は大雪で数日間有給も使ったりしてたから。安心した」
「そうなんですよね。通勤時間が勿体なくて。朝も早く支度しないといけないし」
「女性は特にお化粧もするし、身だしなみにも時間かかるから。近くなって楽にはなるね」
一年前の朱美の歓迎会でも一人暮らしには憧れていたから、両親をも説得したのだろう。
「両親も一人暮らし心配だろうけど、そんなに実家と離れてるわけじゃないから了解はしてくれてるんだろ」
朱美と同じタイミングでグラスを口に運ぶ。
「父も母も反対はしていないし、むしろ父は喜んでいるみたい」
「お父さんが喜んでるの。父親としては一人娘が一人暮らしするのは心配なんだけどな」
朱美は持っていたグラスを一気に飲み干した。
「田村さん、頼んでいい」グラスを持ち上げて聞いてくる。
「あぁ、飲みたかったら幾らでも頼んで」
朱美は注文が来るまで何も喋らなくなった。店員が持ってきた二つの酎ハイの片方を半分くらい飲み干してから、
「そこなのよ。父が喜ぶことが許せない。もうこれ以上父に支配されたくない」
私は朱美の言っていることが理解できずにいた。朱美の目元が潤んでいるのが見える。
「安井さんの言っていることが、良く解っていないんだが」
「私、父にレイプされているの。随分前から」
私の困惑する表情を見て決意するかのように朱美は早口で言った。仕事の合間も余りプライベートを話さない朱美だったが、定年になった父とは仲が良いと聞いたことがある。
「お母さんは知っているの」私は当然のことのように聞いていた。
朱美は首を横に振ると、グラスを取って喉に流し込む。
「知らないと思う。父は母の前だとそんなそぶりを見せないし、母が仕事なんかで居ない時に私を誘ってくる。中学校に入った頃から、体を触ってきたり、キスしてきたり。小さい時の記憶は余り無いからわからないけど、小学校の時は母も家に居たりしてたから」
私は、告白する朱美の顔を見詰めているしかなかった。
「高校へ入る前にレイプされたの。それからは、母のいない時を見計らって、体を求めて来た。だから、母が居なくなる予定があれば、極力外に出て行ったの。父と二人になるとまたレイプされるから」
「実の父親が、娘をレイプするなんて」
「実の父じゃないのよ。私が生まれてすぐ位に離婚して、一旦母の実家に帰って来たみたい。私が保育園に行くまでは、祖父母に育てられてたの。もう二人共亡くなってるけど」
朱美の頬を伝わり彼女の白いスカートの上に光るものが落ちていくのが見えた。朱美の相談事がようやく解ってきた。一人暮らしでもしようものなら、養父の思うがままにされる。
「何故、私に相談しようと」私は疑問を口にした。
「こんなこと同年代の人にも相談できないもの。警察にも行くこと出来ないし」
朱美は三杯目の酎ハイを手に取って、私と目を合わせて逸らすこともしない。綺麗で長いまつ毛をしている。潤んだ朱美の瞳に映る自分を見ていると里美を想い出す。朱美の目は里美に似ていなくも無い。酎ハイを飲むと彼女は見つめたまま私に言った。
「課長、私の事、気になっているんでしょ」
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