子猫マムと雲の都

杉 孝子

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第八章:雨の奇跡

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「それよりも、グリムが」
 マムは雲の上目掛けて急降下していきました。マムに続いてタカコ婆さんとピコも後に続きます。
 
 雲の上に着くと、羽を広げて休んでいるグリムと、気を失っているヴォルテンがいます。
「グリム大丈夫。羽が傷ついてるよ」心配して駆け寄るマムに、いつもの様に優しく答えます。
「これ位の傷大したことはない。大丈夫だよマム。それよりもヴォルテンを倒したじゃないか。よくやったなマム」

「ぼくだけじゃないよ」
 マムの後ろから、ヒマワリを齧りながらピコが姿を現します。
 
「ピコ、君たちが助けてくれたのかい」
 グリムは、ピコとタカコ婆さんに礼を言うと、ヴォルテンの方を見て困ったように言います。

「ヴォルテンをどうしたもんかな」
「しょうがない奴じゃ。私からきつく言っておくから、今回は許してやっておくれ」

 タカコ婆さんは、意識のないヴォルテンの首から『雨の鍵』を外すと、マムに差し出した。
 
「さあ、先にこれを持って長老達と雨の儀式を行うのじゃ」
「ありがとうタカコ婆さん。ピコ、グリム、先に行こう」
 そう言うとマムはふわふわの雲の上を駆け出しました。

 マムが『雨の鍵』を持って走り去るのを見送ると、ピコはヒマワリの種をぽりぽり齧りながらタカコ婆さんに話しかけました。

「婆さん、ヴォルテンはどうするんだよ?放っておくとまた何かしでかすんじゃないのか?」

 タカコ婆さんはヴォルテンの頭の上にそっと手を置き、目を閉じました。小さな囁きのような声で何かを唱えると、ヴォルテンの体から黒い煙のようなものがゆっくりと立ち昇り、消えていきます。

「これでよい。彼が持っていた闇の力は消え去った。目が覚めたら、きっと心を入れ替えてるはずじゃよ」

 ピコは半信半疑の顔をしてヴォルテンを覗き込みましたが、何も言わずに肩をすくめてヒマワリの種をまた齧りました。

 その頃、マムとグリムは『雨の鍵』を手に、雲の都の中心にある祭壇へと急いでいました。祭壇では長老たちがマムたちを迎える準備を整えており、大勢の妖精たちが集まって彼らを待っています。

「マム!グリム!」  
 長老の一人が両手を広げて迎えると、マムは胸を張って『雨の鍵』を掲げました。

「僕たち、やったよ!これでまた雨が降るようになりますよね?」

 長老は微笑みながら頷き、鍵を受け取りました。

「よくぞ取り戻してくれた。これから儀式を行い、雨の流れを元に戻す。そして、君たちの勇気は、この雲の都と地上の生き物たちにとって永遠に語り継がれるだろう」

 妖精たちが歓声を上げる中、マムとグリムは少し照れくさそうに微笑みました。ピコが遅れてやって来ると、ヒマワリの種を振り回しながら声を張り上げました。

「おいおい、ぼくの活躍も忘れんなよ!ぼくだって一緒に戦ったんだからな!」

 妖精たちは笑い声を上げ、マムたちに光の花びらを撒きながら儀式の準備を進めていきます。

 妖精たちが見守る中、長老が祭壇の中心にあるひと際高い場所に行くと、雲で出来たモニュメントに『雨の鍵』を差し込みました。長老が静かに手を広げると、祭壇の周囲の雲が青白く輝き始めました。

 その輝きは、まるで雲の都全体に生命が吹き込まれるように広がっていきます。『雨の鍵』が完全にモニュメントに差し込まれた瞬間、澄み渡る鐘の音のような音が空間全体に響き渡りました。

「始まるぞ、雨の再生の儀式じゃ!」  
 長老が力強く宣言すると、妖精たちは一斉に手を取り合い、古代から伝わる詠唱を始めました。その歌声は風に乗り、マムたちの心に直接語りかけてくるようでした。

 マムはグリムと顔を見合わせ、どちらともなく微笑みました。二人とも自分たちがこの大きな出来事の一部となっていることを実感し、胸がいっぱいになっていました。

 何処からか清々しい川のせせらぎのような音が聞こえて来て、マム達の足元が透明な水で満たされ始めました。白くモフモフだった雲は、十分な水分を含んで潤っていきました。やがて、最初の一粒が地上に落ち始めると、続けて雲の至る所から地上に雨として雫が落ち始めて行きます。

「見て!」  
 マムが指差した先では、雲から滴り落ちる雨粒が地上へ向かって落ちていくのが見えます。一粒一粒が光を反射し、まるで空から無数の宝石が降り注いでいるようでした。妖精たちは手を取り合って喜びの舞を踊り、長老たちも穏やかな笑みを浮かべていました。

 地上では、干上がっていた川や池が少しずつ潤い始め、枯れていた草花が新たな息吹を取り戻していきます。森に住む動物たちが歓声を上げるように跳ね回り、鳥たちは雨の中で翼を広げ、喜びの歌を響かせました。

 ピコはヒマワリの種をぽりぽり齧りながら、その光景を眺めて感慨深げに呟きました。  
「へえ、これが本当の『雨の奇跡』ってやつか。悪くないな」  

 タカコ婆さんは静かに頷き、どこか懐かしそうな目をして空を見上げました。  
「これが自然の恵みというものじゃ。雨は全ての命をつなぎ、潤すもの。忘れてはならんことじゃよ」  

 マムは空に広がる虹を見上げながら、グリムとピコに言いました。  
「ぼくたち、やったんだね。この雨がまたみんなを幸せにするって信じてるよ!」  

 グリムも嬉しそうに頷きました。  
「その通りだ、マム。これからもみんなの笑顔を守るために頑張ろうな」  
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